妖精の国へ
恐る恐る諒太が振り返ると、そこには横たわったエンシェントドラゴンの姿がある。それはもうピクリともしない。無尽蔵にも思えた体力をようやく削り終えたのだ。
「助かったのか……?」
まだ何かを隠している可能性。少しばかり不安に感じていたけれど、その懸念は直ぐさま払拭されている。
『リョウはレベル105になりました』
レベルアップの通知を確認し、ようやく安堵の息を吐く。ゆっくりと立ち上がった諒太は横たわったエンシェントドラゴンへと近付いている。まさかとは思うけれど、剥ぎ取り可能かどうかを確かめるために。
「マジかっ!?」
剥ぎ取り可との表示には思わず飛び上がってしまう。ボス級のモンスターは基本的にドロップがメインである。従って剥ぎ取りできない場合が殆どであった。
ナイフを取り出し、諒太は部位を探す。オークであれば鼻であり、ホーンラットなら角といった風に剥ぎ取り場所は決まっている。果たして巨大なドラゴンはどの部位が剥ぎ取りできるのだろうか。
頭から探していくと胸のところが反応を示す。よく見ると如何にもゲーム的に胸の部分が裂けていた。ソニックスラッシュによる傷だろうか。恐らくここから取り出せというのであろう。
「割と難しいな……」
弱い魔物であれば直ぐに切り裂けるけれど、そこ超レアというエンシェントドラゴン。傷口に潜り込むようにして諒太はナイフを動かしていく。基本的に念じれば勝手に身体が動くのだが、最低限の力は必要だし器用さも要求される。もしも規定値に達していなければ、消失時間内に間に合わず剥ぎ取り失敗となってしまう。
「一応は取り出せたけど、また石ころか……?」
剥ぎ取りアイテムは考えていたより遥かに小さい。巨大なドラゴンから手の平サイズの石ころだなんて。流石の諒太もこの結果には落胆するしかなかった。
【石ころ???】
未確定アイテムである。かといってミノタウロスの石ころのように期待はできない。何しろドロップアイテムではなく剥ぎ取りなのだ。全員がもらえるアイテムであれば、そこまでレアなものが用意されているはずもない。
「とりあえず鑑定士に頼むか……。てか今日の俺って……」
剥ぎ取りをすると立ち所にエンシェントドラゴンの死体が消失。本来なら魔石が残るくらいだが、今日の諒太はひと味違ったらしい。
「ドロップしてるじゃねぇか……」
大きな魔石の隣には宝箱があったのだ。宝箱の出現は何かしらのドロップが確定する。激レアモンスターのドロップであるのだから、期待値は天井知らずで跳ね上がっていく。
高鳴る鼓動。今度こそ排泄物ではないことを祈るばかりだ。緊張しつつも蓋を開くと直ぐさま宝箱が消えていく。
「やった……」
諒太は遂に引き当ててしまった。今度こそ間違いない。何しろドロップアイテムは石ころではなく、歴とした古代竜のアイテムであったのだから。
「古代竜の魔瘴……?」
何に使用するのか不明である。しかし、絶対に良いものだと思う。ドロップ対象の名が付くアイテムなのだ。ハズレである可能性よりも大当たりである可能性の方が高かった。
「ドロップは嬉しいけど、それよりも妖精女王にフェアリーティアをもらわないと……」
もう寝るのは諦めているが、製作依頼だけは済ませておかねばならない。製作にどれだけ時間がかかるのか分からないのだ。何とか登校前に依頼しておきたいところである。
「確かナツは大木が入り口っていってたよな……」
めっちゃ大木とやらに諒太は再び近付く。だが、やはり入り口は見当たらない。さりとて妖精の出入り口である。凄く小さな穴かもしれないのだ。大木を隈無く調査する必要があった。
「うおおっ!?」
大木に触れた瞬間、諒太の身体は吸い込まれていく。イベントボスを撃破したからか、強い力に引っ張られるようにして大木の中へと引きずり込まれている。
気を失うことはなかったが、気付けば諒太は暗闇の中にいた。
「ここは……?」
何も見えない。周囲は完全な闇に覆われていた。だが、ふと視界に光がチラつく。
それは淡い輝きを放っている。蝶のように頼りなく飛びまわるそれは諒太が想像していた通りの姿をしていた。
「妖精……?」
光の中心に小さな妖精の姿を見ている。初めて見るけれど、諒太の周囲をヒラヒラと飛び回るそれが魔物であるとは思えない。
「おはよー。こっちよ……」
何と妖精が喋った。どうやら諒太を案内してくれるようだ。諒太的にはまだ夜であったのだが、妖精基準ではもう朝なのだろう。
小さな光に先導されて暗闇を歩く。次第に闇は薄くなり、諒太の視界は回復していった。
「ここが……妖精の国?」
「そうよ! 女王様が待ってるわ!」
話が早いのは助かる。恐らくまだイベントが継続中なのだろう。妖精女王と会いフェアリーティアを受け取るところまでが区切りであるように思う。
色とりどりの花が咲き乱れる中、諒太が行き着いたのは小さな泉の前であった。
聞いていたフェアリーティアが入手できる泉に違いない。不純物が少しも混じっていないのか、水は透き通っており底の方まではっきりと見えた。
「よく来たな、善良なる旅人よ……」
泉を眺めていると不意に空間から光が漏れ出し、やがてそれは女性の姿へと変化していく。
現れた女性こそが妖精女王に違いない。さりとて彼女の姿は諒太の予想と違っている。妖精のように小さい身体かと思えば、彼女の背丈は諒太とあまり変わらなかったのだ。
何とか登校の時間に間に合いそうである。突如として現れた女王の姿に諒太は笑みを浮かべずにはいられなかった……。
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