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ラズーン 7  作者: segakiyui
4.白亜燃ゆ

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17/26

5

「大丈夫か!」

「…ユカル……」

 ユーノに覆い被さるように押さえつけて後、がばりと体を起こした顔を見上げて呟く。

「…ユーノ…」

 相手もユーノとは気づかず助けたのだろう、意外そうに見下ろし、次の瞬間一気に頬を紅潮させて抱きついてきた。

「ユーノ! ユーノ! 無事だったんだな!」

「あ、ああ、あの、野戦部隊シーガリオンは…」

「数は減ったが、大丈夫だ」

 ユーノの問いに我に返ったのだろう、再び体を起こしてユーノも引き起こしてくれながら、

「……『鉄羽根』が散った。南門から出てきた兵に強襲されて、ジーフォ公も」

 厳しい口調で教えてくれた。汚れた頬にはかつて見なかったきつさがある。

「そう、か」

「追撃するために南門が閉められる前に駆け戻って、かろうじて閉門前に滑り込んだんだ。南門近くで休息を取って索敵にかかったら、あの有様だ」

 苦々しい顔でユカルは『氷の双宮』を顎で示す。促されて見上げた視界に躍る炎、微かな違和感がまた過った。正体を探ろうとすると、来るか、と家の陰に待っていた平原竜タロを示されて頷く。ちらりと通りの彼方を伺ったが、炎を操り楽しむようなアシャの姿はどこにもない。ひたすら歩き回ったところで見つけられるはずもないだろう。それよりも、シートス達と情報を突き合わせ、何が起きているのか、何をしなくてはならないのかを確かめなくてはならない。

「周囲に敵は?」

 ユカルの背後で平原竜タロに跨りながら尋ねると、ユカルは難しい顔で首を振った。

「居た、というべきだろうな。胸が悪くなる光景だ。凄まじい数の死体が転がってる。数百じゃきかないだろうな」

 燃えている、のか。引っ掛かる感覚に戸惑いながら、冷える胸に顔を歪める。

「民衆が焼かれて…?」

「違う……確かめたが、たぶん、潜んでいた武装勢力の一部だろうって、シートスが」

 ユカルの眉はますます強く顰められた。平原竜タロを操りながらゆっくりと南門方向へ戻る。同じように索敵していたのか、数頭の平原竜タロが現れ、見覚えのある顔が頷き返してくれた。

「三角州から消えた軍勢か」

「南門周囲だけだが、宙道シノイらしいものがあったような場所が幾つか見つかっている。ラズーン全域に換算したら、かなりの未確認の宙道シノイが見つかるだろうってさ。一体いつから、こんなにラズーンの守りがスカスカになっていたのか」

 舌打ちしそうなユカルの声にユーノは唇を噛む。

 おそらくは密やかに静かに、目立たぬように『運命リマイン』の手が少しずつ少しずつ入り込み、平穏に飽いた人々の隙に黒く澱んで溜まっていたのだ。ミダス公にまで届いた後は、視察官オペを巻き込むのも簡単だっただろう。ギヌアが自信ありげだったのも、必ずラズーンに返り咲けると豪語したのも、その澱みのありかを把握していたからだ。

 ただ。

 ユーノは背後を振り返る。

 人の戦場ならば、ギヌアの策も通っただろう。だが、何かの一線が鋭く引かれた後は、戦況が全く変わってしまった。『人』を『氷の双宮』に集め『それ以外』を全て焼く、と決意した『誰か』の容赦のない意志。

 『氷の双宮』を包み燃え上がっている炎が、勢いも火力も変わらず同じ程度に保ち続けているのを見て取った。脳裏に蘇るのは、旅の間にアシャが放った金の靄だ。周囲を焼くことなく、対象だけを金色の光で包み消し去る力。

「何か、おかしなことが起こったんだろうって、隊長は言ってる」

 ユカルの声に意識が戻った。

「俺達だけじゃない、『運命リマイン』側にも想定外の出来事が起こって」

 本来ならとっくに陥落しているはずの『氷の双宮』が、炎に包まれたまま守られている。

「ああ……そう、だね」

 ユカルのことばで腑に落ちた。

 その通りだ。見かけは確かに『氷の双宮』が燃やされているように見える、けれども、『氷の双宮』にはラズーンの中で生き残った『人』が集められ、内壁の門は閉ざされ、この場所に残されているのは敵と野戦部隊シーガリオンのみだろう。

 アシャは繰り返し炎を放ち続けていた。おそらくは、この内壁全てを焼き尽くし、存在する『運命リマイン』とそれに与する『人』も全て滅ぼし終わって、ようやくこの炎は収まるのだろう。

 『氷の双宮』を餌にした、巨大で冷酷な罠。

 これが今のラズーンの正体なのだ。

「かと言って、全部が全部焼かれたわけじゃない」

 ユカルが速度を上げた。

「まだいくらか『運命リマイン』軍は残っていて、今はそっちの相手をしている」

 お前はどうする。

 尋ねられて、ユーノは顔を引き締める。

「一緒に『運命リマイン』を掃討する。それと」

「それと?」

「…アシャを見つけたい」

 見つけ出して、何を企んでいたんだと詰りたい。

「同感だ」

 ユカルは苦く笑った。

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