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えっ、今からでも入れる保険が その1

「モノノちゃん大変!」

「はい?」


カウンターで爪ヤスリをかけていると、ガランゴンとドアベルが。同時に今日も今日とてトニコが息を切らして駆け込んできました。冬直前の冷たい空気が流れ込んできます。


「どうしたの?」

「ふーっ、ふーっ……」


聞き返しても、彼女は息を整えるのに必死で返事をしないので、とりあえず水をあげることに。薄い胸が苦しげに上下しています。ふっ。


「んぐっんぐっ、うっく」


軟水の土地で育ったトニコ、ミネラルたっぷりの硬水を一気飲みして、少し眉をしかめます。


「話してもらえる?」


息が整っていない状況で水を飲み、まだ声を発せるほど落ち着いていない彼女は、無言で首を縦に振ります。合わせてサイドテールが揺れる揺れる。

思わずそれを目で追う私を現実へ引きずり戻すように、トニコの口から衝撃の一言が。


「ウチが東部ポーマートに派遣してた冒険者パーティー!」

「うん」


あったね、そんなクエスト。そういえば出発してから全然音沙汰がないけど、どうしたのかな? 確かに東部ポーマートは遠いし、道中も下手な国より広い森林地帯があるから到着は遅いだろうけど、それでもそろそろ、何か第一報が届いていいはず。


この時点ではまだ現実に呼び戻されず暢気に構えていましたが、私の心臓を跳ねさせたのはこの直後。



「道中の『黒森(くろもり)』で行き倒れてたのが、現地の猟師に発見されたって!」

「なんと⁉︎」



あの一人でも最強無比なチート冒険者さまを、それも複数人組ませたパーティーで行き倒れなんて、そんなまさか⁉︎ ありえない!

確かに『黒森』には、中堅冒険者くらいなら苦慮するモンスターがウジャウジャいます。しかしウチの冒険者さまパーティーなら力及ばない道理はないし、何より今回は聖女級僧侶であるミネミタさんを同行させているので、なんであろうと回復できないことはないはずなのです!


それがいったい、どうしてこんなことになったのか、ことの顛末はこういうことらしいのです……。






「なぁ、本当によかったのか?」

「仕方ないだろ。人の命を救うためだぞ」

「神は私たちの行いを見ておられますよ。もちろん今回の、お二人の徳ある行動も」


針葉樹林の『黒森』を、長旅にしては身軽そうな荷物で歩く三人が今回派遣した冒険者さまパーティー。

向かって右から、マッチョど真ん中な威圧感が落ち着かない鍛冶屋のダミヤンさん、群青(ぐんじょう)色のボブが落ち着くミネミタさん、むしろどこに落ち着く要素があるのか教えてほしい道化師マーゴットさん。

あ、一見得意に共通点が見えないメンツばかりですけど、これでも皆さんスキルを見て選抜された的確なマネジメントですからね? これがチートスキル持ちのおもしろいところですよね。


は置いといて、要点はこの三人がしている会話と身軽さの理由ですよね。

それはご一行が『黒森』に入って二日目のことでした。その時にはまだ荷物もたくさんあったのですが……。






「きゃああぁぁぁ‼︎」


「なんだ⁉︎」


つんざくような悲鳴が静かな森にこだまします。基本集落などはなく、人のいない『黒森』ですが、ポツポツとは家があって、隠者や魔女や迫害から逃げてきた人が住んでいたりします。

しかし前述の環境ですから、彼らは何かあっても周囲に助けてくれる人がいません。死活問題なのです。

そんな事情を知っているからこそ、通りがかった三人が悲鳴を捨て置くわけはありませんでした。まぁ細かい事情がなくとも、放っておかなかったとは思いますが。



「どうしたんですか⁉︎」

「あ、あ、あ……」

「こいつは……」


駆けつけた三人を待っていた光景は、恐怖とショックで腰を抜かした女性。そして、


「グルルル……」


瓦礫の山を踏み締める、巨大なイノシシの魔物。元凶はこいつのようです。

それを理解したらば、冒険者さまの行動は速い。


「マー公! 仕留めるぞ‼︎」

「おうよ!」



 そこからダミヤンさんが魔物の頭蓋骨をカナヅチで叩き割るのには、寝る前に爪を切るほどの時間もかかりませんでした。


「よしっ」

「俺っちの陽動のオカゲさね」

「ぬかせ」


普通はこれにて一件落着、となるところ。しかしダミヤンさんたちが悲鳴の主である女性を見ると、彼女はミネミタさんに支えられたまま、立ち直る様子がありません。


「どうした! 魔物に襲われて怪我でもしてるのか⁉︎」


ダミヤンさんのちょっと力強すぎる声に、ミネミタさんは首を左右へ振ります。


「そんなことなら、とっくに治しているところです」

「じゃあ何があったんよ? ミネっち案件じゃないってことっしょ?」

「はい。あの瓦礫の山なのですが……」


ミネミタさんが指差す先。お二人も思わずそちらを見ると、何やら破れた袋や割れた壺、砕けた箱が見え隠れしています。

ミネミタさんは震える女性の手をそっと握りました。


「あれはこの方が、越冬に向けての食料を貯蔵していた倉だったそうなのです……」

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