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8050問題

 夜が明け、私は重い身体に鞭を打って、テントから出た。


「おはよう」

「あ、まつりさん。おはようございます」


 ユニスは見張りの疲れも何のその。

 鼻歌交じりで朝食を用意していた。


「ねえ、ユニス。私もう、野宿は勘弁なんだけど」


 見張の後、私はコロンと眠りに落ちたはずだが、昨日の疲れがまだ抜けていない。


「ええ!? 楽しいじゃないですか野宿!?」

「どこがよ!? 見張りの時は緊張しっぱなしだし、地面は固くて何か身体が痛いし! 全然疲れがとれないよ!」

「私は好きだけどなー、野宿。小さい頃から、お母さんとお兄ちゃんと三人でよくやってたんですよ。わざわざ魔獣の生息地まで行って。夜中の見張りの時に、誰が一番魔獣に襲われたか自慢し合ったりしてさ、楽しかったなー」

「あんたら家族は狂ってる!」


 魔獣に襲われて返り討ちにする事が、一種のアトラクションみたいになっている。家族の形はそれぞれだし、Z世代の私は多様性という言葉も知っている。

 でも、これはない。

 認めたら、人としてダメな気がする。


「うーん、そうですね……。だいぶ遠回りになりますが、宿場町に寄っていくルートもあるにはあるんですけど……」

「え。そうなの?」

「はい。街道に沿っていくルートを取れば可能です。街道は、町と町とを繋ぐ道ですよ? 丸一日馬で駆けて、宿場町がないなんて事は、滅多にないですよ」


 ちゃんと整備された街道があるらしい。それどころか宿場町さえも。

 であれば――。


「え。ってことは、今、私達は街道を外れたルートを進んでいるって事? なんで?」

「何でって、港町ポルトリースまで、なるべく一直線に行こうとすれば街道を外れてしまうのは仕方ないじゃないですか」

「いやだから、何で一直線で行こうとするのよ!?」

「最短かつ、最速で行くためですけど? きっとお兄ちゃんは聖剣がなくて困っています。一刻も早く届けてあげないと」

「……そ、そっか」


 ユニスが、私、何か変な事言いました? って顔をしている。

 ユニスは真面目だ。真面目だけど、彼女の常識は一般人とかけ離れているから、余計にたちが悪い。

 ここは、常識人の私がちゃんと教えてあげないと。


「あのね、ユニス。そもそも、聖剣を忘れていったアランが悪いんだからさ、ちょっとぐらい届けるのが遅れても文句を言われる筋合いはないわけよ」

「でも……」

「ナーシャさんとユニスでずっとアランの尻ぬぐいをしてきたって、前に言ってたじゃん。そういうの良くないよ。いつもいつも助けてたんじゃ、アランのためにならないよ?」

「そう、ですかね……?」

「このままじゃアランは将来、何もできない大人になっちゃうよ。私がいた日本でもね、親とか周りの人が過保護に扱っていたせいでさ、いつまでも親離れでできない子供が増えて問題になってたりするのよ。8050問題って言ってね、八十歳の親が、五十歳の子供の世話してんだよ? ありえないでしょ? でもね、マジな話、私の見立てではアランは間違いなくそうなるね。グランゼシアよりもずっと文明の進んだ日本で育った私が、そう思うんだもん。うん。間違いない。そうなったらさ、もうグランフォース家は終わりよ。勇者の家系じゃなくてニートの家系になっちゃうね。あ、ニートってゆうのは仕事もしないで食って寝るだけの奴ね。つまり未来のアランの事ってわけ。どう? 恐ろしいでしょ?」


 若干適当で多少暴論ではあるが、真実味のある風に、私は話した。


「甘やかしてばかりじゃだめ。もっと厳しくしないと」


 ユニスが、私の話を受けて青ざめている。


「……っ! まつりさん! 私が、間違っていました! そうですね、お兄ちゃんの将来のためにも、いつもいつも助けてばかりは良くないですね! 分かりました。これからは、もっと厳しく対応する事にします!」

「お、おう。分かればいいのよ、分かれば」

「何も知らない私に、新たな知見を授けて下さって、ありがとうございます!」

「大げさだなー」


 腰を九十度に折って、謝辞を述べるユニス。

 正直、チョロかった。


「今すぐ街道に戻ってのんびりと行きましょう!」

「今すぐ戻ってのんびりと!? う、うん。まあ、それでいいわ」


 そんなわけで、私達は街道を通る正規ルートで港町ポルトリースに向かう事になったのだ。

 やはり街道は快適だった。

 時折、休憩を挟みつつ私達は駆けて行った。

 日が暮れる前にたどり着ける宿場町に寄って、宿をとる。宿場町には、こじんまりとした村が多かった。駆けていくこと数日。それまでに、ちょいちょい魔獣にも遭遇した。整備された街道沿いには、魔獣は滅多にいない、けど全くいない事もない。

 無視して馬で駆け抜けていく事もできたけど、ユニスの正義感がそれを許さない。

 戦闘は、聖剣術の実戦稽古も兼ねてもっぱら私が担当した。

 マルス王国領に生息している魔獣は、比較的討伐ランクが低いものが多い。

 ユニス教官の元、私は初日の夜に遭遇したビッグソードディアの別個体の他、討伐ランクEの、牙が異様に立派なサーベルウルフや、討伐ランクDの、筋骨隆々で岩を投げてくるパワーエイプと、戦わされた。

 そして、旅に出てから十二日目。

 私達は、マルス王国領でも有数の地方中核都市である、メリルローズの町にたどり着いた。

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