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城妖精のお仕事


 リアムの主人であるシリシアンの朝は遅い。


 日没きっかり1時間後、完全に密閉された棺の鍵を開けるのが城妖精トップ、リアムの大切な仕事であった。


 執事の黒服をきっちり着こなし、首から宝飾性の高い鍵を、ポケットには金色の懐中時計ひとつを忍ばせている。


 そして腰には鍵の束。


 リアムは懐中時計を開き、時間を見ながら石積みの螺旋階段をぐるぐると下りていく。



 ヴァンパイアは首をはねられ、杭で心臓をひと突きにされ、だめ押しに日の光を浴びせると、完全に灰となり死ぬ。


 なので、寝ているところを襲われるのが本当に何よりも恐怖らしいのだ。


 この寝室へ来るまでには、何個もの鍵と、トラップを無効にする魔法、使命感と責任感、そして何よりも主からの絶大な信頼感を得ている、という「証」が必要であった。


 その他にも、聖水やクロスしているものや、にんにくが微妙に嫌だったりするらしい。が、それらはあくまでも嫌いなだけであって死に至るものではない。




「シリシアン ヴァルチェンシュタイン フルブラン伯爵」


 この長たらしく舌を噛みそうな名前が、リアムの主様(あるじさま)の正式な名前である。


 千年以上続く古参ヴァンパイア一族の血を薄く引き継ぐフルブラン伯爵家の末っ子で、齢にして18歳と若い城主である。



 シリシアンの1日は、グラス一杯の血液から、ではなく一杯の水から始まる。


 彼は蝋燭の沢山灯るバスルームで、猫脚の椅子に座り、ボサボサに寝癖のついた髪のまま、熱心に歯を磨いている。


 歯ブラシでシャカシャカと特に念入りに2本の牙を磨く。


 あの日……もう3ヶ月程、日々は過ぎただろうか。


 牙を失くし、もう太陽の日を浴びて死ぬしかない、というシリシアンを救ったのは、この小さき翅を持った下級妖精のリアムであった。



 たまたまドレスのレースに引っ掛かっていた牙を見つけ、接着の妖力で元どうりに、シリシアンの歯の根本へくっ付けてやっただけの話である。


 しかも、牙を折った原因は他でもないリアムである。


 しかし、シリシアンは命の恩人とリアムを崇め、何でもすると約束したリアムの願いを聞いたのだ。


 そして、リアムはまんまと一晩にして、シリシアンの側に使える城妖精と成り上がった。



「どうぞご主人様」


 リアムが皿に乗せたグラスを差し出す。

 消毒液入りの水だ。


 腕には日光消毒したフワフワのタオルが用意されている。


 あれ以来シリシアンは神経質過ぎるほどに牙を大切にしている。

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