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この同棲がバレたら(社会的に)死ぬ  作者: 平光翠
大忙し配信編
26/58

【ゆっくり買い出し】眠気も吹き飛ぶ美少女とデート!?【徹夜明け/カップル】

 カーテンから朝日が差し込む頃、眠い目を擦りながら動画編集用のPCとにらめっこをする。ゲーム画面と字幕の位置が合わなくて四苦八苦している所だ。

 正直、妥協はしたくないが……これ以上悩んでいても進展はないだろう。


「ふぅ、とりあえず終わった~!! 体痛い……」


 20代を半分過ぎた体には、長時間のデスク作業は酷なようだ。……まるでオバサンみたいなことを言ってしまった。ああ、年はとりたくないね……。


 配信は誰が見ても上り調子。配信スタイルを変えてみても、古参のリスナーは喜んでくれたし新しいファンも獲得できた。チャンネル登録者数の伸びから見ても明らかである。だからこそ、ここで手を抜いて停滞させるわけにはいかないというプレッシャーもあるけれど。


 リビングに出ると、ほのかが朝食を食べていた。


「あ、真琴。おはよう。今日は早起きだね。何か作ろうか?」

「おはよ。……昨日のスープ残ってる?」


 切り抜き動画を3本も作っていたので徹夜してしまった。スープだけ飲んで寝よう。


「また徹夜したんだ。体に悪いよって言ってるのに!!」

「ごめんごめん。これからちゃんと寝るから……」


 途中まで言って、ほのかの顔が一瞬暗くなったのに気づいた。何かを口に出そうとしたが、飲み込んだようだ。彼女が躊躇うなんて珍しい。


「ほのか、何か予定あったの?」

「……真琴の誕生日、来週でしょ。プレゼント選びに行きたかったのに」


「明日は……バイトか。分かった、少しだけ寝るから昼前になったら起こして。それから出掛けよう。ちょうど、ほのかと話したいこともあったし」


 気を遣って……というより私の体を案じて、断ろうとしていた。けれど、私は聞こえないふりをして寝室に戻った。


「真琴。11時になったよ。行くの?」

「あ、ありがとう。うん、着替えたら行こうか」


 不安そうにするほのかの額にキスをすると、恥ずかしそうに笑ってから私の胸に体をうずめた。ぐりぐりと押し付けられる温かさに心地よさを感じていると、思わず抱きしめてしまう。

 まぁ、逃げられたんだけど。ハイ、早く着替えますんで、その目を止めてください……。


 ほのかに選んでもらったシャツと長ズボンを履いて外に出る。寝起きの体にはやかましいセミの声と差すような陽の光が凶器のように感じた。

 不健康を極めた私の腕を取って、ほのかは歩き出す。


 ほのかさん、ペースが速すぎて、私、ほぼ引きづられてます……。


「私の誕生日プレゼントって、何買ってくれるの?」

「真琴が前に欲しがってた……って危ない!? 言ったらサプライズにならないじゃん」


 引っ掛けるつもりはなかったが、勝手に驚いている。警戒心の高い猫のような甲高いうなり声をあげて絶対に言わないという宣言をしていた。


 私が欲しがってたものってなんだろう? CMで見た日焼け止めとかかな。アレは好きな女優が使ってるらしいから『いいなぁ』って言っただけなんだけど……。

 そもそも、ほとんど外に出ないから日焼け止めとか使わないじゃん。去年貰ったやつがいまだに残ってると思うし。


 そんなことを言うとほのかに叱られてしまうので、あえて何も言わなかった。


「プレゼントは内緒だけど、パーティーグッズとかは一緒に買おうね。クラッカー要る?」

「私、24になるんだよ? クラッカーで喜ぶと思う?」


「いや、去年変な眼鏡で大はしゃぎしてたじゃん」

「変なメガネじゃないから。光る西暦メガネだから」

「それが変じゃないなら、鼻眼鏡も普通のメガネ屋さんに売ってることになるよ!?」


 ちなみに、去年買った7色に光る西暦を模した謎の眼鏡だが、ほのかの手によってとっくにゴミ箱行きしている。いまごろ、電子機器の部分だけ分解されて再利用されていることだろう。

 プラスチックの部分は知らん。燃えてんじゃないかな。


「あ、ヘリウムガス買おうよ」

「思い付きで買うにしては変過ぎるよ!? 誕生日パーティー2人きりなんだから、奇をてらったパーティーグッズは要らないよね!?」


「それを言うなら、クラッカーも要らないのでは?」

「そのとおりだね!! 私がボケたせいか。いや、ボケのつもりなかったけど!?」


 陽が高くから降り注ぐ真夏だというのに、ほのかはずいぶんと元気そうだ。彼女に腕を引かれたまま、近くの百円ショップまでたどり着く。店内は冷房によって冷えていた。

 ああ、生き返る~。


「まずは、ケーキに掛けるチョコとかね。ケーキの材料はもっと近くなった買うけど、トッピングはここで買っちゃおう。あと、ろうそくも買わないと」

「ケーキに24本差すの大変じゃない?」


「いや、ケーキがろうそくまみれになるよ……。そうじゃなくて、数字のろうそくあるでしょ? ちょっと、それ探してきて。私はカップケーキ用のカップとアルミホイル探してくるから」


 普通のケーキとはべつにカップケーキまで作るのか……。

 まぁ、たしかにほのかの作るカップケーキはフワフワしてて美味しい。しかも適度な甘さだから作業をしながら食べるのに最適だ。ただまぁ、作りすぎにだけ注意してもらえれば。


 あの娘を1人きりにしても大丈夫だろうかという不安が一瞬だけよぎる。しかし、あまりにも過保護すぎるだろうと思い直して、ろうそく探しに戻った。

 ……ちょっとまって、ろうそくってどこに置いてあるんだろう?


 ライターの近くかと思ったら、仏壇用の蝋燭しか置いてない。え、コレって代用できるかな?


「……出来るわけないか」


 ほのかに怒られそうな気がしたので、別なところを探し始めた。……まぁ、見つからなかったんですけど。結局、店員さんに聞くことも出来ず、戻ってきたほのかに頼んで探してもらった。

 情けない。見ないでぇ……。


「お昼、どうしようか? ファミレスならデザートもあるし、それでいいかな?」

「うんいいと思うよ。アイス食べたーい」


 店員さんに4人掛けのテーブルに案内された。

 ほのかは何も言わず私の隣へと座ってきた。それを見た店員さんがお冷を運ぶ手が止まる。


「真琴、最近忙しそうだよね」

「まぁね。色々と順調で、チャンネル登録者の伸びもいいから。ここで、一気に押し出してもっと新規ファンを取り込んでいかないと」


 ほとんどレナさんの相方であるオタクさんの受け売りだ。そういえば、レナチャンネルから再びコラボの誘いが来ているのだった。帰ったらその返信もしないと。


「真琴が頑張ってるのは私の為ってわかってるけどさ、ちょっと寂しいな」

「……ごめんね。なるべく、時間取れるようにするから。っていうか、私の最優先はほのかなんだから、もっと遠慮しないで、いろいろ言ってよ」


 彼女に頼られている時。彼女の願いを聞いている時。彼女の我儘に振り回されている時。音寺真琴の人生は充実する。それこそが私の生きる意味なのだから。

 配信業なんて、彼女の為なら簡単に捨てられる。


「頑張ってって応援したいけどさ。そう言ったら、真琴は頑張りすぎちゃうって知ってるから、言いたくても言えないよ。でも、無理しないでって言うのも違うし」

「ほのかに好きって言ってもらえれば、全部解決するよ?」


 小声でささやくと、ほのかは顔を真っ赤に染める。少しは大人びた顔つきに変わってきているが、私から見れば、ほのかはいつまでも可愛い子供で、大切な恋人だ。


 こういうウブな反応も魅力の一つでもある。


「そ、それは帰ってからね」


 耳元で囁かれる、とろけるような言葉に思わず頬が緩んだ。

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