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革工房カモミール

 試験が終わったというのに、アアアア大臣の子孫であるセリスの話は続いていた。諒太としては早く解放して欲しかったのだが……。


「ゴンドンを圧倒したのですから、Bランクでどうでしょうか? 我が国は貴方様を重用したいと考えております。今後の活躍によっては政治的なポストも用意可能です」

 どうもやってしまったらしい。真偽を見極めたセリスは諒太を取り込むつもりだ。冒険者ランクはともかく、行動制限が発生しそうな要職は断っておくべきである。


「ありがとうございます。ですが俺は冒険者が性に合っていますから……。今日はもう遅いのでこれで失礼しますね……」

「ああ、この時間なら宿はどこも一杯でしょう。何なら私の屋敷に部屋をご用意しましょうか?」

 余計な気を遣われてしまう。セリスは完全に諒太を引き入れるつもりのようだ。ログアウトするつもりの諒太に宿は必要ないし、ここも丁重に断っておくべきだろう。


「いえ、宿は問題ありませんので。これで失礼します」

 ギルドカードを受け取り、諒太は深々と礼をする。まさか生産職プレイヤーの子孫よりも先にアアアア大臣の子孫に出会うだなんて考えもしなかった。結婚システムが導入されているのだから十分にあり得る話だが、到着早々の邂逅なんて想定していない。


 そそくさと冒険者ギルドを飛び出し、直ぐさまマップを呼び出した。マップには店名など表示されていないが、諒太は生産職ストリートなるものを発見している。飲み屋がひしめく大通りから一つ南の通りがそれであるらしい。

「確かカモミールだったか……」

 生産職ストリートの交差点に【悪徳商会】なる看板を掲げた工房があった。しかし、そこは金属加工を得意とする工房だったはず。砂海王の堅皮はかなりの硬度を持っているけれど、素材としては革に分類されている。よってまず先に専門職であるカモミールへと行くべきだ。


 彷徨くこと数十分。諒太は閑散とした路地にその看板を見つけている。

「革工房カモミール……」

 恐らくここで間違いない。しかし、メインストリートの角地にある悪徳商会と比べれば如何にも寂れた感じだ。かといって夏美が勧めてくれた店である。明かりもついていることだし、話だけでも聞いてもらうべきであろう。


「すみません……」

 扉を開くも誰もいない。何度か声をかけていると、ようやく奥から男性が現れた。

「何のようだ? 商品なら陳列しているだろう?」

 店主らしき男は一般的なドワーフよりも背が高く体毛も少なく感じる。彼もまたプレイヤーの子孫に違いない。創業者であるココの血を引いているはず。


「ああいや、俺は知り合いに革製品ならカモミールに行けと言われて来たんです。カモミールってココさんが創業された工房ですよね?」

 万が一、夏美が話す店と違っては問題だ。創業者の名前が違っていたのなら、同じ屋号なだけで違う店だと思う。


「むむ、婆ちゃんを知っているのか?」

 やる気を見せなかった男性だが、急に食い付いてくる。婆ちゃんとはココのことだろう。現在から考えると夏美のプレイ時間軸は三百年前。人族であれば世代交代がかなり進んでいるだろうが、エルフ同様にドワーフたちも長生きであるらしい。


「ええまあ。とても良い職人だと聞いています。だから後継者の方も良い腕をしているんじゃないかと……」

「わはは、そうか! 婆ちゃんの知り合いなら大歓迎だ。何でも見ていってくれ!」

 彼はココを尊敬しているのだろう。良い職人だと口にしただけで態度を翻している。

「いや、製作依頼をしたいのです。超レアな革素材を加工して欲しいのですが……」

「ほう、オーダーか! 良いぞ、見せてくれ!」

 トントン拍子とはこのこと。廃プレイヤーの夏美が贔屓にするほどだ。きっと彼は最高の防具を作ってくれるに違いない。


 嬉々として諒太は砂海王の堅皮を取り出している。直ぐさまそれをテーブルに置き、やや自慢げな笑みを浮かべて彼を見た。

「むぅ、これは……?」

 流石に初めて見るはずだ。夏美であっても初めて戦った魔物。その戦利品なのだから、分からなくて当然である。


「お前さんはこれをどこで手に入れた?」

 どうもレア素材すぎたようだ。この素材が盗品ではないかと不審に感じているのかもしれない。

「アクラスフィア王国の西部。何もない荒野に現れるレアモンスターですよ。仲間と共に討伐しました。これはそのドロップアイテムです」

 嘘を言う必要はない。そのままを答えればいい。実際に起きたことであり、元よりそれは調べようもないことだ。


「こいつのドロップ対象を倒してしまったのか? 見た目とは違って強いんだな?」

「俺はリョウです。Bランク冒険者で腕前は自信があります。この素材を使って防具を作ってもらいたいのです」

 諒太の話に頷く店主。レアすぎて断られるという事態にはならない感じである。

「リョウ、よろしく。俺はウルムだ。一応はカモミールの三代目となる。婆ちゃんが残した技術の全てを継承しているつもりだ……」

 簡単な自己紹介をし、二人は職人と客の関係に戻る。諒太が何を作ってもらいたいのか。更にはウルムがそれを受注するのかどうかと。


「しかし、これは大変な仕事になる。鑑定眼で見たところ、この硬度では普通の道具じゃ歯が立たない。ミスリルの工具が必要となるな……」

「ミスリル製の道具を俺が揃えたら可能ですか?」

「ああいや、それには当てがある。ただし、肝心なものが用意できない……」

 一体何が足りないのだろうと小首を傾げる。素人的には道具が揃ったのなら作業可能だと考えていたのに。


 眉根を寄せる諒太にウルムは考えもしないアイテム名を告げた。

 まさに堂々巡りといった落胆せざるを得ない話を……。


「加工にはフェアリーティアが必要だ――――」

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