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特に泣いてないし斬る その1

 寝坊したので受付カウンターで朝食のじゃがバター(昨日の残り)を食べながら、今日も今日とて手紙の確認です。受付嬢の朝は早い……別に特別早くはない……人並み……。

とかいうのは置いといて、今日もまた悲痛な叫びが届いています。正直気が滅入(めい)る仕事ですよ。

というわけで少しでもテンションを上げるために、異世界商人のカツヒコさんが教えてくれたスタイルでブチアゲてみましょう。


さぁて、本日のお便りはぁ? チュッチュクチュクチュク、スクラッチョ! HEY! 東国チャイジーミ共和国はサイネーの太守(知事的な)さんから!



えー、モノノさん、ラジオ毎週楽しみに聞いてます。ラジオってなに?

ゔゔん(咳払い)、近ごろ私が守っているサイネーの外れにある山、リョザーン=パックに山賊どもが住み着いて大変困っています。連中はゲリラ的に山を下りては、サイネーだけでなく近隣の郡を荒らしまわり略奪を繰り返すのです。何度か軍隊を差し向けて討伐を試みるのですが、これまた山が険しくて、地の利を得た相手に歯が立ちません。

いったい私はどうすればいいのでしょうか? モノノさん、近隣所郡の太守を代表して、ぜひアドバイスと冒険者の派遣をお願いします!



とのこと! えーとね、私が思うにこれはぁ……


……なんですか、このスタイル。めっちゃしんどいです。そして恥ずかしい。オーナーが半笑いでこっち見てます。

そうりょ みねみた さんが なかま に なりたくなさそうに こっち みちゃってる!



 さて、私が心に深い傷を負ったうえヒーラーからも見放されたところで、早速派遣するパーティーメンバーを考えましょう。



と、なるところですが!



今回は考える必要なし! なぜなら!


ウチにはジァンソンさんがいるから‼︎


……はい、誰だよって話ですよね。ジァンソンさんはチャイジーミ共和国から来た追放者さんです。サイネーの隣、カタック出身。

しかも! 故郷を追放されてからしばらくはリョザーン=パック! そう! 渦中のリョザーン=パック山中(さんちゅう)でスローライフを送っておられた方なのです! もうお分かりですね?


彼ほどリョザーン=パックを知り尽くした人はいないのです!


リョザーン=パックが軍隊でも攻略できない天下の険なら、逆にそれを味方につければいい!

ガハハ勝ったな! 地の利を得たぞ‼︎


あとは、そうですね。さすがに一人はアレなんで、よく(つる)んでらっしゃるキュジュさんとコホギンさんの男三人で組ませればいいでしょう。これで()()()()()、山賊ごときに遅れは取りません。


あー、こういう編成が楽なクエストはいいなー! 全部こうならいいのになー!


お気楽ぅな気持ちで手紙を脇へやり、頭は次の案件のマネジメントへ。

その後冒険者の皆さまがギルドへ顔を出し、私も対応業務がスタート。受付やクエスト報酬の処理などを捌く片手間でジァンソンさん一行にクエストを説明、派遣。

これでこの案件は難なく終了、あとはお客様から喜びの声とお金が届くのを待つだけ



の、はずでしたが……。






 一週間ほど経った朝。暇だったのでカウンターで異世界商人のカツヒコさんが持ってきた『プラモデル』を組み立てていると、


「モノノちゃん大変!」


手紙を取りにいったトニコが慌てて戻ってきました。

それにしてもこの『リューセーカイ』とかいうプラモデル、カツヒコさんの世界ではこんなワケ分かんない形のものが空飛んで爆弾? ギョライ? をボカドカ撃ち込んでたんですってね。それも過去の時代に! 想像もつかないなぁ。


「モノノちゃん聞いてる⁉︎」

「あぁはい聞いてる聞いてる」

「オモチャで遊んでる場合じゃないんだよ⁉︎」


トニコがバンバンとカウンターを叩き始めたので、真面目に相手してやることにしましょうか。


「それは分かったから、何があったのか話してくれない?」

「あのね!」


トニコが再度カウンターを叩いた反動で跳ね上がった時でした。



「モノノちゃん、ちょっといいかな?」



背後から、ねっとりしたバリトンボイスが。振り返ればオーナー()がいる。


「なんでしょう、か……?」


思わず途中で言葉が詰まりました。だって、いつも軽薄なニヤつきをしているオーナーの、まったく目が笑ってないんですもの。

これはアカン時のやつや……。

普段なら動揺している私を心底愉快そうに眺めるはずの彼は、いつもの調子のようで、その実は温度のない声でおっしゃいました。



「国際問題になるかもしれない」



また⁉︎

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