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明日を見つめて  作者: 砂名
4/7

告白

 明日は2年生の最後の期末試験。だが子供がインフルエンザになり試験は休まなくてはいけなくなった。理恵の成績は優秀で休んでも何の問題はなかったが、理恵は仕方ないと思いながらも試験を受けられない悔しさがあった。



(今日の教科は自信あったんだけどな。園山先生にも100点撮ります!!って宣言してたのに……)



 子供の看病をし、やっと子供が寝て落ち着いた時、携帯がなった。学校からのメールだった。メールを開くと泰人からのメールだった。



──大丈夫。元気出してください。



 その一言だけだったが、泰人が私がどれだけ理恵が落ち込んでいるかわかっている。その気遣いに胸を打たれた。

 その後、子供の体調も良くなり追試を受けることになった。追試は私1人だけだったので小さな会議室を一つ借り行うこととなった。



「試験は今日で終わりでしたっけ?」

「はい。子供の体調も良くなったので。ちょっと羽を伸ばそうかと」



 理恵がへへっと笑う。



「子供さんは?」

「義理の母が子供達に会いたいって言ってくれたので昨日から預けてます」

「飲みに出るの?」

「はい!!テスト終わったら街に出ようと思います!!」

「うん!!じゃあ、飲みに出ましょう!!」



 会話が終わると、タイマーがセットされ試験が始まる。2人きりの静かな時間が流れる。泰人も理恵もどことなく落ち着かなく。理恵が試験用紙から目を離し泰人を見ると、泰人も理恵を見ていた。

 タイマーが鳴りギリギリまで粘った理恵はフーと息を吐いた。



「粘りましたね。自信はどうですか?」



 泰人は目が悪いので解答用紙を覗き込むのも近づかないと見えないので、必然的に泰人の顔が理恵に近づく。



「──ケアレスミスがなければ、100点は取れると思います」

「お、さすがですね」



 理恵は近くにある泰人の顔を見て少し胸が高鳴った。



「じゃあ僕は解答用紙を片付けてきます。お疲れ様でした」

「お疲れ様でしたー」



 理恵は筆記用具を片付け、会議室の電気を消すと学校から出て駅に向かおうと足を向けた。



「中島さん」



 後ろから泰人の声がした。よほど急いで出てきたのだろう。コートを腕にかけ小走りで近寄ってきた。泰人は理恵の隣に付いて歩き出した。



「中島さん、飲みに行くんでしょ」

「はい、電車で街まで出て」

「僕も一緒に行っていい?」

「え?いや、いいですけど。在校生との学校外での交流は禁止ですよね」

「まぁ、ちょっとね。街じゃなくて郊外で飲もう。そしたら見つからないし」



 まぁ、先生がいいなら……と理恵は先生の案内で区外にある居酒屋さんに向かう事にした。

 居酒屋に入るといい匂いが鼻をかすめる。いつもは満席ですぐには入れないようだが、丁度一組食事が終わったようで、すぐに席に着くことができた。

 泰人は嫌なことがあってどうしても誰かと飲みたかったと話し、自分の事や日常の事など色々なことを話してくれた。泰人の会話は面白く、理恵が喋らなくても何時間でも聴いていられた。



「そういえば、先生の眼の病気ってどんな病気なんですか?」

「んーそうですね。眼には角膜ってあるでしょ」

「目玉の一番表面の部分ですよね」

「そうです。僕の眼はその角膜が前に突出してきて、歪んで見える病気です。視力の低下もあって夜なんかは、ほとんど見えません」

「でも、さっき普通に歩いてましたよね?」

「光なんかは見えますから、どこが歩道かとかはわかりますけど、全然電灯がないところとか、歩き慣れない道は怖いですね。……あと、夏なんか日差しが強いのも目が痛くてサングラスとかかけないと外を歩けないです」

「治らないんですか?」

「進行したら角膜手術っていう手もありますが。僕にはそんな勇気はありません……」



 閉店の時間が近づき時計を見ると10時前になっていた。会計を終えて外に出るとヒヤッとした空気が頬をかすめる。お酒で熱った顔には心地よかった。

 店から出ると泰人は1人で帰れると言ったが、理恵は自分が飲みに出ると言ったから遅くなったと言い、近くの駅まで一緒に歩いて帰る事になった。

 帰り道、閉店間際で盛り上がっていた話の続きをして盛り上がってると、後ろから光がちらっとみえ自転車が近づいてきた。



「危ない!!」



 理恵はとっさに泰人の手を握り自分の方へ引き寄せた。自転車は2人の脇を通って去っていった。理恵がすいませんと握っていた手をほどこうとすると、泰人は強く握り返し無言で歩き出した。

 泰人の足は駅には向かわず、近くの公園へ向かって歩き出した。泰人は馴染みの居酒屋で飲んでいたので、公園の位置も大体把握していた。



「さっきは、ありがとうございます」



 公園に着くと泰人は口を開いた。理恵は緊張で冷たい手がさらに冷たくなっていた。

 理恵はイエ……と片言で答えた。



「僕、年下ですししっかりしてるかって言われたら、してないと思います。目に障害もありますし……でも……あの……ずっと、好きでした!!クラス担任になって初めて見た時からずっと気になってて……。人としてはダメかもしれないですが、中島さんを好きな気持ちは誰にも負けません!!」



 理恵は恥ずかしく下を向き小さな声で、はい。とだけ答えた。

 泰人は本当に?本当に?としつこく聞いてきた。その度に理恵ははい。と返事をする。泰人は尻尾があったらちぎれるのではないかと思うくらい全身で喜びを表現して理恵を抱きしめた。そして泰人の顔が理恵に近づくと優しくキスをした。

 理恵は驚いた。



「先生……前にキス苦手って……」

「あ……なんか……理恵にはしたいと思って……理恵とは大丈夫みたいです」



 理恵が恥ずかしくなって、また下を向くと



「あ、ごめんなさい。名前で呼ばれるの嫌でした!?僕、彼女が出来たらずっと名前で呼んでみたくて……」



 あたふたしている泰人をみて。理恵は可愛く、愛おしく思えた。そして大丈夫です。というと、また犬のように喜び今度は人目もはばからず激しくキスをした。

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