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この同棲がバレたら(社会的に)死ぬ  作者: 平光翠
大忙し配信編
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【案件配信】イケボの『初!!』案件動画【終末の飛竜/ゲーム実況】

「こんばんわ~。今日も見てくれる皆が大好きだよ~!!」


スレイマンの星:マコく~ん!! 案件おめ~

ビスケット:いつもと雰囲気がちがーう!?


「今日は、初めての案件配信ってことで、めっちゃ緊張してるけど、頑張っていこうと思います!!」


豚の餌:案件頑張れ~

超高層ビル:ひきこもりの息子が初めて仕事行く日みたいな緊張がある……


「いやいや、引きこもりではないから~!! ただの陰キャだからね?」


耕:イケボ陰キャの間違いでは?

スレイマンの星:ほとんど家から出ないし、引きこもりでしょ?

トーマの母:今日ってギャルゲー配信やるって言ってたよね……?


「じゃあ、さっそくなんだけど、ゲームやっていくね」

「今日紹介するゲームは、【終末の飛竜】っていうMMORPGです!!」


「このゲーム、まだリリースされてなくて、8月ごろに皆も遊べるようになります。事前登録キャンペーン中で、星竜石っていう、ガチャ石がもらえたり、早期事前登録者限定で1万連ガチャが回せたりと、色々お得なキャンペーンがやってるから、この配信の概要欄から登録してみてください」


「まぁ、でも、どんなゲームなのか分かんないと、やる気にならないよね? 早速やっていきたいと思いまーす」


トリスカイデカフォビア:なんか、見たことある……?

超高層ビル:ツベの広告でめっちゃ見るわ

ビスケット:マコくんやってるなら、私もやってみようかな~


「チュートリアルは、事前に終わらせてるから、クエストに行ってみたいと思います。このボードにいろんな敵を倒してほしいって要望があって、これをこなしていく感じだね。今回は用意してもらったクエストがあるから、コレをやっていくよ」


トーマの母:モンスターの外見、ファンクエっぽいね?

A~A~:コレ、中国のパクリゲーじゃん

スレイマンの星:デザインとか、ファンタジークエストそっくりやね~


「早速1体目の飛竜出てきたね~。ハードクエストだから結構強いかも。――こうやって、上手いこと武器を切り替えながら戦って、サポートキャラとかもいるから……」


トーマの母:露骨にコメント無視してて草


 ――なるべく触れないようにしていたが、さすがに限界だったようだ。リスナーからの疑念はだんだんと大きくなって確信へと変わり始める。日本で最も有名と言っても過言ではないであろう、神天皇グループの名作RPG【ファンタジークエスト】と重ねる声が増えて行った。


トーマの母:この会社、パクリで一回訴えられてるよね?


モノラル:マジじゃん? ヤバくない?

ENGAGE:え、これもパクリでしょ。さっすが中国クオリティ

マコくん最強卍:こんなクソゲ―やんなよ


 少しずつ、確実に、コメントの口調が荒くなっていく。段々と見慣れない視聴者の言葉が増えて行って、馴染みあるリスナーは短い定型的なコメントしか残していかない。

 視聴者数が増減を繰り返し、目に見えて動画の低評価が上がっていった。


「……ほ、ほかにもカジノで遊べたり、初心者向けの練習モードとか――」


 挽回しようと、オリジナリティのある部分を紹介しようとするが、一旦色眼鏡で見られてしまうと、半ばこじつけのような理由で、他のゲームのパクリと疑われてしまう。

 当然のように視聴者の反応は芳しくなく、むしろ、今度は私自身へのヘイトが高まっていく。


 段々とマウスを持つ手が震えてくる。次の言葉に詰まって、しきりに水を飲むが、何を話しても言い訳にしかならないような気がして、言葉が出てこない。


「あ、えっと、じゃ、じゃあ、今日は配信終わろうかな……」

「このゲーム、面白そうだと思った人は、事前登録よろしくね!! 今夜夢で君と会えますように」

「SeeYouAgain!!」



 一応、紹介すべき内容は終わった。途中からコメントを見るのが怖くなって、目をそらしてしまったけれど。


『マコトさん、お疲れ様です!! めちゃくちゃ評判良いですよ~!!』


 すぐに増田から流れてくる、上辺だけのお世辞メッセージ。あの配信を見て、成功だと言えるのは、どれだけお気楽なのだろうか。現実逃避のように、Twitterを開く。


 そこには『パクリゲー』がトレンド入りしていた。

 思わず息が止まる。チャンネル登録者5万人程度、今回の配信の視聴者数だって1000人に届かない程度。その私がトレンド入り? しかも悪い意味で?


「そ、んなわけ……?」


 戸惑いながらツイートを遡ると、どうやら私とは無関係のようだった。しかし、確実に私のメンタルを削る内容でもあった。……つまりは、私じゃない人が【終末の飛竜】をプレイしている動画だ。

 そして、この人を知っている。


 アイドルVtuberとして有名な『ジェニファー・キャロライン』だ。名前とは裏腹に、古風な物言いの多い女性で、可愛らしい声とゲームが上手いというギャップにより大人気の配信者でもある。らんさんもVtuberとして活動しているが、彼女とは違って企業所属の配信者である。


 『Vドル』と言えば、男女問わず幅広い配信者を雇用することで有名だろう。


「……あっは、私より面白いじゃん」


 思わず漏れ出した感想は、醜い嫉妬だった。私が戸惑って無視するしかなかった『パクリ』に対する指摘コメントも冗談めかして躱していて、あえて類似を探し回ることでポップに楽しんでもらおうという意思が感じられた。


 パクリというと、悪い印象を抱くが、すなわち分かりやすさに直結する。私は、そのことに気づけず、オリジナリティに固執したせいで、返って視聴者の悪視線を集めたのだ。


 ……気づけば、体が震えていた。

 これは、ストレスだ。配信者として活動を始める前、散々自分の体の不調は見てきた。だからこそ、コレは危険なサインであることを理解する。だからと言って、どうすればいいのかなんて分からない。


『マコトさん、明日なんですけど、プレイ動画上げてもらっていいですか?』


 続く増田からのメッセージ。震える手を押さえつけて、マウスを握る。けれど明日はらんさんとのコラボ配信が控えている。企画も作れていないし準備も出来ていない。


 断りの連絡を入れるが、『これはマコトさんにとってもチャンスですよ!! 次回の案件にもつながりますから、スケジュール工面してもらえませんか?』という強引なメッセージに押し切られてしまう。

 ……すぐに動画を作り終えられれば、なんとか間に合うだろうか。

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