第四話<実験室の攻防と確認事項>
コンニャクイモの下処理の作業を終え、時間経過を待つばかりとなったので、次に、研究するものを決めることにした。
「初めの提案で残っているものはキャッサバのみとなりましたが、どうしましょうか。ノヴァさんの話によれば相当危険らしいですが……」
とタリヤが話し始めると、
「そうですね……。コンニャクイモを見る限り、通常見られる10倍以上の含有量であったので……。これをキャッサバに当てはめると、1%以上、もっとひどい場合を想定して、10%だと仮定したら、その存在のみで、シアン化水素の気化に注意する必要があります。また、皮膚吸収の可能性もあるので、直接触ることもNGです。まぁ、完全防備でいるので、我々への被害は出ないでしょうが、遺物に頼りすぎるのも少し怖さがありますしねぇ……。活性炭でキャッサバ自体は栄養価が高いものなので食用にできれば大きいですが……。」
とノヴァが思考しながら、珍しく暗く語った。
「なぁ、お前まさか、これの機能を知らないのか?」
とドラフトを指しながら、エントが尋ねた。
「えぇ!実験室というものに疎いものでしてね。本ばかり読んできましたから。それでそのドラフトというものはどのような機能を持っているのですか?この問題が解決できるのですか?」
と、先ほどの暗さが嘘のようにワクワクした瞳で説明を待つノヴァである。
「いわば、換気装置だ。有害なガスを吸い上げるものだ。」
「そのまま換気しちゃうと、有害なガスがそのままで外に排出されてしまいませんか?」
と不思議そうにエントに尋ねる。
エントは、フィルターを指し示しながら、
「フィルターを通して、中で処理してから排出するものだから、それに関しては安心できる。シアン化水素の無害化に使われる薬剤は……」
ここで、遮るように、ノヴァが話し始めた。
「シアン化水素だけ分離できるなら、水に溶かして、それから、次亜塩素酸ナトリウムのような酸化剤を使用して、二酸化炭素と窒素に分解することができます。アルカリ性下で起こる反応なので、水酸化ナトリウムも使用されることが多いです。また、次亜塩素酸ナトリウムの代わりに、過酸化水素を用いることもあります。」
「そうか。なら、スクラバーに準備してから行なえば問題ないか。」
とその勢いに苦笑しながらエントは応える。
「スクラバーって何ですか?」
と、また、疑問符を浮かべながらエントに質問をした。
「ドラフトで吸い上げた気体を処理する中のもののことだ。」
と淡々とエントが応えた。
「なるほど!そこに先ほどの処理剤をあらかじめ入れておけば、いいんですね!」
「そうだ。」
と新しい知識を得た喜びを噛みしめるノヴァとその様子を静かに見守るエントであった。
少し落ち着いた頃に、イザーレがノヴァに問いかけた。
「ジャガイモのときやコンニャクイモのときにも使っていたのに、気づかなかったの?ノヴァちゃんは、そのときは、そんなに問題視してなかったのはどういうこと〜?あと、遺物での安全確保をすることの信用?がイマイチ低そうなのはなぜなのかな〜?」
とイザーレがノヴァに問いかけた。
「前半のお話は、単純にドラフトの存在には気づいておらず、また、問題視のレベルが低かったのは、調べる前にも言った通り、経口摂取しない限り、大きなリスクとなる可能性が低かったからです。今回のものはその比ではない、高濃度だと即死する可能性が高いので……。ハッキリとわかっているリスクに何も考えないのは不自然でしょう……?」
とそう考え込まずに、淡々と感じたことを話すノヴァに対して、遮るようにイザーレは、
「後半はどうなの?」
と、ノヴァの感情に対する好奇心を抑えきれずに問いかける。
「知っているリスクとよく分かっていない遺物の信頼性を比較すれば、前者に思考を引っ張られるのが当然だと思いますが……?まぁ、遺物に関する文献は読んで覚えていますが、仕組みが理解できない便利なものという認識で故障?などしたときに恐ろしいなと考えてだけです。」
と、いつも通りの口調に近くはあるが、やや困惑気味に返答するノヴァにイザーレは、
「遺物は、開拓紀以前から、つまり、200年以上も前から使用されているものなんだし、その頑丈さと機能から遺物による事故なんて聞いたこともないしね〜?タリヤさん?」
と遺物に最も詳しい人を味方につけようとしたが、
「そうね!今までの使用実績から私も問題ないと考えているけど、頼りすぎて、いざ使えなくなってしまったときは、ノヴァさんが言うように、少し怖くはあるから、依存しないように、なくてもいいけど、安全のため、念のためにという距離感の方がいいと思うわよ。メンテナンスはしてるけど、よくわからないことの方が多いですしね……。」
と、どちらの考えも受け止めるような返答をしたところで、
「1つ懸念点は解決した。もう1つ疑問があるんだがいいか?」
と、周囲を伺うように聞いたので、皆、促すような表情をしていたので、続け、
「転送されてくる量は、どうなってるんだ?今まで、5個ずつ箱に入っていたが、それは固定なのか?」
と疑問を投げかけるエントに、タリヤが、
「今の設定だと5個になっているみたい、変更できるから問題があれば、教えて!」
と答えた。
「大きさにもよるけど……、結構危険が大きいものだし、大きくなってそう……?」
と悩んでいるノヴァを見て、イザーレが、
「そんなにデカいものなら、1つでいいんじゃない?それか、大きさの指定とか出来ないの〜?」
とタリヤに問いかける。
「大きさの指定は無理みたいね。これは、推測してやってみるしかなさそうだわ。」
と、残念そうに答える。
「そもそも、大きい可能性の方が高いんだろ?危険物だし、実験台として、あくまで、サンプルを取るだけだから、量はいらないだろ。ゆえに、1本でいいんじゃないか?」
と、エントは、少し本質から外れかけていることに呆れつつ、提案した。
「大きくなっている可能性が高いのはその通りです。」
と、ノヴァがしっかりと返事をしたが、イザーレが、
「個体差の確認が必要なんじゃないかな〜?量がそんなにいらないのは、その通りだと思うから、2本か、多くても3本?」
と新しい提案をした。
「確かに、個体差の確認は重要だ。念の為、3本がいいと思うがどうだ?」
とその提案にエントも賛成した。
この場にいる全員が同意を示したので、
「では、3本に設定して、転送するけどいいわね?箱から、毒が漏れることはないようだけど、念の為、遺物の着用をしておいてね!」
と、タリヤは声をかけて、キャッサバを転送するのであった。
長編として投稿予定ですが、ストックが少ないため、途中ですが世界観や雰囲気を先にお届けします。更新は不定期ですので、気長にお付き合いください。