おのれメロス その2
それから二日後のおやつ時。カウンターでドライフルーツを賞味していますと、見知らぬエルフの老爺 with ダブルマッチョがズカズカ乗り込んできたではありませんか。彼らはそのまま真っ直ぐ受付へ、すごい勢いで詰め寄ってきます。
「ようこそ、『転生追放ギルド』へ! クエストのご依頼……」
「いったいどういうことなのかね!」
「イヒィ⁉︎」
老爺は口角から泡を飛ばすかのよう。余勢をかってカウンターへゲンコツを叩き落とします。エルフでよかった。ドワーフなら器物損壊ですよ、まったく。
あと年下相手でも他人には敬語使え。こいつ絶対店員に横柄な態度取るヤツだろ。
それと私の悲鳴が情けないとか言わない。
「ななな、どういうこととは何事でしょうか……?」
なるべーく相手と目を合わせないようにお伺いしますと、向こうは体に毒なくらい顔が真っ赤。脳の血管切れるとかは勘弁してほしいところ。
そんな私の心配をよそに、老爺はこめかみに響きそうな大声を放ちます。音響系スキルかな?
「そちらが派遣した冒険者連中だがのぅ!」
どうやら、すでにクエストを発注されていた方のようです。顔に覚えがないということは、手紙でご依頼くださった方でしょうか。……それはそれで思い当たる案件が多すぎますが。
「なんてことをしてくれたのだ!」
「お、落ち着いてください! まずはお客さまがご依頼なされたクエストと、派遣した冒険者の照合を行いたいのですが……」
私が『クエスト履歴』を盾にするよう掲げますと、先方もどうやら少し落ち着いたご様子。
「うむ。魔物たちの討伐と村の娘たちの救出を依頼した、ドレド村の村長である」
「あぁはい、あのクエストですね」
実は、そのクエストに関しては、私も少し気になっていたのです。
だって、あれだけハイスピードで移動する冒険者さまの編成で、出発から二日経っても帰ってこないんですもの。
あぁ、単純な日数の問題ではありません。クエスト完了後に現地で感謝の宴に巻き込まれ、一週間帰れなくなってしまう方とか珍しくありませんから。
ただ、今回は冒険者さまから事前に通信魔法で、『仕事は無事終わったが、諸事情により高速移動のスキルが使えないので帰りは遅くなる』旨を聞いていたので、「なんの事情?」と思っていたところなのです。
はい。繰り返しになりますが、クエストは無事完了したと聞いているのです。
ではこの村長と取り巻きの筋肉ズ、何に対してご立腹なのでしょう?
「クエストは完了したと報告を受けておりますが、何かウチの冒険者がミスをいたしましたでしょうか?」
「そういうことじゃねぇ!」
「むしろそれよりタチが悪いわ!」
「ピィ!」
今度は彫刻みたいな体型の取り巻きどもがカウンターを叩きます。あまりの衝撃で私、思わず腰を抜かしてしまいましたよ。
なんなの、もう! エルフってもっと線が細い、ジャ◯ーズ(異世界商人のカツヒコさんが見せてくださった『ブルウレイ』に出てきました)みたいな生き物なんでしょ⁉︎
私が西部劇(カツヒコさんが以下略)の撃ち合いみたいにカウンター裏から顔だけ覗かせ、ギルドに来ていた冒険者さまたちが剣呑な雰囲気に少しピリついたその時、『それ』は訪れました。
カラカラン、という軽やかなドアベルの響きとともに、ドレド村へ派遣した冒険者さまパーティーが帰ってこられたのです! 渦中の人物たちが!
「あ! お帰りなさいま、せ……?」
……なぜか大人数のエルフ美女を引き連れて。
「はい?」
「ぬあ! 貴様ら‼︎」
「お、エルフ村長じゃん。どうしてギルドに?」
「何をヌケヌケと!」
私は察しました。いえ、細かいことの背景とかではなく、ふんわりした事情と、
『当人が帰ってきたことで事態が鎮静することはなさそうだ』ということを。
そして、どうやらことの顛末はこういうことだったそうなのです……。