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ラズーン 7  作者: segakiyui
5.欺かれた『運命(リマイン)』

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3

 残念ながら、移動先での一休みと食事にはありつけなかった。

 周囲を警戒しながら進んでいたはずだが、燃え続けて収まる気配のない『氷の双宮』に皆が気を取られた一瞬、

「敵襲!」

「っっ」

 先頭に立っていた仲間が声を上げる。水を一口、含んでいたユーノが急いで振り返ると、

「後方索敵終了、前方注意!」

 ユカルが声を上げて駆け寄ってくる。

「おい…まさか」

 シートスがゆっくりと平原竜タロを止めた。ユーノも前方に現れた一軍に目を見開く。黒づくめの集団、全て騎乗しており、各々手に黒い剣を引き抜いている。雨に濡れたマントを身に付けている者もいるが、晒された顔はどれもどこか似通っていて、黒髪を風に舞わせ、赤い瞳に薄く笑みを浮かべている。

 その中央には、白髪で赤い瞳の男が黒い鎧をつけていた。

「ギヌア……ラズーン…」

「…こんな所まで……大将が入り込んでいる…だと」

 既に外界の蹂躙は終わっている、と誰もが察した。

 残された最後の場所がここで、人が唯一残っているのが『氷の双宮』だ。

 そして、今目の前の男は、明け渡された人の世界を引き継ぐために、配下を引き連れ乗り込んできたのだと。

「…隊長…」

 掠れた声が零れた。

「くっ」

 歯を噛み鳴らし苛立ちに満ちた呻きが応じる。

 やっと掻き立てた闘志が見る見る野戦部隊シーガリオンから奪われていくのを感じた。

「よく働いてくれたようだな」

 嘲りを響かせてギヌアが目を細める。

「そこかしこに、人が死んでいる」

「他人事のように!」

 ユカルが唸った。

「貴様のせいだろうが!」

「同胞を殺せなど命じた覚えはない」

 くすくす、と堪えかねたように笑い声が応じた。

「殺し合ったのは人同士だろう」

 ユーノはごくりと唾を呑んだ。懸念が固まる。

「始めから……周囲の王を使い捨てる気だった…?」

「…」

 シートスが鋭くこちらを見る。

「欲望を煽り、権力と褒美をチラつかせて、人を人で始末する気だった?」

「世を手にするのは『運命リマイン』のみ」

 ギヌアの側に居た『運命リマイン』の一人が、男女区別のつかない滑らかな頬にうっすらと笑みを刷いた。

「お初にお目にかかる。シリオンの名を持つ。この場において、もう一人の正統後継者と相見えるのは僥倖、我らが王ギヌア・ラズーンの露払いをさせて頂こう」

「こんな状況だ、不敬は許して頂こう」

 シートスが冷ややかに唸る。

「一体何が欲しいんだ?」

「世界を我が手に」

 シリオンは笑みを深めた。

「幻に支えられているあやふやな命を明らかにし、我らの宿命を終わらせる」

「宿命とは?」

「この世界を陰から支え続けてきた傷みを知るまい」

 別の声が集団から応じた。

「産み捨てられ使い尽くされる命を知るまい」

 また別の方向から声が響く。

「世界を取り戻すのだ」

 違う声が、

「我らの世界を」

 違う方向から、

「人にのみ与えられていたのではない」

 違う顔で、

「我らこそ、この世界の主」

「……自らを律することもできずに繁栄を享受する愚かな種よ」

 シリオンが冷ややかに告げる。

「犠牲なく、人であるだけで生き延びることができると思うな」

 ユーノはゆっくりと息を吐いた。

 今まさに圧倒的な力で破滅に追いやられているはずなのに、幾度も剣を交わして殺し合ってきた相手から伝わったことばは、あまりにもよく知ったものだった。それこそ、敵味方だけではなく、人であったなら、いつかどこかで繰り返し聞いたことば。

 どれだけ傷ついてきたと思ってるんだ。

 お前達ばかり、いい思いをしやがって。

 そんな資格はないくせに。

 頑張ってきたのは私達で、お前達じゃない。

 私達に返してくれ、この苦痛に見合う償いを。

 胸が詰まる。

 同じ声が、ユーノの中にも響いているとわかったから。

「それでも」

 剣を引き抜く。

「ここで死ぬわけには、いかないんだ」

 目を閉じて祈りを捧げたくなったのを堪え、しっかり見開いて冷たく嗤うギヌアを見つめる。

 『運命リマイン』達の願いを人が踏み躙ってきたと伝えられて、ならばと人に反旗を翻した、そんな柔らかなもので『運命リマイン』の王と名乗ったわけではないと知っている。ギヌアにはギヌアの欲しいものがあり、その道筋のどこかが『運命リマイン』と重なってしまったとわかっている。

 誰かの、どちらかの在り方が違えば、別の結末もあったのかも知れない。

 けれど、人同士を殺し合わせるために、人の間に呑まれていった『運命リマイン』達は戻らず、『運命リマイン』に操られたとは言え人を屠った所業は、まさに人が願ったもの。

 彼方昔、星が降りた世界で起こっていた出来事が、寸分違わず繰り返されていく。

「虚しいよね」

 今度はゆっくりと息を吸う。シートス、ユカル、其々に気合いを高めていくのを感じる。『運命リマイン』の数人がマントを払い落とし、笑みを消す。ギヌアが静かに後退し、シリオンが先頭に立つ。

「間違っているのかも知れない、けれど」

 私は、生きることを選ぶ。

「シリオンっ!」

「ユーノぉおおっっ!」

 満面の笑顔で突進してくる相手の前へユーノは飛び込んでいく。

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