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この同棲がバレたら(社会的に)死ぬ  作者: 平光翠
大忙し配信編
27/58

【誕生日配信】自分の誕生日なのに自分で準備をしますwww【準備/裏作業】

 きたる内臓の日。改め、7月13日。

 私の誕生日でもあり、マコトにとってみれば初めての誕生日配信だ。本当なら前日のうちから配信の準備をしておくべきだったが、急増したコメントへの返信やエゴサ、動画の編集作業と多忙を極めており、全く手が付けられていない。


「誕生日の準備を誕生日の人がやってるって、おかしいんじゃないかなぁ」


 寝室兼配信部屋で一人呟いてみても同調してくれる可愛い同居人はいない。本人は私の誕生日だから休むと言っていたが無理やりにでも行かせた。

 そのかわり、次の土曜日は1日付き合うことを約束させられた。

 ぶっちゃけ、ほのかと出かけるのは楽しいし、それが私の誕プレを買うためともなれば嬉しいことこの上ない。……日差しが出ていなくて人通りが少なければ。


「あ~、配信画面に出すコメントの切り抜き、全然うまくいかないんだけど!?」


 それなりにパソコンは得意なつもりであるが、ネットで調べてもよく分からないことは多い。教えてくれる人も居ないし、手伝ってくれる人も居ないのは、個人配信者の悩みか。

 そう考えると、らんさんってメチャクチャすごいな。


「頻度は高くないけど、色々イベントとかコラボの調整とか1人でやってるんだもんなぁ」


 あの可愛らしいフワフワした声からは想像できない程にきっちりした人だ。

 ……まったく私とは大違いである。


「あ、この画像。懐かしい……」


 Twitterに寄せられたメッセージの字幕を作っていると、パソコンのフォルダに懐かしい画像を見つけた。おそらく小学生のほのかが私の誕生日に書いてくれた似顔絵だ。

 今、YouTubeのプロフィールに使っている絵とは違い、それなりに特徴を掴んでいる、()()()なイラストだ。画用紙いっぱいに書かれた不健康そうな顔の女が引きつった笑みを浮かべているという、なんとも不気味な絵である。


 当時はスキャナで保存なんて出来ない(少なくとも家に機材が無かった)から、ほのかに絵を持ち上げてもらって、それをガラケーで撮影したものだ。後ろにはにっこり笑う彼女の姿があった。

 ……このころは、まだ少し固い笑顔をしている。


 小学生のほのかの可愛さに身悶えしていると、スマホが音を鳴らして光った。何かクーポンのお知らせかと思えば、レナさんからメッセージだ。


『この前の配信で、今日誕生日って話してたよね~!? 遅くなったけど、おめ~』


 可愛らしいスタンプと共にお祝いのメッセージ。なんとも彼女らしい元気さに顔がほころんだ。そこらからすぐに相方であるオタクさんからも同じような連絡が届く。


『Twitterで誕生日配信の告知してるの見ました。改めてお誕生日おめでとうございます。良ければ、また今度、コラボしましょう。連絡しますね』


 一転してシンプルなメッセージ。2人の差に思わず笑みがこぼれた。少し元気が出て編集作業にもやる気が湧いて来たというものだ。


 ふと、微かな違和感を抱いてオタクさんのメッセージを見返した。


「……ちゃかり営業めいた連絡まで織り交ぜてくるなんて、さすがっスね師匠」


 心の中で勝手に師匠呼ばわりしていることに謝りつつも、オタクさんから届いたメッセージ拝んでいた。こういう気遣いと仕事を同時にこなせるように精進します!!


 それからさらに作業を進めていると、集中力が途切れたタイミングで、ちょうどよくらんさんからもメッセージが届いた。内容は先の2人と同じお祝いのメッセージ。しかし、それだけでは留まらず、配信に少しだけお邪魔して直接お祝いさせてほしいという打診だった。


「……企画に組み込んでもいいか。流れ的に考えて――」


 返信の内容を考えながらPCのメモに追記する。なんとか2つは企画をひねり出したが、これ以上は手詰まりだったので正直助かる。


「さっき考えた奴は告知しちゃってるから……。ああ、サプライズとして考えるか。こっちは告知しないで、出来ればらんさんにも言わないでほしいけど」


 途中まで書き上げた返信のメッセージを消して打ち直す。切り抜き動画で使ったらんさんの立ち絵の準備も整えながら配信への参加を承諾する。


「あ、そうだ。ヴォイドさんからもお祝いのメッセージ来てるんだ。ボイスメッセージって言ってたから、コレは配信で流したいな。……いちおう、流していいか聞いてみよう」


 顔を見ないやりとりなら、ここ2週間でずいぶん慣れてしまった。

 すでにプロとして練習を始めているヴォイドさんは、配信上で絡むことはないが、それ以外の2人とは小規模のコラボを挟んでいる。慣れてしまえば、なんてことない。


 ……ただまぁ、その度に切り抜きのネタが加速度的に増えるので、要領の悪い私としてはいっぱいいっぱいでもある。


『ボイメ? 恥ずかしいけど、好きに使っていいよ~』


 ものの数分でヴォイドさんからも返事が来た。おそらく、ゲームの合間の小休憩だったのだろう。我ながらベストタイミングである。……いやこれきっかけはらんさんだな。あの人の直感すごい!!


 がむしゃらに編集作業に没頭していると、すぐに夕食の時間が近づいてしまう。ほのかはバイトで疲れて帰ってくるため、今日は私が作る日だ。あらかじめメニューも決まっているし、問題はないだろう。……と考えていたが、作り始めが遅かったらしい。


「ただいま~。あ、真琴!? 私やるから、配信の準備しててよ」

「いや、このぐらい大丈夫だから。それより先に着替えてきたら?」


 制服にケチャップが付く前に脱ぐように言うと、渋々ながらルームウェアに着替え始めた。恥じらいも見せずに目の前で脱ぎ始めたので少しびっくりしたが、何やら不機嫌そうでもある。

 学校で何かあったのかと思い、心配する。が、しかし、彼女の視線の先を見てすぐに自分が原因だと理解した。


「あ、ほのかからのメッセージ、返信してない!?」

「……そんなに忙しかったんだね~?」


 昨日も深夜まで作業してしまった反動で、陽が昇り始めてから昼頃まで寝ていた。当然、ほのかは学校に行くわけだが、どうしても初めに「おめでとう」と言いたかったらしく、わざわざメッセージに残していたのだ。

 そしてそれを思いきり既読スルーしてしまった。


「私、すっごく悲しかったんだけど?」

「ご、ごめんなさい。返す言葉もありません」


「……うーそ。真琴が今日のために色々準備してたの知ってるし、日付が変わってすぐにおめでとうは言ってるからね。悲しかったのは本当だけど」

「いや、それはそうなんだけど、無視しちゃったのは、本当にごめん」


「もう~。謝らなくていいから。それより、配信行かなくて大丈夫?」


 ふと、時計を見てみればまだ少しだけ余裕はある。すこしだけ準備は終わっていないが、ほのかと夕食を食べて、ゆっくりシャワーを浴びるぐらいの時間はあるだろう。


「ほのか、ご飯食べたら、一緒にお風呂入ろうか?」

「えーまた? 最近多いね~」


 言葉だけ見れば面倒くさそうではあるが、その表情は嬉しそうであり、まんざらでもなさそうである。2人並んでソファに座って食事を始めた。


 彼女には言えないが、緊張度の高いコラボ配信や反応の悪かった配信の翌日には必ず行う、私なりのルーティーンだ。早い話が、ほのかを抱きしめてストレス発散しているのである。


 さて、私の誕生日は、これからが本番!!

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