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なんたってアイドルですから! その1

「モノノちゃん大変!」


カウンターで冒険者さまに提供する用の葉巻を作っていると、トニコ定期。私もタバコ始めようかしら……。はぁ……。


「今度は何……」

「投げやりにならないで! いくらタバコ片手にアンニュイな態度とったって、モノノちゃんじゃオトナおねえさんには見えないよ!」

「そんなんじゃないわぃ! タバコと一緒に火ぃつけるぞ!」


ゔゔん(咳払い)。あらヤダ、はしたないところ見せちゃいました☆ 忘れてください。

忘れて。

忘れろ。


「そんなことより、オディーグニルに派遣した冒険者さん!」

「ほう、そう来たか」

「いつもこうでしょ」

「なんか今日、当たり強くない?」

「風は強いみたいね。砂埃とか気をつけて」

「今更なお天気情報ありがとう。どうぞ、お話進めて?」






 オディーグニル。一年の大半は雪降ってる地域です。冬じゃないのはクイナ座からミッポ座のあいだ(※5月〜9月)だけ。そのため独自の環境、それに伴う生活や文化、そして生態系が存在します。


その代表格がフェンリル。


北国の生物らしい大柄な、白銀の毛皮を持った狼の魔物。

 元々『フェンリル』は、異世界の神話に登場する一体の怪物を指す、固有名詞だったそうです。しかし、今よりずっと昔、転生した方が姿を見て、


「フェンリルだ!」


と叫んだことで種族名として定着したんだとか。元はもっと違う名前があったそうですよ? でもその転生者さんが地域の英雄だったので、みんな真似しているうちに、ね。



 今回の案件はまさに、そのフェンリルが関係するものでした。


さっきも書いたとおり、フェンリルは英雄が名前をつけた、(ほまれ)高き種族です。ですのでオディーグニル一帯では、『フェンリル信仰』の見られる地域が多いそうな。そのものを神や神の使いとしたり、住んでる山や森を禁足地としたり。


でもフェンリル自体はただの野性の魔物というのが実態、人間の考えなど知ったこっちゃありません。ふらっと人里近くまで降りてくることもあるし、出会えば普通に襲われます。

()()から見ればただの獣害、「マタギを呼べ」ですが、当の現地人はというと、信心からそんなことできません。「人を食った悪い(カムイ)は必ず殺す」みたいな文化ではないご様子。


まぁそれで獣害がなくなれば苦労しないわけで。


どころか最近は、ちょっと増え気味らしいのです。

フェンリルからすれば人間なんて、逃げるのも遅ければ抵抗もしない、サイズもそれなりの肉。しかも集団で暮らし滅多なことで引っ越さない、絶好の狩場を作る生き物。悪い学習をさせてしまったようで。


それでも、通じるべくもない塩の行進しか手段のない彼ら。「どうにかできないか」という見るからに困り果てた依頼を、当ギルドへお寄せくださったのです。






 え? こんなの無理だろ、って? 相手を傷つけることは御法度なのに、話が通じる相手でもないだろ、って? なるほどなるほど、はい、おっしゃるとおり。

今回の案件は今までちょくちょくあった、『魅了(チャーム)』系でなんとかなるものでもありませんしね。魅了した冒険者さまが帰ったら元どおりなわけで。


でも大丈夫! なんたってウチは世界最大最強のギルドですから!


こんな時にもドンピシャな人材がいらっしゃるのです!



 その方がこちら、『フェンリル公女』エミリイーダさん。

ね? これ以上ない人材でしょう?

 彼女は元々普通の公女(公女がまず普通かは置いといて)だったのですが、ある日従姉妹にフィアンセを寝取られ婚約破棄、そのうえ謀略で大公家を放逐されるという大変な目に遭ってしまいました。


その後も半ば()()()狙いで、『(ぬし)』と呼ばれるフェンリルの住む森へ放り出されてしまうという悪夢。いったい何をしたら、ここまでされる恨みを買うのか。いや、恨みがなくてもここまでするヤツもいるのが、人間の怖いところですけども。


 それは置いといて、エミリイーダさんが森に入れられてすぐ、それは姿を現しました。

他より一、二回りは大きい体。野生とは思えないほど清く輝く銀毛。気品溢れる足取り。そして、

鉄板も貫く巨人族の槍先のような牙と、和太鼓のように腹の底まで震わされる深い唸り。



『主』です。

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