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英雄アラン?

「英雄アランって、どういう事ですか?」


 ユニスが、近くにいた冒険者に問いただした。

 冒険者は背筋をピンと伸ばし、言った。


「は、はい! あ、あの、アラン様一向は、メリルローズの救世主なのです! 長年、我々は魔獣被害に悩まされていました! それを、半月程前にこの町にやってきたアラン様一向が解決してくれたのです!」


 冒険者は、緊張と興奮の入り混じった声で言った。


「メリルローズは近くにある鉱山によって潤ってきた町ですが、数年前より厄介な魔獣が巣くうようになったのです! ギルドが算定した討伐ランクはA! メリルローズの冒険者では手に余る魔獣でした! しかし、それを見かねたアラン様が、討伐を買って出てくれたのです! 結果、討伐は見事成功し、アラン様はメリルローズに再び富をもたらしてくれたのです!」


 なるほど。

 それは完全に英雄ムーブだわ。


「あのお兄ちゃんが……! やっぱりお兄ちゃんはすごいんですよ! 時々はすごいんですよ!」


 ユニスが、感極まったのか目に涙を浮かべながら喜んでいる。

 私も何だか誇らしい気分になってきた。肉体的には私の息子であるアランが、町を救ったのだ。母性ってやつが、芽生えてしまいそうだ。


「それだけではないのです。Aランク魔獣を討伐して得た報奨金の半分を、ここ、冒険者ギルドメリルローズ支部に寄付して下さったのですよ! 長年、鉱山の魔獣に苦渋を味合わされてきた我々をおもんばかっての事です! なので、当面の間、ギルドの酒場は、飲み食い無料となったのです! アラン様は正真正銘、本物の英雄です!」


 おお。英雄ムーブが過ぎるぞ、アラン。


「町の中央広場には、アラン様の功績を祝して急ピッチでアラン様の銅像が造られました! そして、銅像の完成を待って、三日程前、アラン様一向は、次の目的地へと旅立っていったのです!」


 そしてアランは、メリルローズの伝説になった。みたいな? 

 すごいじゃん、アラン。

 天界にいるナーシャさんに教えてあげたい。あなたの息子は勇者とし立派に育っていますよってね。


「まつりさあぁーん! 私、お兄ちゃんの妹でほんとに良かったですうぅー!」

「ユニスよ。私も、アランの母親で良かったと思う」


 ユニスが涙を流している。アランの事で苦労してきた分、感慨もひとしおなんだろう。


「中央広場に行ってみましょう! お兄ちゃんの銅像、見たいです!」

「だね。めっちゃ気になるし」


 冒険者ギルトの受付嬢から今晩の宿を紹介してもらった後、私達は町の中央広場に行くことにした。

 中央広場に近づくにつれて、行きかう人々が増えてきた。通りには露店が立ち並び、まるでお祭りの最中かと思うほどだった。


「そういえばアランの奴。鉱山の魔獣だけじゃなくて、討伐依頼の出てた高ランク帯の魔獣を根こそぎ狩っていったらしいよ」


 酒場にたむろしていた冒険者の奴らが言っていた。そのおかげで今、メリルローズの冒険者ギルドにはほとんど魔獣の討伐依頼がないとのこと。

 冒険者にとっては、仕事がないため死活問題ではあるが、アラン達がギルドにたんまりと寄付してくれたおかげで、飲食には困らない。よって、暇だから酒場にたむろして昼間っから飲んでいたというわけだ。


「町が活気に溢れているのもきっと、アラン達のおかげなんだろうね」

「そうですよね! 私、お兄ちゃんの事見直しちゃいました! 早く、聖剣を届けてあげたいです!」

「ははっ。のんびり行こうって言ってたじゃん」

「だって、お兄ちゃんに早く会いたくなっちゃったんですもん」

「仲良き事は美しきかな、ってね 。――あっ、そろそろ中央広場だよ。アランの銅像って、あれじゃない?」


 中央広場には、アランの銅像目当てか、多くの人がいた。人だかりって程ではないが、台座の上に立つアラン像を眺めたり、祈りを捧げたりで、中々の盛況具合だ。


「ふふっ、見て下さいまつりさん。お兄ちゃんのポーズ」

「あはっ。アランの奴、格好つけてるつもりか知らんけど、持ってるのハロルドさんの杖だからね」


 台座の上のアランは、真正面をどや顔で見据えていた。中央で両手を添えて、ハロルドさんの杖をつきながら。


「まあ、雷の聖剣なしでよくやったよ」

「ですね。Aランクの魔獣ですと、私でも聖剣なしでは苦労しますもん」


 アランの銅像は、草の冠や花の首飾りで装飾され、台座のふもとには果物やらお酒やら、様々な供え物で一杯だった。


「――あ、あれ? 何で……?」

「ん? どうしたのユニス」


 ユニスが不意に、戸惑いの声をあげた。視線の先はアランの銅像――の下。台座辺りを見ている。


「女の子?」


 よく見たら、台座のふもとに女の子が座っていた。

 ユニスは、台座にもたれ掛かって俯き、三角座りをしている小柄な女の子に駆け寄っていった。


「セ、セリンちゃん!? え、何で? どうしてここにいるの!?」

「――あ。ユニス……ちゃん……?」


 セリンちゃんと呼ばれた女の子。聞き覚えがある。

 確か、アランと一緒に旅立った、神官の女の子だ。ユニスの友達だったと思う。

 ユニスは、セリンと目線を合わせ問いかけた。


「お兄ちゃん達と一緒に旅立ったよね!? 何で一人でいるの? お兄ちゃん達と一緒じゃないの!?」

「ううっ……」


 セリンの目に、見る見るうちに涙が溜まっていく。


「うわあああああぁーん……! わたし……わたし……!」

「ど、どうしたの!? え、え? お、落ち着いて、セリンちゃん!」


 セリンは、人目もはばからず大声をあげて泣き出した。

 私は、嫌な予感がした。


「……まさか、あいつ」


 予感が外れているといいけど、その可能性はたぶん低い。


「ううっ……。ひっく……! ユニスちゃん……わたし……」

「うん。どうしたの?」

「……アラン君に」

「お兄ちゃんが、どうしたの?」

「捨てられちゃったよおおおおぉー!」


 予感的中。

 アランの奴。

 やっぱり大馬鹿野郎だったわ。

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