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読み切り

終わりゆく仮想世界にて

こういうお話読むのは好きです。




 

 §

 その世界の街や自然は現実よりもずっと美しいものが広がり、人々の生活はとても活き活きとしていた。狩猟、探索、建築、工芸、商業、音楽。人々はそれのぞれの好きな分野で生活することができた。かつては『楽園』と呼ばれていたその地に、一体の新しいアバターが降り立った。黄昏時の草原に降り立ったそのアバターは周囲を軽く見回した。褐色の肌に程よく筋肉の付いた肉体、頭はスキンヘッドで左目の下には3本の獣の爪痕がある。白髪まじりの無精ヒゲから推測して中年の男性のような顔に見えた。

「……久しぶり」

 アバターはその世界へ向けて呟いた。この世界はこれより半年後、消滅する。


 ---tips---

『楽園』へようこそ。この世界は中世ヨーロッパが舞台のファンタジーゲームです。武器をとって戦士となるか、杖をとって魔法使いとなるか、冒険の可能性は無限大!!新型超高性能AIと開発陣による『楽園』の世界をお楽しみください!!

 ----------


「チュートリアルはスキップで」

 スキンヘッドの男は何もない空間にむかって話しかけた。

【かしこまりました。それでは『楽園』の世界をお楽しみください】

 男にしか聞こえない音声が若い女性の声色で流れる。

「あ、ナビの音声はロボ男2で頼む」

【設定が変更されました。愛称はどうなさいますか】

 男に聞こえる音声が機械的な声へと変わった。

「プレイヤー名で」

【了解いたしました。ワト様、よろしくお願いいたします】

「よろしく。早速だがマップが見たい」

 すぐさま男の目の前の空間に周囲の地図が表示された。男のいる位置から北西方向に〇が2つと●が1つ、そして赤い三角形が1つ表示されている。

「戦闘中か……放流型が一体……行ってみるか」

 男が駆け出すと地図は自動で消え去った。

「おっせぇ……移動スキルが最優先だな」

 自らの移動速度に不満を漏らしながら、男は目的地の北西方向へと進んでいった。


 ---tips---

 マップに表示されるアイコンについて。〇は他のプレイヤー、●は放流型AIプレイヤーを表しています。放流型AIプレイヤーはあなたの味方となり、冒険の手助けをしてくれます。また、赤い三角形は敵性キャラクターです。勝てないと思ったら無理をせず、逃げるのも戦法です。

 ----------


「ミューズ、回復を」

「おっけ」

「セタガヤはヘイト管理を。私が魔法で弱点を狙います」

「う、うん」

 ワトが現場に到着すると、3人組のプレイヤーがグラスベアとの戦闘を繰り広げていたところだった。

 どのキャラクターが放流型AIなのか観察していたワトは、3人のうち2人が奇妙な格好をしていることに気付いた。それは『ミューズ』『セタガヤ』と呼ばれたプレイヤーたちだった。体型から察して二人とも女性型キャラクターで、『ミューズ』には左の目尻の下に小さなハート形の模様が、『セタガヤ』には短く刈り込まれた右側の頭部に複数本のラインが入っていた。どちらも公式には用意されていないキャラクターメイクのデザインだ。武器もおかしい。どう考えても高レベル帯の武器でこの2人の動きから察するに実力と似つかわしくないものだ。二人とも双剣を装備していて武器のリーチと動きがあってない。自分の硬直時間もわかっていないようで、ただ攻撃を連打するだけ。

「……」

 首を傾げながらワトは戦いの列に加わった。

「えっ。誰?」

 横から突然見知らぬスキンヘッドの中年がグラスベアを斬りつけたのを見たミューズが声をあげる。ミューズは怪訝な表情をしながらセタガヤを見たが、セタガヤは無言で首を横に振って返した。

「あー……ちょっと聞きたい事がある」

「ちょ、今それどころじゃ……」

 グラスベアの攻撃を避けながらワトはミューズになおも話しかけた。

「どうすればいい?普通に倒せばいいか?」

 初期装備の小さな盾でグラスベアの爪攻撃を止めながらワトは指示を仰いだ。

「……爪、爪破壊して!!」

「わかった。あとそこの魔法使い。溜めとけ。爪の破壊が終わったらトドメを頼む」

「了解」

 会話の流れで放流型AIの見当をつけたワトは止めていた爪を盾スキル『バッシュ』で押し返した。押し返されたグラスベアはワトに突進を試みるも再び小盾でその動きを止められてしまう。

「えっ……」

 ミューズはその行為を目の当たりにして言葉を失った。小盾の防御には高い技術力が要求される。拳よりも小さなガードポイントの中心で敵の攻撃の当たり判定を完璧に捉えきることができなければ、途端にこちら側が敵に弾き飛ばされてしまうのだ。

「あと20回ぐらいやらないと壊れないと思うけど……待ってられるか?」

 ミューズとセタガヤは黙って頷いた。小盾によるハメ行為を延々とワトが続けるのを、2人はまるで花火大会を見るような目で見ていた。ぽかんと口を空けながら見ているミューズに対して、セタガヤが呟く。

「盾って、攻撃できるんだね……」

『バッシュ』そのものによる攻撃力は皆無に等しい。しかしながら部位破壊ダメージは別で計算され蓄積される。初期装備の小盾による『バッシュ』に採用されている部位破壊ダメージは、グラスベアの爪の破壊の場合、約24回必要になる。同じく初期装備のショートソードで爪の破壊を試みる場合、縦斬りで19回の攻撃が必要になる。ワトがなぜ手間のかかる小盾の方を選んだか。それは自分が到着する前の戦いによる敵のダメージ蓄積を計算したからだった。有効的な使い方はされていなかったが高性能武器で斬られているグラスベアは衰弱していた。爪の破壊が終わる前にグラスベアを倒してしまっては目的が達成できない。ショートソードでは部位破壊ダメージの他に通常ダメージも入ってしまう。小盾の皆無に等しい攻撃力が役に立ったのである。

「グオォォ!!!!」

 爪の破壊が完了されるとグラスベアは立ち上がって獣の咆哮をあげた。それとほとんど同時にワトはしゃがみ込んだ。正確無比の火球がグラスベアの眉間に直撃すると、対象はそのまま後ろへと倒れ込んだ。

「……おつハン」

 ワトは古のネットスラングを3人に送った。


 ---tips---

 グラスベア。熊の大型モンスターで初心者プレイヤーの最初の関門となるこのモンスターは、その巨体には似つかわしくない速度で動きまわりプレイヤーを翻弄させる。非常に高い攻撃力を有し、初期レベルのプレイヤーは例外なく一撃で屠られる。弱点部位はあるものの、素早く動くため正確に狙うことは難しいとされている。4人パーティを組んで誰かが注意を引いてるうちに他の者たちが後ろから攻撃するのが最も無難な討伐方法となる。

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お疲れさまでした。

需要があれば ちゃんとした続きを書きます。

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