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花に愛の水を  作者: 山芋
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育てる環境を作ろう

 老人の視点で進めます。



 街の隅にある小さな家に小さな子供がいた。その子は別の部屋にゆっくりと入ると寝ている老人に忍び寄る。


「おじいちゃ〜ん!朝だよー!!」


「ガハッ!いきなりお腹に乗るのは辞めなさい」


「おはよ〜おじいちゃん!」


「おはようサラン」


 頭を押し付けて撫でる事を強要してくる姿に苦笑いをしながらも、老人はゆっくりと撫でた。サランを引き取って以降、二人は一緒に生活を始めた。


 来た当初はそのまま家に入れるわけにも行かず、服屋で簡素なシャツとズボンを買った。家の外に昔奮発して買ったポンプで水を出し、軽く全身を水で洗う。


 水だけでも黒ずんだ水が地面にまず溜りを作る。その後に銭湯にある貸切個室を借り、全身を洗った。何度洗っても汚れが取れずに銭湯を出る頃には疲れ果てていた。


「それにしても女の子だったとは」


「早く食べようよ!」


 市場から仕入れた新鮮な野菜サラダに胡麻のドレッシングをかける。いつもはパン一つにスープを作る程度だったが、食べ盛りのサランの為に卵とベーコンも買った。


「美味しい〜」


「よく噛んで食べなさい」


 騎士になりたいと言う彼女にはテーブルマナーを教えた方が良いかもしれない。ただ、今は痩せきった体に肉をつける事を優先している。


 食べ終わると片付けを彼女が手伝ってくれる。その後に頭を撫でるのはルーティーンと言って過言ではない。


「おじいちゃん!いつ見に行けるの!」


「お昼の鐘が鳴ってから行こうか。それまで勉強だよ」


「楽しみ〜」


 知り合いから子供に勉強をさせるのに苦労していると話を聞いていたが、サランは楽しいのか進んで勉強をしてくれる。記憶力もよく、勉強を教える身としては楽をさせて貰っている。


「サラン、今日はお勉強が早く終わったら外食でもしようか」


「え!いいの!?」


「いつも頑張ってるご褒美だよ。何か食べたい物はあるかい?」


「ん〜〜!お肉の塊も良いし、定食屋さんも美味しそう………」


「歩きながら見るのも楽しいかも知れないよ?」


「うん、そうする!」


 勉強は基礎的な計算と文字の読み書きを教えている。高齢の兵士は事務仕事をする事もあり、商人と同じくらいの事は教えることができる。かつて頑張ったことが今の役に立つとは嬉しいものよ。


「ーーー終わったよ!」


「………全問正解だよ」


「いつもより集中できたから!」


「それじゃあ出かける準備をしようか」


 サランは男物の服を好み、シンプルな服装になっていた。私は同じような服にコートを身に付ける。


 街に出ると子供連れの家族がいつもより多くいる。


「あの人達も訓練観に行くのかな?」


「そうかも知れんな」


 老人一人で歩くと注目される事は少ないが、今はいつもより視線を感じる。視線の先はサランだと知ってはいるがむず痒さがある。


「おじいちゃん!私あの魚が食べたい!」


「そうか。ついでにお肉がついたサラダも食べようか」


 ベランダ席にサランを座らせて買いに行く。


「店主さんモチャン焼きを二つ」


「あいよ!二つだから五百銭だな!」


「これで」


「毎度あり!」


 モチャン焼きは特製のタレが魚の旨みを引き立て、川が近くにある街ではよく出されるこの国の名物料理。サランも喜ぶだろう。


「レーグバードサラダを二つ、一つは野菜多めで」


「二つで六百銭だよ。野菜は今朝安く仕入れれたからサービスしとくよ!」


「おお、ありがたい」


「是非、また来てね爺さん」


「来させてもらうよ」


 お昼を待ちサランの元に向かうと周りから温かい目で見られていた。楽しみで揺れながら鼻歌を歌っていたようだ。


「お待たせ。さぁ、お食べ」


「うわぁ……!美味しそう!」


 食前の言葉を言うとすぐにサランは美味しそうに食べ始める。その姿を横目に食べる料理はやはり美味しい。


 お肉が足りなかったのか物欲しそうにする彼女にお肉を渡したり、明後日から始める剣の練習の話をする光景は側からさ家族のように見えるだろうか?


 サラダの器を返してから訓練の見学に行く。


「お?ノーマルタンさんじゃないか」


「ケビか久しいな」


「また年老いた振りか?」


「充分年老いてるよ」


 門番をしていたのはかつての後輩だったケビだ。青年だった面影はなく、髭が立派に生えている中年になっている。


「そこにいるのは……いつも来てた子か」


「今は私の孫さ」


 驚いた顔をケビはしたが、嬉しそうにサランの頭を撫でた。


「よかったな。この人の孫なら断る理由はない。入って良いぞ」


「やった〜!」


 喜びの舞を踊るサランの姿を見てケビと一緒にほっこりとした。本当に『サラン』のような子だ。


「そうだケビ、頼み事を良いか?」


「ん?なんだ?」


「王都に手紙を送って欲しいんだ」


「良いぞ。でも、郵便屋には依頼できないのか?」


「残念ながら。昔の知人に渡して欲しい。お前はよく護衛として付くだろ?」


「今は偉くなって行かないことも多いが、ノーマルタンさんのお願いなら行くか」


「王都に行きたいだけだろ?」


「バレたか。ここは良い場所だが刺激が足りんからな。一体何処に手紙を渡しに行くのか今から楽しみだ」


「これを頼む」


 そう言って質のいい封筒をケビに渡した。


「任せてくれ」


 そう言って待ちきれないサランを連れて訓練の見学に入った。


 基礎訓練は公開日ということで事前に済まされ、今は模擬戦がメインでされている。素手から始まり、木刀、重りを付けての組み手、最後には刃が潰された鉄の剣と鎧をつけての模擬戦。どれも見慣れたものではあるが、馴染みのない者が見れば面白いだろう。サランも釘付けになっている。


(サランも将来的にはさせるべきだが………それは任せよう。剣術は早い方がいいか。私が基礎を教えよう)


 いずれ訪れる別れを考えれば悲しく感じるが、まだ先の事だと視線を訓練する兵士たちに戻した。年老いたせいか、酷く眩しく見えた。









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