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この同棲がバレたら(社会的に)死ぬ  作者: 平光翠
大忙し配信編
34/58

【配信外】プロゲーマーのコーチングを受けます!?【Voidogames/Eスポーツ】

『マコトくん、敵、壁裏に居る!!』

「了解です。グレ…無いです。合わせます」


『じゃあ、321で突っ込むよ? 3、2、1、GO!!』


 無骨なショットガンを持った2人組が、壁の裏に隠れて回復していた道化師を襲撃する。ヴォイドさんが微塵も外すことなくヘッドショットを決めるが、私の咄嗟の射撃は掠った程度。


 ――ミスった!!


 後悔や焦りよりも先に、頭を冷静に働かせて思考を加速させる。次に構えたサブマシンガンのおかげで、反撃を喰らう前に倒しきることが出来た。


「あ、危なかった……」

『ナイス。でも今のは引くべきだったね』


 前から約束していた通り、ヴォイドさんと一緒にS(ソルジャー)&F(ファイト)を遊んでいた。

 たとえ勝利したとしても自分のプレイの分析を怠らない。それがプロたる由縁だろう。試合の中で動きの悪かった所や判断ミスを細かく指摘される。


『……まぁ、いろいろ言ってるけど、正直、めちゃくちゃ上手くなってるね。エイムミスとか読み違いは殆ど無いし、もしかして、相当やってる?』

「ハイ。配信でも結構やってますし、オフでも練習はしてます」


 切り抜き動画や実況動画の片手間だが、練習を欠かしたことはない。言い方は悪いが、最近の寝不足の原因は殆どこのゲームにある。


「普通に楽しんでるって言うのももちろんありますけど、プロの選択肢は潰したくないので」

『おお、良いね。やる気満々って感じだ。誘った甲斐があるよ」


 ゲーム画面では、ヴォイドさんの操作するキャラクターが『待機中』に変わった。このまま少し休憩するのだろう。一言断って、水を取りに行く。


 リビングに出ると、ほのかが寝息すら立たせずに寝ている。なんとなく気になって、彼女の髪に触れてみた。私とは違ってサラサラして整っている。


「んっ……?」


 かすかに身じろぎをしたほのかを起こさないように配信部屋に戻った。

 うん、いまの一瞬でかなりやる気が出てきたぞ。ゲームが終わったら、切り抜き動画を作ろう。あとは実況のネタ探しと、次の雑談配信で拾うコメントをまとめて……


『そういえば、マコトくん。登録者5万人行ったらしいね。おめでとう』

「あ、ありがとうございます!! ヴォイドさんも3万人を超えそうって聞いてますよ」


『配信とか動画の頻度は高くないんだけどね。YouTubeの方は、大会が終わってから力入れるつもりなんだけど、少しずつ伸びてるみたいだよ』


 大会に向けて練習している様子や、上手くいった試合だけをほぼ無編集で投稿しているだけだが、彼のゲームの腕前は、それでも引き込まれる魅力があった。特に、少しだけゲームの様子を解説している動画は50万再生近い。


『それでさ、5万人の記念配信ってやる予定かな?』

「そうですね。時期は未定ですけど、やろうかなとは考えています」


 もともと予定していた配信で時間が取れそうにないが、来週にでも記念配信の場を設けようとは思っている。告知していなければ、調整できたんだけど……。


『5万人の配信、参加させてもらいたいんだよね。ほら、誕生日配信の時のらんさんみたいにさ』

「ああ、なるほど。勿論いいですよ!! むしろ、是非来てくださいよ」

『誕生日のお祝いできなかったからね。大会は近いけど、来週ならギリギリ時間取れそうかな。細かい日程とかはマコトくんに合わせるから、決まったら教えて』


「分かりました。ヴォイドさんが3万人記念配信やるときは、僕も呼んでくださいね?」

『了解。約束するよ』


 ゲームの話とは言え、背中を合わせて戦った仲である。連携力も高くなっているし、ヴォイドさんへの緊張はほとんどない。……一応、異性ということもあって、少しだけ緊張するけれど。

 男っぽい粗暴な声をしていても、根がビビりだからね。


『さて、と。少し休憩が長すぎたね。もう少しだけ、やろうか』


 ヴォイドさんの声音が、より低い物へと変わる。獰猛な狼のように笑う声が微かに聞こえて、首筋に緊張が走った。と、同時にその強さにあこがれを抱く。


 一体どれだけの研鑽を積めば、確固たる自信を得られるのだろう。そんなことを疑問に思いながらゲームのキャラクターを操作した。

 呼吸を忘れるようにゲームに熱中し、時刻は日付を跨ごうとしている。ヴォイドさんはこの後、さらにプロとしての練習を始めるらしい。そのストイックさに、今日何度目か分からない畏敬の念を抱いた。


『マコトくん、今日のプレイ見てて思ったけどさ』

「……ハイ?」


『マジでプロになろうよ。ウチのチーム入ってよ』

「お誘いありがとうございま……」

『ただの勧誘じゃない。プロとしての活動に不安があるなら、契約金払うよ。少なくとも、そういう話がしたい』


 ナイフのように鋭い口調のヴォイドさんに私の言葉が遮られた。どうやらお世辞やおべっかというわけではないようで、迷いの中に居る私の胸を貫いた。その先に居るのは、もちろんほのかだ。


「……ごめんなさい。まだ、迷わせてください」

『まぁ、俺も急だなとは思ってるけど……。でもマコトくんの才能は本物だと思うし、いつまでも配信者やってたら、転身のタイミングを逃すと思う。もう少しだけ、真剣に考えてみて』


 彼の危惧することには心当たりがあった。むしろ、実体験と言い換えてもいいだろう。

 プロゲーマーとして有名だったヴォイドさんだが、YouTubeの活動を始めるにあたって、少しだけ批判を受けた。というのも、プロとしての活動がおざなりになるという杞憂のせいだ。


 また、大会が近いことを理由に配信頻度を減らしていることにも、ほんの少しだけ顰蹙(ひんしゅく)を買っている。

 それは私にも言えることではあるけれど。

 やはり、YouTube進出なりキャラチェンジなりで知名度を求めている姿を見ると、嫌悪感を抱く視聴者も一定する居るといのが現実だ。


『ここで、中途半端な時期にプロ転身なんてしたら、双方から叩かれると思う。それで、マコトくんの才能が摘まれるなんてあっちゃいけないことだ』


 ……単なる買い被りとも言い切れない。

 私自身、配信に向き合ってからのゲーム上達度を見ると、プロ入りも夢物語ではないと思っているのだ。今日だってヴォイドさんからのアドバイスを受けて急成長した実感がある。


 そうなると不安になるのはほのかのことだ。

 配信者よりも安定せず偏見の目で見られるのがプロゲーマーという職業。YouTubeと違ってジャンルを特化させている分、自由の利かないことも増えるだろう。


 ましてや、本気でプロを目指すなら海外も視野に入れる必要がある。海外でゲームに興じている間、あの娘を1人きりにするなんて、言う間でもなくナンセンスだ。


 だが、私の成長とほのかの自立を促すという意味では、プロ入りは逃したくない話でもある。


『あ、ごめん。また迷わせること言っちゃって。配信者としてもプロゲーマーとしても、とても大きな決断になると思うから、もう少し考えてもらっていいよ』


 ハッとした様子で、元の落ち着いた声音に戻って言う。ただ、最後に『返事は早い方が嬉しいけど』というドスの利いた釘を刺していったけれど。

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