第一話<プロジェクトの始動と挨拶>
講演会を聞き終えた私たちであったが、こういった場での講演会は、ほぼ定型であるのが今の通例である。というのも、この世界の常識である現状を、今一度確認し、認識のズレをなくすことが目的となっているものだからだ。私たちは、研究員として、これから、講演会の語り手をされていたタリヤ先生の新プロジェクトの参加者となる。通例では、講演は、事実だけ並べてすぐに終わるものである。というのも、この惑星<ビバ・テルース>が、人類を目の敵にしており、いつ、間違った情報を流しているかわからない。そのため、新プロジェクトなど何か新しいメンバーを招集する場合、必ず、この歴史の確認を行なわなければならない、と法令で定められている。
しかし、今回の講演会では、新たな試みとして、一般の聴衆も参加可能であった。現状に関しては、把握していない人の方が珍しく、わざわざ聞きたがる人もいないし、場所の確保も難しいので課題が多く、そんな面倒なことをするより、早く研究を進める方が効率的だから当然だ。初の試みということもあり、興味を持った人も多かったのか、人が集まったのは意外だった。まあ、無知な人も大歓迎というスタンスだったらしいので、子供連れが多かったのはご愛嬌だろう。私が、講演を聞いた感想は、聞き飽きているはずの話でも聞き惚れるくらいストーリーとして構成されており、一般にも聞かせたいということが伝わってきた。
しかし、なぜ、この取り組みをしたのか気にはなっていたのだが、講演を聞いて納得した。食糧問題か。現在、食糧は、栄えていた頃の備蓄を、機械により、適正量、全員に行き渡るように配給しており、量は、あまり知られていない。というより、意識する余裕がないのだ。おおよそがシェルターのようなところに隠れて生き延びている現状だから仕方もない。ともかく、詳しい話はあとであるだろうが、おそらく、1ヶ月程度で食料の問題を解決しなければならないのだろう。どういう意味で1ヶ月なのかは、わからないが。
私たちは、解毒の研究とだけ知らされていたので、こうも重いプロジェクトだとは思わなかった。混乱を起こさないために伏せられていたのだろう。とここまで考えてきたが、タリヤ先生はきっとすごく優秀な人だ。普通、目につかない食糧問題に気づき、それとなく大衆にもこの話を伝えた。きっと、プロジェクトが成功したとしても、いきなり、今の世界にあるものを食べろと言われて、躊躇なく食せる人はほぼいないだろう。そこにも配慮できるのは素晴らしい。
講演をトレースするのもそろそろ終えよう。私、ノヴァは公演などを思い出す時は、語り手の思考に限りなく近づけて、思い出している。それはともかく私たちは移動が終わり、研究室に到着し、改めて、話を始めるタリヤ先生であった。
「新プロジェクトのリーダーとなったタリヤです。先ほどの講演でも少し触れましたが、食糧の残りが少ない状態になっています。今の惑星の環境で食用にできる物があるとは思えないので、こうして、プロジェクトを立ち上げました。期限は約1ヶ月くらいでしょうか。実際の量を考えれば、もう少したくさんありますが、食用にする心理的抵抗を考えて、配給の際に少しずつ今の惑星の物を増やすというような形に移行していきたいと考えているため、食べられるものを1種類完成させるという意味での期限です。そのあともプロジェクトは続きますので、理解のほどお願いします。では、みなさん、自己紹介ということで、改めまして、私は、タリヤです。技師として、遺物、特にロボのメンテナンスをしています。データの分析にも強いので、このプロジェクトでの担当分野はそちらも行なうことになると思います。次の人は……」
「はい!……コホンッ。では、私から始めさせていただきます。ノヴァと申します。私は完全記憶能力を持っており、この世界で発見されてきた物質や理論などさまざまなことを覚えています。おそらく、このプロジェクトでは、その知識を多く提供することでしょう。考察や理解のような複雑な思考は苦手なので、皆様には、その辺りをお任せすることになるでしょう。しかし、覚えているだけの知識もありますので、説明を求められても困ってしまうことが多々あると思います。ご容赦ください。私からは以上です。皆様、よろしくお願いいたします。では、次の方、お願いします。」
「誰もやらないなら俺がやるか。エントだ。解剖学者として、このプロジェクトに参加する。医者としてもまあ、やれなくはないが、そっちは期待しないでくれ。みなさん、よろしく。」
「医者つながりで私がしま〜す。医者、特に、解毒治療要員として、参加させてもらうことになったウィサで〜す。毒に曝露されちゃったときのために呼ばれました。なので、私の出番はなるべくないようにすごしてもらいたいところで〜す。もちろん、必要になったときは、しっかり対応させてもらいま〜す。準備も大事なので実験をするときは必ず教えてくださいね〜。みなさん、よろしくおねがいしま〜す。」
「緊張して話せない人がいるみたいですので、私がやります。みなさん初めまして。イザーレと申します。……と堅い感じで話すのは苦手なので、ゆる〜い感じでいかせてもらいま〜す!生物学者、なんだけど、知識の宝庫みたいなノヴァちゃんがいるなら、多分、俺は、思考実験とか、どんな実験するのかなんかを決めて、データを確保するために参加するんだと思いま〜す!実験大好きなので色々楽しみにしてま〜す!よろしくお願いしま〜す!最後に残っているビクビクしてる君〜?トリをお願いするけど大丈夫〜?」
「わかりましたっ。僕、……、僕は、薬学者として、プロジェクトに参加するヤークです。……好奇心の詰め合わせみたいなワクワクした人が2人も、しかも、実験決定権?まで持っている?ようなので、おそらく、ブレーキ役として、安全管理を任されることになると思います……。常に最悪を想定するのが、僕の仕事だし、いつもそうして生きているので、このプロジェクトの安全は僕が守りますっ……。臆病で人見知りだけど、みなさん、よろしくお願いしますっ……。」
「全員の自己紹介も終わったので、これからの流れとそれぞれの役割を説明します。まず、現在、特殊部隊に食用になりそうな毒性生物の捕獲を依頼しています。捕獲してもらったその生物をここにある遺物の毒検出器を用いて、その毒の含有情報を確認します。おそらく、とんでもない量の毒が含まれていると思います。危険度が少しでも低い種類のものを探して、エントさんに解剖してもらい、部位によって、食用になりそうなところはないか、調べてもらいます。そのときにも、この着用型の遺物を使用するので、私もご一緒します。そして、成分次第では、解毒できないか、ということをノヴァさん、イザーレさん、ヤークさんの3人で考察、実験をしてもらう役割を任せます。その過程において、体調などに異変が出た場合は、迷わず、ウィサさんに診察してもらうようにしてください。おおむね、みなさんが推測されていた通りです。また、始動した身として、リーダーということになっていますが、立場気にせず取り組んでいきましょう。プロジェクトについてやお互いのことについて、質問ある人はいますか?」
エントが、挙手をした。
「毒性生物が届くまで何をするんだ?また、薬品はどの程度揃っているんだ?最後に、毒の曝露を防ぐ手段はあるのか?」
「毒性生物は、明日には届く予定なので、特に問題はありません。薬品に関しては、開拓紀以前から保管されている分がロボにより管理されています。あとで全員にリストを渡すので確認してください。最後の問題については、この防護用装備の遺物によって解決できます。他にはありませんか?」
今度は、ヤークがおそるおそる手を挙げて、
「……、いくら解毒しても、毒が再生成……?のようなことが起こる可能性はないでしょうか?急に強くなったという……データから、……惑星の加護のようなもの……?があってもおかしくはないでしょう……?」
「考慮する必要はほぼないと考えています。理由は、明日には届くと連絡が来ていることから、なんらかの手段で毒性生物を殺すことが可能であるということ。このことから、完全に理不尽の権化というわけではないということがわかります。力に上限があるなら、毒の量にも上限があると考えるのが妥当であると考えています。」
ややあって、イザーレが飄々と手を挙げ、おちゃらけた雰囲気でこう告げた。
「プロジェクトメンバー間の恋愛はOKですか〜?」
タリヤは淡々と、
「プロジェクトに支障をきたさないなら、問題はありませんが、あまり良いことではないので、プロジェクトが完了してから発展させることを推奨します。」
「りょ〜かいっ!」
と懲りてなさそうな表情で応えるイザーレであった。
しばらくたって質問がなさそうだったので、
「これで第1回の集会を終わりたいと思います。みなさん、改めて、プロジェクトのスタートよろしくお願いします。」
と、顔合わせを終えて、明日には届くであろう毒性生物の実験のために準備を整える私たちであった。
長編として投稿予定ですが、ストックが少ないため、途中ですが世界観や雰囲気を先にお届けします。更新は不定期ですので、気長にお付き合いください。