ニート 怪獣大決戦
ぐるっと囲まれた赤谷はいよいよ年貢の納め時らしかった。靭やかな四肢を広げ凶暴な獣を思わせる男を強い光が照らす。まるでオンステージだ。
ただ、その男は獣ではなかった。目を細めながらも光に怯えて逃げるような素振りも見せず、やや腰を落としていつでも動けるように構えている。
近付けば噛み付かれる、どころかペシャンコに叩き潰されるかもしれない。なるべくそんな危険物に近付きたくはないし、誰も進んで手出しは出来そうになかった。
そんな中で、なんてことない日常のように青山は赤谷に接していた。
「いやあ、大変でした。赤谷さん、ウロチョロするものだから人を集めて囲むのが難しくて難しくて。正直、同じ事は繰り返したくないのでじっとしていてもらえませんかね」
赤谷を四方から照らすライトにぐるりと目を向けた。警察官たちが緊張した面持ちで赤谷を睨んでいる。
入口らしい入口は全て塞がれている。ちらりと視線を動かした先に人の背丈では到底届かない高窓があった。
「……そいつぁ、ご苦労さん。だけんどそりゃあテメエの都合だろ。俺が考慮しなきゃいけない理由があんのかよ」
ははは、と小粋なジョークを聞かされたように青山が笑った。
「人を動かすのにもお金がかかるんですよ。お賃金が。皆さんは警察という公僕の方々なんで、赤谷さんのために今現在も神奈川県の財政に余計な負担を強いているわけですよ」
ねえ? と側にいる警官に笑いかけるが、警官は困ったように口を紡いでいる。が、警官たちの非難めいた眼差しは紛れもなく赤谷を刺し貫いている。
バツが悪そうに赤谷が舌打ちした。
「嫌なところをついてきやがる」
「公共の利益のために大人しくしてもらえませんか」
「俺ぁ、もう警官じゃねえ」
「公共の利益について考える義理はないと?」
「個人の事情を優先させてもらうっつってんだよ」
赤谷の手が動く。石を投げたのだろう、青山のすぐ隣で光っていたライトが音を立てて割れた。一瞬、全員の注意がそちらに向く。
地面を踏み抜く音がして砕けた床石が飛び散った。
視線がそちらに動くが、赤谷はそこにはいない。既に飛んでいる。嵌殺しの高窓に身を丸めて飛び込むとまるでアクション映画のそれのように窓が割れた。
ガラスの破片が草の生えた地面に散らばって、飛び込む前に掴んでいたバッグを抱きながら背中から地面に落ちた。
結構な高さからーー3メートルもありそうな場所から勢いよく落ちながら、しかし赤谷は無事だった。
着地と同時にゴロリと転がると魚が跳ねるように飛び起きた。
キョロキョロと周囲に目をやると視界の片隅に人影が見えた。
すわ、警官かと反射的に逃げようとしたところで、それが先日やって来た自称シンパの男であることに気が付く。
「赤谷さん……こっち、こっち……!」
手招きする男は小声で赤谷に呼びかける。
一瞬躊躇うが、そちらに走ると「なんでここにいる」と聞いた。
「ケーサツが赤谷さん包囲網やるってんで助けに来たんすよ。仲間がサツのカッコして仲間みたいに振る舞って一角陣取ってますからそこからフケましょう」
「馬鹿野郎。それは軽犯罪法にひっかかるぞ」
「大丈夫っす!」
何が大丈夫なのか。何の保証もないくせに力強い断言に呆れて苦笑するが、人の厚意を無駄にはしたくないと思った。
警官の包囲網を抜けて廃屋を後にすると、暗がりの中を進む。警官の格好をした二人組は途中で「逆に怪しい」からと離脱していった。
「すんません。足は用意出来なくて……」
「気にすんな」
申し訳無さそうにシンパの男が言うのに、赤谷は苦笑した。
というのも、そもそも赤谷が本気を出せば車など使うより速く移動出来るからだ。その機動力があればこそこれまで逃げ果せてきたのだ。
だからもう十分助けられた。包囲を抜けた時点で赤谷は危機を脱したと言える。なので、いつ後はもう大丈夫だと言おうかと考えていると、
「あ、赤谷さん!」
けたたましいサイレンが鳴り響き回転灯の赤色が夜の闇に紛れ込む。
どうやら先回りをしていた……いや、先読みをして配置されていた警官に見つかったらしい。
「青山の野郎……きちんと後詰めしてやがったか……」
その赤色に目を細めていると急に腕を引っ張られた。
「お、おお?」
大分、強引に引っ張られたので転けそうになるが、生来の体幹でバランスを取ると、腕を掴まれながらそちらについて行く。
先を行く二人には見覚えがない。どことなく外国人のように見えた。妙な違和感を覚えたが、その二人は迷いなく道を進んでいく。
いつの間にか駅前に辿り着いていた。風呂にも満足に入ってない男と怪しげな外国人という三人組は、夜を歩く若者たちに気にも留められていないようだった。三人の横を馬鹿みたいに笑いながら通り過ぎていく。
無視されているわけじゃない。気にならないわけでもない。そもそも、まるでこちらが見えていないようだ、と赤谷は感じた。
「なんか使ってんのか?」
尋ねても二人は答えない。
櫻井のそれから謎のビームが発射されるように、壊獣くんには特殊な機能を発揮するものもある。この二人が特殊な壊獣くんを持っていてもギリギリおかしくない。
色々疑問は尽きないが、するすると街並みを抜けて人の気配が希薄な一角にまでやって来た。ゴミが散らばっていて少し寂れたビルの中に入っていく。
締め切られたはずの扉は鍵が壊れていて実に風通しのいい環境となっていた。中は大体予想通りに小汚い。クソガキやホームレスが使ったりしているのだろう様子で物が散乱していて、中には割れた注射器とかあったので赤谷は顔をしかめた。
通された部屋の真ん中に立たされ「なんだ、ここで隠れてろって話」と振り向こうとしたその瞬間、首筋に何かを当てられ赤谷は音を立てて床に大の字となった。
「……てっ……めぇら……」
体は全身が痺れてよく動かない。おそらくスタンガンのようなものを当てられたのだろうことは想像がついた。頭を動かし、視線を向けると二人はカメラのようなものを手に持ち、赤谷のバッグに集まっていた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
何を喋っているのかは分からない。明らかに日本語ではないし英語でもないようだった。
ただ、バッグから細長い耳を乱暴に掴んで引っ張り出したネギボーが痛そうに鳴いてるのを見て、下卑た笑みを浮かべているのでおよそろくでもない事を口走っているのは間違いなかった。
いまいち力の入らない身体に気合を巡らせ根性を出力し、情けない言い訳をしたがる体を無理やり動かす。震える腕を支えに、上半身を動かしたところで口を開いた。
「てっめぇらぁぁぁぁ……何のつもりだコラァァァァ……!」
怒気をはらんだ声が静かなビルの中で空気を震わす。しかし、本来なら誰もが生命の危機を覚えかねないその怒声が強がりにしか聞こえず、二人の男は赤谷を指さして楽しそうに笑っている。
二人の言葉は全く理解出来ないが、赤谷の神経に障る身振り手振りに加えて表情、行動である。何かしらの動きを見せる度に、ネギボーが乱暴に揺らされ痛切な鳴き声を上げる。ネギボーが小さな手を赤谷の方へと向け助けを求めている。赤谷の怒りはそのボルテージを上げていった。
それが赤谷の身体を突き動かす。ガクガクと震える足で立ち上がり、見つめられるだけで燃え落ちそうな怒りに燃える視線を向けた。
だが、二人はそれでも余裕を見せていた。片方の男が懐から何かを徐ろに取り出す。
それは、持ち手のある筒……銃のように見えた。
「ああ……? なんだそりゃ……」
赤谷の目に、それは玩具に見えた。実銃にしては全体的にトゲトゲとしていて子供っぽい。むしろ壊獣くんに近しいものに思えた。
壊獣くんの中には櫻井が持っているように銃型のものもあるし、そこからは謎のビームが発射されるが、それはあくまで怪獣にしか効かない謎ビームに過ぎない。人間に使ったところで害はない。
そんなものを向けられたところで脅しになるわけもない。馬鹿にしているのかと口を開こうとしたその時、
空気の抜けるような音と共に赤谷の足元に五百円玉サイズの穴が開いていた。
穴からは煙が上がっており、まるで床が溶けたようだった。
赤谷は驚きに目を見開きながら、視線を足元から二人の男へ戻す。二人はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべっぱなしであった。さしずめ、未開の現地人が文明の利器に圧倒されているのを楽しむような、そういう笑みである。
その面を見た瞬間、赤谷の切れやすい堪忍袋の尾が音を立てて切れた。
「上等だよ……ぶっ潰してやるから……そこ動くんじゃねえぞ……このクソガキどもが……!!」
ぶっ殺すと言わなかったのは赤谷最後の理性である。
足を一歩前に踏み出すと砂利を踏む音が廃屋と化したビルの一室に響き渡る。男の構えた銃もどきが改めて赤谷へ向けられた。
次の瞬間にも飛びかかろうと赤谷が力を込めると、
「確保ー!」
赤谷のものではない、勿論男たちのものでもない声がして、どこに隠れていたのか警官たちがワラワラと飛び出してくると男たちに飛びかかり、床に押さえつけるようにして取り押さえてしまった。
突然の展開に赤谷が目を白黒とさせていると、
「よかった。上手くいきましたね」
背後から青山が現れた。
「青山……」
思わず身構えると青山は苦笑した。
「大丈夫ですよ。赤谷さんをどうこうするつもりはないですから」
「どういうことだ?」
自分を捕まえるために警察官がずっと動いていたというのに、今更になって自分を捕まえるつもりはないという。
あまりにも意味不明な展開に赤谷は少し頭が追いつかなかった。
そんな赤谷の様子を見て青山は朗らかに笑顔を浮かべてみせた。
「簡単に言いますと、そもそも狙いは赤谷さんではなくて彼らだったということです」
その言葉に呆気にとられ、間抜けに口を開けてしまうが、改めて制圧された二人を見るといまだに何かよくわからない国の言葉で吠え立てている。悪態でもついているのだろうと思われた。
「あいつらはなんなんだ」
「密輸業者みたいなものです。怪獣の取引が闇の界隈で行われているらしいんですよ」
「なんのために? まさかペットショップにでも売り払うつもりか?」
冗談めかした言葉に青山はそうですね、と頷いた。
「怪獣愛好家みたいなのがいて、そういうところに売り払うつもりだったみたいですね」
「マジかよ」
とんでもない話である。犯罪としても大事だし、警官を辞めた今頃になってそんな出来事に巻き込まれるとは思いもよらなかった。
怪獣と一口に言ってもピンキリである。人の手に負えない凶暴なのもいれば、ネギボーのような人畜無害の個体もある。どちらが需要があるかはともかく、金を持て余した好事家の趣味の一環になっていてもおかしくはない。
しかし、そうなってくると色々と疑問が湧いてくる。
「じゃあ何か。ネギボーがあの海龍の腹ん中にいたのもアイツらの仕込みだったのか」
今も多数の警官に押さえつけられて謎の言語をまくしたてる二人の男がネギボーを日本に密輸するため海龍の腹にネギボーを収め、それを回収する前に赤谷が海龍を倒してしまった……というお話だったのか? という推測をするしかない。
するしかないが、随分お粗末な話だ。そんな胡乱な手段より、もっと確実な方法がいくらでもあったように思えてならない。
「きっとそうなんでしょうね」
ニコニコと笑顔を浮かべながら即答するが、どうにも怪しい気配が漂う答えだった。
あからさまに何かを隠している、あるいは話していないのだがそこに突っ込んでも明確な答えは帰ってこないような気がしてならなかった。
「そもそも、なんでお前がそんな色々知ってんだよ。警察に協力してるのはともかく、ただの協力者にそこまで内情知らせねえだろ、普通」
青山は赤谷を捕まえるために協力していると聞いていた。赤谷の知人である青山に協力を求めるというのは分かるのだが、陣頭指揮じみた事までやっていて明らかに異常なことをしている。
一体どんな立場になっているのか。
その疑問に対し青山は手練手管のカラクリを明かす詐欺師みたいな笑顔を浮かべた。
「以前から怪獣の裏取引が行われていることには気が付いていました。今回の件も独自のルートで情報を掴んでいて、多分その筋なんだろうなと思っていたから半分カマかけで交渉したんですよ」
「頭おかしいんじゃねえのか」
警察相手にハッタリかまして交渉する青山も、そんなのにノセられて指揮権まで渡してしまうお上もどうかしている。
……どうかしているので、裏では更にえげつない取引があったのだろうと予想がついた。
その内容については聞きたいような聞きたくないような。多分聞いたら呆れるかキレるかするだろうと思ったのだ。
「赤谷さんの逃亡を補助するグループを作ってそこに連中をおびき寄せる作戦を立案したら陣頭指揮を任せてもらえましたよ」
「お前が立ち上げたのかよ!」
酷いマッチポンプだった。追う方も逃がす方も頭が同じだった。
とんでもない茶番である。一生懸命になって自分を逃がしてくれていた連中に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
そして目の前で爽やかに笑っているサイコパスに腹が立って仕方なくなってきた。
「お前な……」
一言いってやろうとしたその時、
「な、何か吐き出したぞ!?」
後ろでやいのやいのとやっていた警官たちと密輸業者の間でなにかあったらしい。振り向くと、押しつぶされている密輸業者の男の側に胃液で汚れた謎の球状物体が転がっていた。
それは一本しか針のない時計のようなものが組み込まれた、機械仕掛けの卵に見えた。
針が、カチコチと音を立てながら進んでいき、頂点に達すると音を立てて卵が立体パズルのようにバラバラと崩れていく。
その中にあったのは茫洋とした光だった。取り留めのない形をしていた光が命の形をとりはじめて、ボコンと膨らんだかと思えば胴体に比して短い手足と重たげな尻尾のある怪獣の姿へ変貌していく。
それは大きな怪獣だった。三メートル弱もあるだろうか。頭に対して後ろに伸びて尖った耳が天井をこすって埃を舞わせている。
「う、うわあああ!」
景観の誰かが悲鳴を上げた。それに合わせるみたいに怪獣が体を捻ると天井が音を立てて削れ、粉塵が舞う。
一歩踏み出した足下が陥没し、飛び散った破片が赤谷のところにまで飛んできた。
その瞬間、赤谷は壊獣くんを手に飛び込んでいた。そして同時にボタンを押し込む。
『この世の思い出に円月殺法……』
懐に踏み込んだ赤谷が怪獣を見上げる。
『ご覧に入れよう!』
斬撃が怪獣の足の付根から下腹部に向かって走る。軽くてちゃちなプラスチックの刃が怪獣の強靭な肉を理不尽に切り裂く感触が赤谷の手に伝わってくる。
しかし、
「なに……!?」
斬撃は、肉にわずかに食い込んで止まっていた。壊獣くんが自分はプラスチックだったということを思い出したかのように先に進まない。そして肉に挟まれてがっちりホールドされて引き抜くことさえ出来なかった。
「出力が足りてない……! 赤谷さん、一回離れ」
離れてください、そう言おうとした青山を遮るように怪獣は自分の足元の鬱陶しい虫を捕まえるように赤谷をその手で鷲掴みにしていた。
人形を鷲掴みにする子供みたいな仕草で胴体を握られて捕まった赤谷は、自分の視点が強制的に高いところに持ってかれていく感覚に少し面白みを感じていた。
ーーまるで遊園地のアトラクションみてえだな。
そんなことを悠長に考えていると、日本語ではない、赤谷には理解できない言語が部屋の中に響き渡った。
例の二人組のどちらかが口にしたそれを聞いて、青山の顔に滅多にない緊張が走る。
「いけない……! みんな、ここから離れろ!」
何事か喚いている青山の声が遠くなっていく。赤谷の視点がどんどん高くなっていく。ジェットコースターの、最初の山を登っていく時のような感覚だ。
引き返せないところまで勝手に進む。自分の力ではどうしようもないところへ連れて行かれていく。これから起きる大変な状況へ誘う音が、機械のそれではなくて、崩れ去っていくビルの音だという点がまるで違った。
怪獣の体が更に膨らんでいく。一つのフロアに収まりきらず天井を破り、壁を貫きビルを内部から破壊していく。
やがてその全身が外気に触れた。ガラガラと音を立ててビルだったものが剥がれていく。
空を見上げて月に向かい咆哮する。その恐ろしい声に街中が目を覚ます。恐怖に染まった声がのぼり、それが伝播するように広まっていく。
遠からん者は音に聞け、近くに寄らずとも目を瞠れ。そう言わんばかりに存在を主張する怪獣が最初にした事は、短い腕を適当に振って、握っていた赤谷を投げ捨てることだった。
低めの弾道、ほとんど直線みたいな放物線。音を置き去りにしかねない速度で交差点に侵入した赤谷の体が、走っている車の前で地表に落ちるとバウンドし、その車のフロントガラスに激突した後、後続の車のボンネットを跳躍板にもう一跳ねした。
その僅かな滞空時間が妙に長く感じる。何故か昔の事とか脳裏に浮かんでくる。常人なら掴まれてる時点で半死半生、投げられたタイミングで御陀仏のところ、赤谷は悠長にも今更走馬灯が見えているようだった。
子供の頃の記憶だ。当たり前のように何者でもなかったけれど、とっくの昔に責任だけは生じているとかいう詐欺みたいな状態の少年に、それを教えた男の野放図な笑顔が色濃く記憶に残っている。
言われたことは子供ながらに正しく思えたし、今でも正しいと思っている。その男の人間性など知らないが、その教えは赤谷という男を形成する一部になっていた。
白昼夢みたいな走馬灯から帰ってくるとそこかしこから悲鳴が聞こえてくる。老若男女を選ばない多様性に満ち満ちて極めて平等な災いが降り注いでいた。体中が痛い。普通の人間なら五体バラバラで死んでいただろう。このまま起き上がらなくても誰も責めはしないだろう。
「……赤谷さん!」
体を揺する男の声がする。薄っすらと目を開けると青山のいつになく緊張した面持ちがそこにあった。
「青山……」
掠れた声で名前を呼ぶと、青山は幾分かホッとしたような表情を浮かべた。
「無事なようで何よりです。立てますか?」
立ち上がるのに手を貸そうとする青山の手を払い、赤谷は何事もなかったかのように立ち上がった。
しっかりと目を開くと、街が火に包まれている。怪獣が暴れまわっていくつものビルが崩れ、そこかしこで車の衝突事故が起きていた。逃げ惑う人々の群れが赤谷と青山の横を一目散に走り抜けていく。
腹の中でぐつぐつと煮え滾る何かがある。一方で冷徹な感情が脳内を支配して頭が冷えていく。
「問題ねえ。おい、警官は無事か」
「なんとか。今は住民を逃がすのに尽力されていますよ」
「そいつは重畳……ネギボーは?」
「赤谷さんのリュックはあの二人組が持っていってしまいました」
「そうか……」
はあ、と大きなため息をつく。
「とりあえず、あのクソ野郎共をぶっ殺すのは後回しだな」
そう言うと赤谷は首を回し、指の骨を鳴らす。
「あのクソデカ怪獣から片付けるわ」