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悪魔の力

「神の裁きは虚空を生み出す。神雷よ降り注げ……」

 Bランク魔法を連発した割に魔力は安定していた。この感覚だと一発くらいであれば問題なく発動できる。注ぐ魔力を抑えながら撃ち込むには寧ろ最適かと思う。


『ロークアット、いくぞ。君は絶対に死ぬな……』

『わたくしは不動王の娘です。エクストラポーションを飲みました。どうか手加減なしにお願いします……』

 この期に及んで諒太は躊躇していた。グレートサンドワームの爆発をインフェルノの炎が阻止したように、Sランク魔法には直接ダメージの他に追加ダメージがある。


 精霊石が身代わりになったとしても、追加ダメージによってロークアットが失われてしまう可能性。麻痺だけで済めば良いのだが、生憎とそれは保証されていない……。

『リョウ様、焦らさないでくださいまし。これでもかなり緊張しているのですから……』

 追加的なロークアットの話に諒太もようやく決意する。

 全ては世界平和のため。ロークアットの覚悟を無駄にしないためにも。


「轟けぇぇっ! ディバインパニッシャァァアアア!」

 立ち籠める暗雲。夕闇迫る大地が一層暗くなった。渦を巻くように暗雲は巨大化し、大地と共鳴するような放電を始めている。


 一瞬のあと、耳をつんざく轟音を響かせながら瞳に焼き付く閃光が走った。それは強大な落雷。神の裁きが大地へと突き刺さった軌跡である。

 大量の粉塵が巻き上がり、即座に全員の視界を奪う。失われた視覚は諒太の不安をひたすら煽る。何かが爆ぜるような音もまた胸騒ぎを覚えさせていた……。


 次第に暗雲が晴れてゆき、視界は再び茜色に染まっていく。今もまだ大地には激しく電撃が迸っており、バチバチと不穏な音を奏でながら放電していた。


「ロークアット……?」

 落雷の中心部。薄靄は徐々に消失し、望むはずもない現実が露わとなっていく。

 呆然とする諒太の眼前。そこに立っていたはずの人影は、なくなっていた……。


「嘘だろ……?」

 大地に横たわるロークアット。大盾の上に小さな身体を預け、彼女はうつ伏せになったままピクリともしない。

 この光景にアクラスフィア王国軍は歓喜の雄叫びを上げ、スバウメシア聖王国軍は悲痛な声を上げた。


 諒太は駆け出している。もう既に計画とか気にすることなく、ロークアットへと近付き彼女を抱え込む。

「おい、ロークアット! しっかりしろ、ロークアット!」

 即座にエクストラポーションを取り出し、容体を確認することもなく彼女に飲ませる。今ならば間に合うと。ロークアットが息を吹き返すのではないかと信じて。


「ぅぁ……ぁ……」

 小さな吐息に諒太は気付いた。まだロークアットは生きていたのだ。間に合ったと表現した方が適切かもしれない。こんな今も体力を削るような電撃を彼女は全身に受けていたのだから。

 ふと諒太は見つけている。彼女が装備していたネックレス。それに取り付けられた精霊石が割れていることを……。


「精霊石……」

 やはりSランク魔法は絶大な威力であった。たった一発であったというのに、大盾もスキルも謎の指輪による効果でさえも防げなかったらしい。精霊石は身代わりとして砕け散るしかなかった。


「すまない……。ロークアット……」

 ロークアットは決意のままに役割を演じ終えた。ただ痛めつけられるだけの役を全うしてくれたのだ。少しも利がない諒太の要望に応えてくれた……。


「リョウ様……敵軍の将を抱きかかえるなんておやめください……」

「馬鹿言うなよ……。君が失われてはどうしようもない……」

 無意識に抱きしめてしまう。諒太は人目も憚らず涙していた。安堵というより悔恨の粒。その煌めきは途切れることなく流れ落ちていく。


 戦争を止めるための一芝居のつもりがロークアットを酷く苦しめた。結果を目の当たりにして気付くなんて本当に無能な勇者だと思う。誰かを救うための犠牲なんて決して許されないことであり、軽率な決断であったのは明らかである。


「リョウ様、完敗です……。早く締めに取りかかってください……」

 まだ辛かっただろうにロークアットは事態の収拾を求めた。諒太としてはまだ様子を見ておきたかったけれど、彼女の献身を無駄にしないためにも立ち上がるしかない。


「静まれ、アクラスフィア王国兵!」

 まずは大将を倒したものと考えているアクラスフィア軍に。一騎討ちした理由を勘違いする彼らを戒めねばならない。


「ロークアット殿下は勇敢にも一騎討ちを戦い抜いた。だがしかし、それはスバウメシア聖王国軍の敗北を意味していない! 更にはアクラスフィア王国軍が勝利したわけでもない!」

 声の限りに伝えていく。諒太が戦った意味。決してどちらかの勢力に荷担したわけではないことを。


「アクラスフィア王国軍にSランク魔法を浴びたい者はいるか!? Sランク魔法をその身に受け生き残れる者がいるか!?」

 フレアを睨み付けるように言った。イバーニが退場した結果、この場で一番強い人族は彼女なのだ。

「できないのなら大人しくしていろ。俺は戦争をやめさせたいだけであって、制止を無視して戦おうとする者まで守ってやるつもりはない」

 ディバインパニッシャーを撃ち放ったのは効果的だった。あの魔法を見たあとで逆らおうとするアクラスフィア兵はいない。やはりロークアットが語ったように相応の力を誇示する必要があったのだ。


「次にスバウメシア聖王国軍! お前たちも大人しく引け。被害者であるのは分かっている。だが、世界は破滅に向かっているんだ。人族には既に十分な罰を与えたはず。仲良くしろとまでは言わんが、せめて争うことはやめろ……」

 非があるのは人族だ。けれど、ここは勇者に免じて溜飲を下げてくれと願う。もう既に人族は大打撃を受けている。これ以上の罰は必要ないはずだと。


 スバウメシア軍もアクラスフィア軍と変わらず諒太の話を静かに聞いている。一人として偽勇者だなんて話は口にしなかった。

 万事うまくいったと思える。和平に向けた難関をクリアしたものとばかり考えていた。だが、諒太たちの計画はたった一人が声を上げたことによって破綻してしまう。


「ロークアット殿下! リョウという男は勇者ではありません! 勇者とはナツ様のような力を持つ者です。強大な魔力や未知なる魔法は悪魔が操るものに違いありません! こいつは悪魔に違いないのです!」

 反発したのは聖王騎士団長ソレルであった。

 彼の声に兵たちがざわつき始める。どうも力を見せつけたことが仇となったようだ。悪魔的な力であったのは否定できない。また先代の勇者ナツが脳筋戦士であったこともソレルの言葉に信憑性を与えている。夏美との違いが偽勇者であると彼らに思考させてしまうのだろう。


『リョウ様、困りましたね……』

『確かに悪魔的な威力ではあったけれど、どうしたもんかな……』

 ロークアットが直ぐそばにいたことで攻撃はしてこなかったものの、スバウメシア兵は悪魔ではないのかと疑い始めている。今以上の力を見せることもできないし、勇者であると訴えたとして信じてもらえる雰囲気ではなかった。


『お困りのようじゃの、婿殿!』

 不意に脳裏へ聞き慣れぬ声が届いた。かと思えば手の甲にある痣が輝きを放つ。それは一瞬にして諒太の身体を光で包み込み、終いには手の痣から何かが飛び出している。


 予想だにしない乱入者。この場面で唐突に現れていた……。


「じゃじゃーん! 皆の者、静まるが良いのじゃ!――――」

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