吸血鬼のボン掴まえた
男は仕立ての良いズボンのポケットから、スルッとハンカチを取り出すと顔を拭いた。
シルク生地に細かい刺繍の施された繊細な手仕事によるものだ。
男のミルクティ色のサラサラヘアーが艶々と輝いている。
先程金色に光っていた目は、深みのあるグリーンアイで、肌は陶器のように白い。
くすみもシミもホクロも髭も毛穴も一切ない。
ツルッツルである。
真っ直ぐな高い鼻筋に、ローズカラーのぷっくりとした唇。
なんて、ビューティフルなんだ……。
リアムの語彙力ではそれが最大限の賛美であった。
男、といってもまだ10代かそこらだろう。
「あ、あああ!」
突然、男が慌てふためき辺りを見回している。
「何か落としたのか?」
リアムが声をかけると、顔面蒼白、いやもう青に近いって顔色でリアムを見た。
すがるような目だった。
「牙が……」
男が口を開け人差し指で唇を押し上げた。
右側の牙が折れて失くなっている。
「あ、折れちゃってるね」
「どうしよう、どうしよう……もう終わりだ。死ぬか、このまま朝を待ち、太陽の光を浴びて死ぬしかない……」
え、なんで牙一本失くなった位で死ぬん?
ていうか、お前のせいだぞリアム。
草むらを掻き分け必死にその牙を探しているらしい男を、リアムはキョトンと眺めている。
「牙は失くしたら、二度と生えて来ないんです……牙のない吸血鬼なんて……勘当されてしまう」
ちょっと、待て。
今、なんて言った?
勘当されたら、お金が貰えないじゃないか!!
それは避けるべき!!
探せ、探せ、歯を探せ!!
リアムも地面に這いつくばり草むらをかき分け血眼になって探す。
リアムの労働の原動力は目下のところ全て金である。
こんな時に「失くし物を見つける妖力」があればすぐなのに。
残念ながらリアムにはその力はない。
同じお針子妖精の中にはこの妖力を持っていた同僚がいて、まち針や針が失くなるとよく探しだしてくれたものだ。
なんと、針一本失くしても給料からカットされるようなケチケチ職場だったので、皆からとても有り難がられていた。
あの子は今どうしているだろうか……
ふっと、ドレスのスカート部分に目をやると、何か光るものが見えた。
もしや……
「ねぇ、牙を見つけたら何をくれる?」
「なんでも、僕に出来ることなら」
「本当に?」
「約束する」
「絶対?」
「絶対に、棺に誓って」
棺に誓って……?
***(°Д°){ 棺って?!}