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ラズーン 7  作者: segakiyui
5.欺かれた『運命(リマイン)』

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2110000ヒット、ありがとうございました!

「…なぜだ…」

 ことばもなく相手を見上げていたギヌアが、堪え切れないように呻いた。

「なぜ、そんな力を持っている…」

 アシャは答えない。

「そんな力を持っているなら…なぜ、もっと早く、使わなかった…」

 背後に振動を感じた。肩越しに見やると、黒く焦げた敵兵を踏み潰して、ユカルとシートスが駆けつけている。ユーノの背後で平原竜タロを降り、対峙するギヌアとアシャを無言で見守る。

 四大公は力を失い、ラズーンは崩壊し、野戦部隊シーガリオンはほぼ全滅した。

 それほどの力を、なぜもっと早く、使わなかった。

 ギヌアの問いはシートス達の問いでもあっただろう。

「……なぜ…もっと早く……『運命リマイン』を…潰さなかった……!」

 ギヌアの声は悲痛だった。

「不可能だ」

 淡々とアシャが応じた。

「そんなことはない、それだけの力があれば…っ」

「『運命リマイン』は全世界に散っている。拠点を探し出し、虱潰しに潰したところで意味はない」

 静かな声で理を説く。

 かつて世界を闇から支えた力だ、確かにすぐに一掃するのは難しかっただろう。

「だが……だが……『ラズーン』として正面からぶつかったところで、どちらが勝つかわからなかったはずだ…っ」

 ギヌアが必死に訴える。

 事実、アシャが黄金の奔流を放つまで、『運命リマイン』は勝機を掴んでいた。

「例え、『氷の双宮』に立てこもって戦っても、お前さえいなければ十分に勝てた…! いや、今でも『運命リマイン』はまだ、世界に散っている。諸国から掻き集めれば…っ!」

「今なら勝てる、と思ったのだろう?」

 優しいほど静かな口調でアシャが尋ねた。

「四大公を失い、野戦部隊シーガリオンを失い、兵力を失ったラズーンを、今なら潰せると軍を集めた。この戦いで勝てなくとも、『運命リマイン』は『人』にすり替わり、操ることもできる。減った軍勢は『人』で補える。そう過信して、多くの『運命リマイン』を集めただろう?」

「しかし、それでも、まだ…っ」

 髪の毛を振り乱して反論するギヌアが、聞き分けのない幼い子どもであるかのように、アシャは少し微笑んだ。

「もう、足りない」

「…え?」

 何を言われたかわからない、そんな顔でギヌアが瞬く。

「俺はこの後、世界を回る。手当たり次第に『運命リマイン』を減らすのだから」

「…?」

 ふいに悪寒に襲われて、ユーノは身震いした。

「ユーノ? どうした?」

「いや、今、何か」

 とんでもないことを聞いたような。

 ユカルの声に、不自然に震える自分の体をそっと抱く。

 『運命リマイン』を減らす。

 アシャのことばが頭の中に繰り返される。

 『減らす』? 

 『殺す』ではなく? 

 なぜ、『減らす』ことが『運命リマイン』の敗北条件になる?

「まさか…」

 思いついた戦略はユーノの体から力を奪う。

「とっくに、勝敗はついていた、のか…?」

 座り込みたくなる脱力感を必死に堪えて、話し続けるアシャとギヌアを見る。

 信じたくない、見たくない真実が今、暴かれようとしている。

 ギヌアが掠れた声を上げる。

「そんなもの…っ、お前がいない場所で、『運命リマイン』はまた再び力を取り戻し」

「無理だ」

 アシャは一言で応じた。戸惑うギヌアを憐れんだように付け加える。

「『運命リマイン』は性別がなく、子を為せない」

「………は…?」

「『氷の双宮』でしか生まれない」

 ユーノの頭で目まぐるしく光景が切り替わる。ガラスの筒の中の不思議な生物。滅亡が予定された世界で、命を紡ぐべく作られた装置。

「何の…話……」

 問いかけるギヌアの顔は蒼白だった。質問とは逆に、第二正統後継者であったのだから、アシャが何を話しているかはわかったのだろう。アシャは躊躇うことなくことばを続ける。

「『氷の双宮』は再生を止めた」

「……」

「もう何も生み出せはしない」

「……ばか、な……」

 そんなことをすれば、いずれ『人』も。

「まさか…」

 言いかけたギヌアが目を見開く。アシャが肯定するようにゆっくりと頷く。

「もう、『正しい形』でなくても良いのだ」

「……」

 ギヌアは零れ落ちそうなほど開いた瞳でアシャを見上げる。

「…『人』は既に世代を重ねている。『氷の双宮』に退避した『人』は、次の世代を繋ぐのに十分な数が揃っている……もう『氷の双宮』を必要としない」

 あの場所を必要としたのは、『運命リマイン』だけだったのだ。

「あ……あ……あ」

 冷徹な声音に、ギヌアが崩れるように両手をついた。

「ラズーンを……放棄した……? なぜ……なぜ絶対の……優位を……安全を……」

「『氷の双宮』は遠からず破壊される」

 アシャはなおも穏やかな口調で続けた。

「もう、何人も、世界の未来に、手を伸ばすことは許されない」

「ああ……ああ……あああああ!」

 ギヌアが慟哭する。

「バカな……そんな、馬鹿な……!」

 がさり、と『運命リマイン』であったものが、風に崩れる。

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