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ラズーン 7  作者: segakiyui
5.欺かれた『運命(リマイン)』

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2110000ヒット、ありがとうございました!

「……ユーノ」

 血の気が引く思いでアシャとギヌアのやり取りを見ていたユーノは、背後からの声に瞬きした。振り向くとシートスが厳しい顔でこちらを見つめている。

「どういうことだ」

「…」

 ちらりとアシャを見たが、相手は止める様子もない。ことここに至っては、何を隠す意味もないということだろう。

「…詳しくは省きますが」

 何をどこまで説明しても、納得などできないだろう。小さく吐息し、ユーノは続ける。

「『運命リマイン』は、昔、ラズーンが支配力を保つために作り出したものです。『氷の双宮』で生み出され、ラズーンに歯向かうものを粛清すべく、世界に配置されていました」

 ぐ、と何かを問いたげに開こうとした口を、シートスが堪える。

「…それがある日、世界の覇権を望んでラズーンに牙を剥いた………けれど、彼らは、『人』と違って自分達で次世代は作れない。『氷の双宮』で生み出されることでしか数が増えない………勝利を願うなら『氷の双宮』を手に入れる必要がありました」

 シートスの顎の線が一層強張る。ユカルが先に口を挟む。

「…だから、奴らはラズーンに宙道シノイを繋ぎ、入り込んで時期を伺っていたのか」

「……たぶん」

 ともすれば、自分も疲労感に呑み込まれそうになりながら、ユーノは続けた。

「外側からラズーンを諸国軍で叩き、その隙に内側から『氷の双宮』へ侵入する。表向きはギヌアを王とすれば、『運命リマイン』は『人』と入れ替わって世界を支配することができる、けれど…」

 恐らくは、『氷の双宮』への籠城が成功した時点で、『人』の勝利は定まったのだ。

 ただ、万が一、圧倒的な数で押し切られ、『氷の双宮』が奪還されれば、形勢は逆転する。新たな軍が生み出され、時には太古生物さえ作られて戦乱に投入されたかも知れない。

 またあるいは、あまりにも戦乱が広げられて、世界各地で『人』が大幅に減少してしまうような状態になれば、身体能力が高く『人』に乗り移れる『運命リマイン』が、世界規模で優勢になる。『人』は少しずつ数を減らされ、『運命リマイン支配下ロダが増え、遅かれ早かれ、世界は『運命リマイン』のものとなっただろう。

 勝てる道筋は非常に少なく、間違いは許されなかった。『氷の双宮』を封じ、各地に散っている『運命リマイン』軍をできるだけ引き寄せ、集めて一掃する必要があった。新たな『運命リマイン』を加えられない状況で、今動き回っている『運命リマイン』の数さえ減らせば、『人』の勝利は確定する。

 そのためには。

 ぎりっとシートスの奥歯が鳴った。

「『人』は…また、生まれる、から、『運命リマイン』を、できるだけ、減らすための、囮として、戦線を、展開、した、のか」

 苦しげに吐き捨てるように唸る。

「集めた『運命リマイン』を、アシャが焼き尽くせば、『氷の双宮』を奪えない『運命リマイン』に勝機はない、数が、足りなくなる」

「……そういうこと、です」

 答えながら、ユーノは泣きそうになる。

 多くの友人を失った。多くの絆が立ち切られた。『氷の双宮』さえ守り抜けば勝利すると、教えてくれれば、もっと苦しさが減っただろうか、悲しみが和らいだだろうか。

 けれどまた、ラズーンが今にも落ちそうな、それを必死で堪えるような、全力の抵抗があったからこそ、『運命リマイン』は勝利を確信して全軍で乗り込んできて、待ち構えていたアシャに一掃された。もっと早くアシャが前線に出ていたら、ギヌアもシリオンも兵を温存し、今回よりもっと大規模な『人』に紛れて『氷の双宮』に入り込み、知らぬ間に『人』は追い詰められて消えていたのかも知れない。

「主戦力を失い、『氷の双宮』を奪われ、世界に散っている『運命リマイン』をアシャが掃討すれば………『運命リマイン』は世界から消えていく」

 ユーノは深く息を吐いた。

「ラズーンの、勝利です」

「……」

 シートスがきつく唇を噛む。持って行き場のない怒りに拳を握りしめて俯く。

「……勝利…って」

 背中でユカルが低く呟く。

「こんなものを…勝利って、呼ぶのか…?」

 では、何を持って勝利とするのか。

 ユーノの胸に問いが詰まる。

 生き延びて、明日もまたこの世界で目覚めたい、それを望んでいたのではなかったのか。

 脳裏を過ぎる、東の焼け野原、倒れていった平原竜タロの声、これで終わりだと何度も覚悟して握った剣の重さ。

 何を持って、正しかったと安堵できるのか。

 地面を叩きながら何かを罵り続けているギヌア、それを見つめていたアシャが、ゆっくりと背中を向けた。歩き出す、だがそのまま無抵抗に前のめりに倒れていく。風に髪が煽られ、至上の美貌と評された顔の額から右頬が、赤く焼け爛れているのが見えた。

「っ、アシャ!」

 思わず駆け寄ったユーノの手を振り払おうとしてままならず、体を保つことさえできず、アシャは目を閉じ、意識を失う。

 あれだけの攻撃をどうやって繰り出していたのか、どんな力を蓄えていたのか。今はひんやりと冷えた上半身を抱え上げると、見えている以上に全身傷だらけになっているのがわかった。むしろ今まで動けていた方が不思議なほどだ。

「アシャ…」

「……寄越せ」

 ぐい、とシートスが手を出し、アシャを引きずるように担ぎ上げた。

「ギヌアはユカル、お前が連れて行け。ユーノ、お前はこっちだ、アシャを抱えてろ」

 『人』なら手当が必要だ。

 突き放すように呟いて歩き出すシートスに、ユーノは慌てて従った。


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