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習得に向けて

 突如として、割れた地面より伸びてきたもの。それは二人共が想像した通りの魔物であった。


【グレートサンドワーム(亜種)】

【Lv100α】


 ステータスを確認するも間違いはなかった。よりによって出現報告のないグレートサンドワーム亜種をここで引き当てるだなんて完全に想定外である。


「すごっ! リョウちん、ミミズに餌だと思われてんじゃない!?」

「うるせぇ! なんて危ねぇ場所に倉庫建ててんだよ!?」

 確かに強敵を探していた。けれど、今はノーマルのグレートサンドワームこそが求める魔物であり、死に戻りする可能性がある魔物なんて論外である。


「いやあ、リョウちんの逆幸運は良い感じ! スキル習得にお誂え向きだね!」

「お前、戦う気かよ? こいつで一度死んでんだぞ!?」

 どうやら夏美は戦うつもりらしい。出張データであったものの、グレートサンドワーム亜種は精霊石を使う羽目になった魔物だというのに。


「もちろん戦うよ。連続で最大値を引くわけないじゃん? レベル200なんて早々引きっこない。せいぜい150あれば強い方じゃない?」

 夏美は楽観的に考えている。まあしかし、一理あるように思えた。連続で最大値を引くなんて考えられないし、何より一度倒した魔物だ。逃げるよりも挑むべきかもしれない。


「戦うならディバインパニッシャーは封印する。使用するのはゲームで実装されている呪文だけにしよう」

 一応は王者の盾も装備から外した。出張データであるけれど、諒太は改変を最小限とするために、できる限りのことをすべきである。この度は夏美が金剛の盾を覚えるだけで良かったのだから。


「よし、じゃあ行くよ!」

 スキル習得が最優先だと確認したばかり。しかし、夏美はソニックスラッシュを繰り出している。倒すことが目的ではない現状において正しい行動ではなかった。


「ナツ、突進を防御しろ!」

 砂塵や噛みつきではいつまでかかるか分からない。それならば序盤に繰り出す強めの攻撃を防御していくべきだ。それが最も安全であり、手っ取り早いはずである。

 ところが、想定通りには進まない。グレートサンドワーム亜種の攻撃は予想を遥かに超えていたのだ。


「きゃぁあああっ!」

 序盤の攻撃であるというのに夏美は吹き飛ばされてしまう。踏み留まることすらできないだなんて嫌な予感を覚えてならない。レベル差がないのであれば、防御スキルを使用せずとも持ち堪えるくらいは可能なはずである。


「ナツ、大丈夫か!?」

「痛い……。体力全部持ってかれたかも……」

 夏美は距離を取りポーションを飲んでいる。即死は免れたらしいが、限界ギリギリであったらしい。

 完全に予定が狂っている。想像以上の強さを持つグレートサンドワーム亜種。諒太はあり得ない想定を始めていた。もしかするとまたも同じ魔物を引いてしまったのではないかと……。


「リョウちん、アレたぶんレベル200だよ……」

 夏美もまた諒太と変わらぬ結論を出したらしい。序盤に繰り出す攻撃を防御しただけで瀕死となってしまうだなんて。体験したものと変わらぬ威力はそう考えるに十分な根拠となった。


「ナツ、これはスキル獲得どころじゃねぇぞ? 撤退した方が良いかもしれない」

「嫌だ! あたしはここで習得する。精霊石も元に戻ってるし、何より一撃で死なないのが分かった。この攻撃を受けていたら金剛の盾を習得できるはず……」

 負けん気の強さは昔から変わらない。加えて夏美は頑固であり、自身が決めたことを簡単に曲げるような人ではなかった。


「じゃあ、ちゃんと防御しろよ? カウンターで食らったら一溜まりもないぞ?」

「それはもちろん! あたしは防御に徹するから、リョウちんが攻撃してね? ディバインパニッシャーは使えなくても、インフェルノを撃ってくれたらいいよ」

「いや、インフェルノは駄目だ。あの炎柱はペナムでも確認できる。あれを撃ち放つと大騒ぎになるのが目に見えているからな……」

 諒太は御者に聞いたのだ。夏美の倉庫で放ったインフェルノがペナムから見えたという話を。だからこそ騒ぎにしないためにも、諒太はSランク魔法の二つともを封印するしかない。


「じゃあ殴り倒すしかないね……。リョウちん、よろしく!」

 軽く言い放つ夏美。正直に昨日勝てたのはディバインパニッシャーのおかげであるというのに。Sランク魔法を封印し、物理攻撃を繰り返すだけだなんて精霊石が幾つあっても足りそうになかった。


「スキルを獲得するまでだぞ? 猛突進を繰り出す前に習得しろ。そのあとはエリア外まで突っ走るからな?」

「分かってる分かってる! さあ戦いを続けよう!」

 些か不安を覚えるのだが、ここは夏美を信じようと思う。スキル習得の場面で貴重な精霊石を失うわけにはならない。夏美であれど、それくらいは理解しているはずだ。


 このあとも二人は戦い続けた。夏美の体力を常に気に留めながらスキル習得を目指す。

 ところが、一向に習得する気配すらない。夏美は突進を防御するたびに瀕死となっているというのに。


「ナツ、出張データの俺では効果がないのかもしれん。これ以上は無駄かもしれないぞ?」

「リョウちん、手本を見せて! その方がイメージしやすい!」

 暗に撤退を匂わせるも、夏美はまだ戦うつもりのよう。まあしかし、夏美が話す通りである。諒太もフレアのソニックスラッシュを参考にして習得に至ったのだから。


 直ぐさま王者の盾を取り出す。使わずにいようと考えていたけれど、生憎と諒太はこれしか盾を持っていない。

「しゃーねぇな……」

 吹き飛ばされてしまうと習得確率が下がってしまう。なかなか習得に至らぬ理由はそんなところであろう。

 既に突進のタイミングは掴めている。序盤であるからか割とモーションが分かりやすい。砂塵のあとに突進を繰り出す可能性が高いということは確認済みであった。


「ナツ、防御のタイミングを間違えるな。金剛の盾は宣言すると盾が輝き出す。黄色から白、そして赤くなっていく。最初の一撃を白色に合わせて受けるんだ。白色が最大効果であり、黄色や赤色に近付くに連れ効果が減っていく。宣言から一秒と少し。その辺りを意識して防御してみろ。習得にはイメージが大切だと思う」

 かつては諒太もソニックスラッシュをイメージし、宣言によって習得した。スキルの概要を理解することは習得への近道だと考えられる。


「早速か……。ナツ、よく見とけよ?」

 グレートサンドワームの巻き起こす砂塵が視界を奪う。だが、動じる必要はない。砂塵の向こう側で必ず突進に繋がるモーションを取っているはずだ。


「金剛の盾!!」

 宣言するやグレートサンドワームの突進。諒太はやや黄色がかった白色のタイミングで受け止めた。吹き飛ばされることなく、今も諒太は両足を大地についたままである。


「おお! リョウちん、カッケー!!」

 何だか昔を思い出す。諒太はいつもゲームの攻略法を夏美に教えていた。こんな風に手本を見せては夏美に指南していたのだ。


「ナツ、王者の盾を使え。これならダメージが抑えられる……」

 悪影響を考えると使用するべきではないだろうが、もう既に使ってしまったし、誰もいない荒野であれば、起こり得る問題は少ないように思う。


「これは凄い盾だね! 強いし格好いい!」

 夏美は早速と王者の盾を構える。白銀をした夏美の装備に漆黒の盾がよく映えた。元々重厚な鎧に威圧感のある王者の盾。色合いはともかくとして、とても似合っている。その様は何だか勇者らしくて諒太は自然とその姿に見惚れていた。


「よっしゃぁ! これなら勝つる!」

 即座に落とすところは夏美らしい。諒太的には勝つとかではなく習得だと言って欲しいところ。金剛の盾を覚えたのなら即撤退であるのだから。


 再び砂嵐が二人を包み込む。例によって例のごとくグレートサンドワームは身を縮めて突進のモーションに入った。

「ナツ、今だっ!」

 何度目かの突進。砂塵を抜けたグレートサンドワームが夏美を襲う。

「どすこい!!」

 掛け声には呆れてしまうが、何と夏美は持ち堪えている。一歩ですら後退することなく彼女は突進を受け止めていた。


『ナツがスキル【金剛の盾】を習得しました』


 刹那に通知が流れる。これには正直に安堵した。ようやくこの強敵とおさらばできる。危険を冒す理由はもうなくなったのだ。

「ナツ、倉庫へ入るぞ!」

 直ぐさま撤退である。危なっかしくもあるが、狩り場に倉庫があるのは便利でもある。辺鄙な場所に建てたことが今回は功を奏していた。


「やったよ、リョウちん!」

「ああ、おめでとう。素早さ重視の装備に変更だ。エリア外まで突っ走るぞ?」

 もうグレートサンドワームに用はない。異分子でしかない諒太であるし、強敵を倒すよりも早々にログアウトすべきである。


「やだ! あれを倒そう! あたしも砂海王の装備が欲しい!」

「いや、あれはレアドロップだろ? それに終盤にある猛突進を避けられるか? お前はあれで一度死んでるんだぞ?」

 あのような奇跡が二度も起きるはずはない。恐らく大きな魔石がゲットできるだけだ。

 加えて無傷で倒せるはずもない。最後にある猛突進は威力も範囲も半端ない無差別攻撃なのだから。


「あたしは王者の盾でスキルを使う。リョウちんは遠距離から魔法を使って。精霊石があるし、万が一の場合も大丈夫だから」

 残る精霊石はあと一個だ。ロークアットが使ってしまった今となっては代わりを用意できない。

 二人が撤退か討伐かで言い争っていると、


【着信通知 藤波彩葉】


 スナイパーメッセージの通知が流れた。

 どうやら夏美はスナイパーメッセージの設定をオープンとしているようだ。登録名がそのまま表示されている。ということは今まで諒太がかけた通話も夏美のフレンドに筒抜けであったのかもしれない。彼氏だと疑われたのはきっとそのせいだろう。


「リョウちん、イロハちゃんだけど割り込み通話で良い?」

「それって大丈夫か? 俺は色々と問題あるけど……」

「へーきへーき! イロハちゃんは思慮深いから!」

 夏美基準の平気は諒太基準で完全にアウトである。しかし、彩葉には色々と頼みごとをしていたし、挨拶くらいはしておくべきだ。


『あ、ナツ、アクラスフィアにいるの?』

 どうやら彩葉は夏美の居場所を探したらしい。恐らく彼女もゲーム中なのだろう。

「ああうん、今は倉庫だよ。とんでもない大物と戦ってる!」

「おいナツ!」

 余計な事を口走る夏美。廃人プレイヤーが大物と聞いて黙っていられるはずはなかったというのに。


『ありゃ? リョウちん君は出張ですかい? それなら私もお邪魔しよう!』

 諒太もまたやらかしてしまった。それにより予想通りの展開となってしまう。思わず声を発したのは完全に失態である。


「めっちゃ強いの! グレートサンドワーム亜種!」

「だからナツ!!」

『うはっ! グレートサンドワームの亜種なんか引いちゃったの!?』

 もう回避できそうにない。間違いなく彩葉はここにやって来る。夏美は一緒にプレイしたい感じであるし、言うに及ばず彩葉は参戦するつもりであろう。


「リョウちんの不幸は災厄を呼ぶからね。たぶんプラス100だよ!」

 夏美は諒太を疫病神のように語る。かといって諒太は少しも否定できなかった……。

『超アガるやつじゃん! ナツ、早く迎えに来て! ウォーロックにいるからさ!』

 諒太を完全に無視する形で聖騎士イロハの参戦が決まった。しかし、問題は諒太が勇者であることだ。セイクリッド世界では覗き見られる心配はほぼないけれど、プレイヤーであるイロハには丸見えである。どのような説明が適切なのか考えなくてはならない。


「リョウちん、パーティーを抜けてグレートサンドワーム亜種のタゲ取りお願い。そうじゃなきゃリバレーションも使えない……」

 そういえば戦闘中であった。夏美が一撃入れてしまったことにより、ログアウトも転移魔法も使用できない状況である。


「ああ、俺がソロで戦えばナツのターゲットが外れるのか。そのままログアウトして欲しいくらいだ……」

 嘆息しつつも諒太は一旦パーティを抜け、賛成したわけでもなかったというのに倉庫から飛び出していく。また諒太がファイアーボールを命中させたのを見届けた夏美は倉庫からそのままウォーロックへと転移していった。


「何の因果で俺は再び黒ミミズと相対してるんだ……?」

 溜め息がまたもや漏れるけれど、既にターゲットは諒太だけとなっている。必ず戦おうとする夏美を置いて逃げるわけにはならなかった。

 三発ほど撃ち放った諒太はグレートサンドワームが咆吼している隙に倉庫へと戻っている。あとは聖騎士イロハの登場を待つだけであった。


 しばらくすると夏美が再転移。パーティーを組んだ彩葉を連れて戻ってきた。

 騎士団の白いマントを翻し、聖騎士イロハは何やらポージング。格好いい登場だと考えているのだろうが、夏美の友達だけあって痛々しいことこの上なかった。


 また彩葉はゲーム内で初めて会うというのに、諒太に対して馴れ馴れしく声をかけている。


「リョウちん君、お昼ぶり!――――」


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