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明日を見つめて  作者: 砂名
2/7

意外

 夏休みが終わると本格的に文化祭の準備が始まった。泰人は文化祭の実行委員でほとんどクラスの話し合いには参加していなかったが、無事焼きそばを作ることに決まった。

 それからは、買い出し係を決め道具の用意など、準備の期間はあっという間に過ぎていった。

 本番前日、バタバタしていたクラスも明日の文化祭に備えてと早めに解散となり、教室は理恵1人になっていた。



「あれ?まだ帰ってなかったんですか?」



 下校じこくになり、教室のエアコンが切れているかの確認で見回っていた泰人が声をかけた。



「あ、もうそんな時間なんですね。明日の焼きそば私が調理役なので、確認しておこうと思って」

「へー、塩ですか?ソースですか?」

「ソースです。いつも家で作っている焼きそばで隠し味に色々入れて……。先生も仕事の合間に食べにきてくださいね」

「楽しみです。そうします」



 文化祭当日、思っていた以上の反響で理恵のクラスはわちゃわちゃしていた。至る所で、あれどこー、男子働いてよなど活気がある声が聞こえた。学園祭はチケット購入制なので先にチケットを買って学校内に入るようになっている。なので、お金でわちゃわちゃすることはなくスムーズに受け渡しができた。

 やっと落ち着いたのは文化祭メインステージで仮装大会が始まる前だった。理恵は里奈が買ってきてくれたフランクフルトを頬張りながら、一息ついていた。

 仮装大会が終わった頃になると、今度は綿菓子などのおやつ系のお店が忙しくなる。理恵たちも早めに買っておいたりんごあめを食べながら、クラスの若い女の子たちと女子トークをして楽しんでいた。



「お腹すいたー」



 泰人がお腹をさすりながら入ってくると、きゃーっと黄色い声が沸き起こった。理恵も何事かと振り返り泰人を見ると、長い黒髪に薄い水色の長いワンピースを着た泰人がいた。

 理恵も一瞬わからないくらい、綺麗な女性が立っていた。



「先生!!めっちゃ可愛い!!」



 女の子たちが先生に近寄る。ありがとうございますと照れている泰人は女性より女性のようだった。看板娘にすればもう一儲けできそうだと理恵は思った。

 泰人は、ポケットに手を突っ込み、朝に購入していたチケットを取り出した。



「仮装大会の司会をしてたので昼食べてないんです。焼きそばください………300円でしたっけ?」

「うちのクラスの先生なんだからタダでしょ。タダ」



 若い女の子たちがいうと、良いんですかと理恵に目を向けた。理恵も当たり前でしょと、焼いた焼きそばを手渡した。

 店の中に入り、椅子に座ると割り箸を割り食べ始めた。



「うまっ!!」



 泰人は思っていた以上の出来に声を上げた。



「これ中島さんが作ったんですか?めっちゃうまいです!!」

「ですよ」



 理恵は泰人の反応に素直に喜んだ。

 文化祭が終わり片付けが始まる。泰人は実行委員で片付けには参加できず学校の見回りをしていた。片付けをしながらクラスの女の子たちが楽しかったねー、園山先生やばくなかった?など、楽しい雰囲気で文化祭当日は終わりを迎えた。



***



文化祭が終わると秋もあっという間に過ぎ去り、薄めのコートでは寒さを凌げなくなった頃。テレビでは紅葉が見頃を迎え、街の並木道にはイチョウの木が色づきデートをする若者が目に付く。

 理恵は泰人と自習室で2人になっていた。里奈は例に漏れず彼氏とデートという事で10分前に楽しそうに出ていったところだった。

 理恵は、はぁとため息をつき──



「先生はクリスマスどうするんですか?彼女と過ごすんですか?」



 理恵の質問に泰人は少しムッとし



「僕に彼女がいると思いますか?」

「え?いないとは思いませんけど?」

「こんな、コミュ力低い男に魅力なんてありません……」

「ん?先生は魅力ありますけど………私が落ち込んでた時も気にかけてくれるし。期末試験落ちそうな子にも時間さいて教えてたりしてたじゃないですか。先生ほど生徒の事考えて自分を犠牲にしている人いませんよ……。てか、先生がコミュ障だったら、世の中のコミュ障から非難轟々ですよ!!」

「一応、告白されたことは……あるんですけど……。他人とキスするのが苦手なんです。なんか……気持ち悪いっていうか」



 泰人が恥ずかしそうに話す。理恵には意外だった。

 頼りなさそうには見えるが、それなりに容姿は良い。目が悪いと言っても、専用のコンタクトをつけているので二重の顔が強調され、かっこいいというよりはアイドル的な可愛い顔をしている。そのおかげで文化祭の時も化粧映えしたと言っても過言ではない。里奈も彼氏がいなくて、障がい者じゃ無かったら絶対アプローチしていると話していた。

 ただ、ことの歳で彼女ができないのは、すごいコミュニケーションが取れるのに根暗なことや、付き合ったらキスをしなければならないという強迫観念に囚われてのことなのだろうと理恵は思った。






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