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この同棲がバレたら(社会的に)死ぬ  作者: 平光翠
大忙し配信編
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【裏話】推しの曇らせ 許せる派? 許せない派?【マコトchannel/動画編集】

 最近、真琴の様子がおかしい。……原因ははっきりしている。

 数日前に、初めての案件依頼が来たということで、喜びのLINEが送られてきてから、だんだんと表情が硬くなっていった。すれ違うたびに、クマが色濃くなってゾンビのようでもあった。


 前に会ったのは打ち合わせが終わった日が最後だから……先週の火曜日か。あれ以来、ほとんど部屋にこもりきりで、食事を用意しておけばいつの間にか食べているし、夜中や早朝にシャワーの音も聞こえる。たぶん、私が学校に行っている間に済ませていることもあるのだろう。


 同じ家に住んでいるはずなのに、わずかにすれ違う程度だ。声を掛けようと思っても、ブツブツとうわ言を呟きながら虚ろな視線を彷徨わせているので、話しかけることもできない。


「頑張ってなんて、言わなきゃよかったな……」


 痛いほど知っているはずなのに、迂闊な発言をしてしまった。

 ずっと後悔している。けれど、撤回の機会も与えられないまま。


『ほのか、案件が終わったら、何かプレゼントするから考えててよ』


 いつもは見せないような綺麗な笑顔で、嬉しそうに話す彼女の姿はどこにもない。今はただ、何のためにやっているのかも分からないような作業ばかりだ。


 そう、()()だ。


 前までの真琴は――マコトは、人前で話すことに緊張していたけれど、それはそれで楽しそうだったのだ。らんさんやレナさん、ヴォイドさんとコラボやゲームをするたびに、楽しそうにそれを語ってくれた。

 一緒にマコトの配信を見ては、この企画はこうだったとか、この動画はああだったと、話してくれた。


 いまや、それが見る影もなくなっている。


 何度か、真琴の作業を手伝えないかと聞いてみたことがあった。それは今回に限った話じゃなくて、もっとずっと前から言っていたことだ。動画編集だって、覚えれば私にも出来るはずと。

 答えはもちろん、すげなく断られるだけだったけれど。


「私のやりたいことに、ほのかを巻き込みたくない」


 それが彼女の返事だったけれど、真意は違う。真琴は楽しんでいるのだ。配信も実況も動画編集も、全部楽しんでいる。長い付き合いの私には、それが分かった。だからこそ手を引いたのに、いまの真琴はちっとも楽しそうではない。


 いや、もし仮に楽しかったとしても、あんな風に体を酷使するなら止めるけれど。


「……たとえば、私じゃ無かったら、頼ってくれたのかな」


 真琴の元カノだという人達。何人か居るというのは聞いているが、それぞれがどんな人だったのかは聞いていない。……正確には一人だけ知っているけれど。


 ――もし仮に、今の真琴の傍に居るのが、私じゃなくて、あの人たちだったなら?


【マコトchannelが動画を更新しました】


 暗い考えに沈む私を引き戻したのはスマホの通知音。

 真琴のYouTubeチャンネルを登録している私には、動画を投稿した時に通知が届くようになっている。


 当然私は、一番に動画を開いた。だが、見て最初に思ったのは、「開く動画を間違えただろうか?」というものだった。

 画面の見せ方や、真琴の話し方が、私の知っている物とは全く違ったのだ。


 ゲームには詳しくない私でも、今のマコトが無理をしているのが伝わってくる。それほどまでに、らしからぬ遊び方をしている。


「なに、これ?」


 まず初めに、不信感を抱き、そして次に、怒りを感じた。カッコつけな性格のマコトとは全く違う。わざとおどけているようで、中途半端に飄々としている。一言で言えば、『よくいるゲーム実況者』というような感じなのかもしれないが、真琴のスタンスとはズレている。


 ……もっと、カッコいい声で、頭がおかしくなりそうな甘い台詞を囁いて、ときたま我に返って自分を恥じらうのがマコトの面白味だったのに。


「真琴、全然楽しそうじゃない……」


 思わず目を逸らした。これ以上は見ていられない。

 逃げるように動画のコメント欄を眺めると、動画以上に酷い有様だった。ゲームへのヘイトはもちろん、マコト本人への追及も多く、過激な発言ばかりだ。


 けれど、この人たちは真琴を理解していない。

 真琴がどれだけの気持ちで、この案件に望んで、どれだけの苦労をしていたのかを理解していない。分かるはずもない。分かってたまるものか。


「優里ちゃん、動画見たかな……?」


 ゲームにも配信にも詳しくない私は、友達を頼るしかなかった。

 マコトを助ける方法を。真琴を解放する方法を知りたくて。


『案件動画ですか? 見ましたよ!! あれ、案件の主が酷いですよね』

「やっぱりそうなんだ……。どうすればいいんだろう?」


 一言メッセージを送ると、優里ちゃんは快く通話に応じてくれた。さすがに真琴の止め方までは聞けないが、マコトがどうするべきかは教えてもらえるかもしれない。


『多分、この会社がやりたいのって、炎上商法だと思うんですよね~』

「炎上商法って、前に俳優さんで話題になったやつ?」


 去年あたり、とある俳優さんがわざと差別的発言を使ったと話題になった。当然、バッシングも多かったが、一気にイメージダウンした彼は、いわゆる『いやな役』をメインに活躍するようになった。

 大ヒットした恋愛映画のライバル役としてブレイクしたのがきっかけだろう。


「マコトを使って、わざと炎上させてゲームを売ろうとしてるってこと?」

『はい。多分、企画とかコンセプトの時点で燃えることは察してたんじゃないですかね? でも、ただ炎上しただけだとゲームとしておじゃんなので、いけにえを作ったってわけです』


 そう言われると、依頼のメッセージを送った人の対応が悪いというのも納得だ。


「これ、どうすればいいと思う?」

『一番早いのは、案件を止めることじゃないですか? でも、私の予想だとマコトくんは止めないと思うんですよね。私も含めて陰キャは断れないので……』


『私はマコトくんの声が聴けるなら、クソゲーやってても気にしないんですけど……』


 その後に続く言葉は無かったが、なんとなくわかる。 面白半分で見ている誰かはそうではない、ということだろう。

 優里ちゃんにお礼を言って、通話を切る。

 スマホを握る手が強くなるのを感じる。


「……真琴のこと。止めなきゃ!!」

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