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主様はモンスター

 

 燭炎の届かない部屋の角、そこに浮かぶ不気味な卵の形をしたもの、あれはなんだろうか、とリアムは考えていた。


 黒い天鵞絨(ビロード)のような艶やかな皮膜に包まれている。


 リアムの「怪物」という言葉か、声か、または単純に音、に反応したのかもしれない。


 それの細長い骨と、また隣の相似する骨との間をつなぐ天鵞絨の膜が徐々に伸び始めた。


 傘のような末広がりの蛇腹は左右対象に半分ほど開いたところで、二方の壁に妨げられてとまる。


 皮翼(ひよく)が開いたことで隠されていた内側が僅かに見えた。

 黒く滑らかな長毛に覆われた頭のようなもの。

 頭には捻れた短いツノと三角形の耳が生えていた。


 蝙蝠かヤギか?


 リアムにはそう見えた。


 今までに見たこともない怪物だったが、自分が見たことのある生き物を使って例えて説明するならそうだった。


 ヤギ顔の下には人のような毛だらけの身体があり、2本の足は天井に向かって伸びている。


 逆さまにぶら下がる蝙蝠と同じ格好だ。


 ヤギに似た顔には丸いふたつの目があった。

どこか頼りなく、どこか不安そうに宙を見ている。


「おぉ、おい、蝙蝠ヤギ!」


 金色の光彩を縦に貫く黒いオーバルシェイプの両眼がぐるりと動いてリアムを捉えた。


 そこで、リアムはやっと気づいた。

 その怪物がシリシアンの着ていたガウンの一部を身につけていることに。


「……シリシアン、嘘だろ、君なのか? 蝙蝠ヤギが? なんで、どうして??」


 その声に蝙蝠ヤギの怪物が、バサッと皮翼を震わせ、口を開いた。


 その真っ赤な口のなかに大きく尖った牙が二本あるのをリアムは確かに見た。


 その直後、蝙蝠ヤギは背後の壁を蹴り、リアムめがけて勢いよく飛んだ。


 リアムは蝙蝠ヤギの突然の攻撃をまともにうけて吹っ飛ばされ、石壁に背中と頭をぶつけ意識を失った。


 暫くして、リアムが目を開けたときには、蝙蝠ヤギは部屋から消えていた。


 鉄の扉は半分がグニャリと飴のように曲がっている。


 その扉を見てリアムの胸は騒ぎに騒いだ。


 リアムがシリシアンの部屋へと急いで戻ると、そこで血相をかえて右往左往しているウソラと鉢合わせた。


「ねぇ、あれが本当にシリシアンなの?!」


「まったく、いったい急にどうしたっていうんだい。ルルベラ様には使いを送ったから、すぐに返事をよこすか、いらっしゃるはずだけど……」


 ウソラはリアムの問いを無視してひとりで話している。


「ねぇ、シリシアンはどこ?? どこに行ったの??」


「おそらく……」


 ウソラは満面の笑みを浮かべリアムを見て答えた。


「人間を狩りに、人間の住むエリアに行ったんだと思うね」


「人間を狩りに、だって?」


「そうさ、ファーストキルだよ。喜ばしいね」


「初めて人の血を吸うってこと? 吸いに行ったってこと??」


「心配はいらない。シリシアン様ならきっと上手くやり終えるだろうさ」


 ウソラは黒い眼を爛々と輝かせ微笑んでいる。


「……」


 ウソラはとても喜んでいるが、リアムは何故だか気が重かった。


 リアムは城のバルコニーへと上がった。冷たく強い夜風がリアムに当たる。

 目を凝らし、蝙蝠になったシリシアンの姿を、星の間に探したが、その姿を見つけることはやはり出来なかった。


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