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この同棲がバレたら(社会的に)死ぬ  作者: 平光翠
プロローグ
3/58

【まったりデート】陰キャと陽キャがデートした結果www【ヤンデレ/ギャル】

「ねぇ、起きてよ~。出掛けるって言ったじゃーん」


 翌日、私は絶対に外に出ないという固い意思を持ってベッドの中に引きこもっていた。

 朝食の準備をしているのか、リビングの方から美味しそうな匂いが漂ってくる。しかし、ベッドから顔を出すことはない。ちょっと蹴られてるけど、出ないぞ!!


「外は嫌だ~。部屋でゆっくりしよ?」

「配信の声で囁かないでよ!! だ~め~。今日は出掛けるの!! 夏服買うの~!!」


 痺れを切らしたのか、私を包んでいるブランケットの上から、わき腹の辺りをツンツンとつついて来た。

 笑い転げてブランケットを掴む手が緩んだ瞬間に引きはがされる。私を守ってくれる王子様(笑)を失ったことで、渋々、ベッドから起き上がる。


「たとえ起きても外に出なければ私の勝ちだ!!」

「勝ち負けじゃないから。あと、目玉焼きが焦げる前にご飯食べてくれる?」

「……ハイ、スイマセン」


 蛇に睨まれた蛙ならぬ、お母さんに怒られた小学生のようにうなだれて寝室を出ていく。リビングのローテーブルにはトーストと目玉焼き、コーヒーが2つ並んで置かれていた。


「ほのか、今日は投稿予定の動画を編集しなきゃいけないからさ、買い物行けないんだ。いやぁ、残念だなぁ~。動画編集が無ければ、行けたんだけどなぁ~」

「それ嘘でしょ。先週、『さすが私、今月投稿予定の動画は全部編集終わらせちゃったぜ』って、めちゃくちゃかっこつけながら言ってたじゃん」


 冷たい視線が心を突き刺す。あと、箸で手を物理的に刺されてた。

 手は痛くないけど心が痛い……。う、嘘ついてごめんね。そんなようなことを言った気がするけど、よく一言一句間違いなく覚えてるね。ちょっと、怖いよ?


「私が真琴のことで知らないことあるわけないじゃん。私は何でも知ってるよ」

「めちゃくちゃ可愛い顔でめちゃくちゃ怖いこと言うじゃん」


 他に何か言い訳できそうなことがないかと思案していると、トーストを食べ終えたほのかが皿を片付けながらにっこりと笑う。去り際まで無言ではあったが、あの笑顔は「一緒に買い物行ってくれるよね」というような顔だ。


「買い物ぐらい、1人で行けばいいじゃん。どうせ私は同じようなスウェットしか買わないし」

「1人で買い物なんて絶対ヤダよ!! それとも、真琴は私と出かけるの嫌?」


 少し胸元を緩めながら、誘惑するような上目遣いで懇願してくる。思わず口の端から目玉焼きが零れ落ちそうになるが、間一髪、皿に零しただけで済んだ。 床だったら、ほのかにお説教されちゃうけど、今回はセーフ。いや、アウトだわ。


「い、イヤじゃないです……」


 可愛らしくおねだりをするほのかには勝てなかった。

 ……あとで昨日の自分に謝っておこう。


 家の近くにある服屋まで2人歩いて向かう。休日ということもあって、ほのかは見慣れた制服姿ではなく、緩いロングパンツに真っ黒なシャツというシンプルな装いだった。ちなみに私はジャージである。なにせ、まともな私服なんて持っていないので。


「夏服欲しいんだよね~。コレ、ちょっと生地厚めじゃん?」

「生地厚めじゃん? って言われても、わかんないけど……。どういうのがいいの?」


「涼しい感じで、ちょっと大人っぽいやつが良いかな。あと、安いやつ」


 私の配信業で生活できる程度には稼いでいるとはいえ、あまり贅沢も出来ない。

 そんなときは3着で1000円のジャージ、おススメですよ。え、要らない? ……そうですか。


「わぁ、入れ替えの時期だから、いろんな服あるね!!」

「そうなの? 全然分かんないんだけど……」


 軽快な音楽の流れる店内は、夏前のセールが開催されているようで、全体的に熱気がすごい。なんか、あちこちから陽キャのオーラが漂ってくる。ほのかから離れたら、浄化されて死にそう……。


「真琴、大丈夫? 手繋ぐ?」

「い、いや、そこまでは大丈夫だから。それにほら、変な風に見られちゃうし……」


 思わず強く否定してしまった。少しだけ陰りのある表情を浮かべたが、すぐにオシャレな服のマネキンに心を奪われたようだ。

 ほのかが服に夢中になっている間に、コソコソと値札を見る。


 今って、いくら持ってたかな。……うん、ギリ買える。


「ほのか、コレ、試着してみたら? 似合うんじゃない?」

「そうかな? ちょっと店員さんにサイズあるか聞いてみるね」


 キョロキョロと小動物のように周りを見渡すと、軽い足取りで品出しをしている店員に声を掛ける。よく緊張せずに話せるよなぁ……。


 試着室の前で待っていると、カーテンの向こうから声を掛けられた。


「真琴~? いるよね?」

「居るよー。着替え終わった?」

「まだなんだけど、そこから離れちゃダメだからね? おいてかないでね?」


 まるで、幽霊を怖がって夜中にトイレに行けなくなった子供のようである。その後も何度か声を掛けられるが、その度に、隣に立っている店員さんに笑われてしまった。


「どう? 清楚系お嬢様風白ワンピ」

「……清楚系お嬢様は、自分で清楚系ともお嬢様とも言わないんじゃない?」


 カーテンを勢いよく開けて登場したのは、真っ白なワンピースを着こなす妖精(ほのか)だった。薄手の生地でありながらも、長袖にロングスカートであるため、下品さを感じさせない。


「お客様、とってもお似合いですよ~!!」

「ありがとうございます。もう1着、着てみていいですか?」

「もちろんでございます!! では、カーテン閉めますね」


 おお、まさかの2着目。今の服、可愛かったし値段も手ごろだったからいいと思うけど……。


「妹さん、美人ですね~。お姉さんも細身ですし、こういった服なんか……」

「あ、ご、ごめんなさい。今日は私の服は……」


 こんな陽キャ御用達みたいな店で服なんて買えない!! 私はジャージで十分だ。

 あと、姉妹じゃないです。とはツッコめなかった。じゃあ、どういう関係なのかと聞かれた時に答えられないしね。


「じゃーん。真琴の好きな地雷系ファッション。こういうの好きって言ってたでしょ?」


 次は一転して派手で目を引くようなピンク色のブラウス。あちこちに小さなパールとフリルが飾られており、全体的にごちゃごちゃしている。黒のスカートも膝上だ。


 地雷系が好きなんて言った覚えがない……。いや、もしかして、結構前の配信でポロっとそんなことを口走ったような気がしないでもない? 本当によく覚えてるな。


 結局、落ち着いたデザインのシャツと、黒のスカートを買って帰ることになった。


 ふぅ、やっと帰れるかな。


「お昼どうしようか?」

「え……」


 やっぱりまだ帰れなさそうです。

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