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ドワーフの奇面の奥に

 諒太と夏美がアクラスフィア王城の地下から貴賓室へと転移すると、そこには念話の通りにロークアットの姿があった。


「リョ、リョウ様……?」

 何やら戸惑いを隠せぬロークアット。かといって理由が分からぬわけではない。諒太が連れて来た非常に残念な人間が彼女を困惑させているはずだ。


「あー、こいつは気にしな……」

「ローアちゃん!?」

 無視してくれと頼むつもりが、先に夏美が口を開いた。恐らく夏美はロークアットのステータスを覗いてしまったのだろう。


「あ、はい……わたくしはロークアットです……。女性でしたか……」

 諒太はロークアットに睨まれてしまう。好き好んで連れ歩いているわけではなかったというのに。怪しげな仮面を着けた女性だなんて……。


「一応確認なのですが、人族の方ですよね?」

「もちろん人族だよ! 美少女天使と呼んでくれても構わない! このお面は決して趣味ではないのだけど、やんごとなき事情により装備してます!」

 そういえばドワーフの奇面であった。やはりガナンデル皇国とスバウメシア聖王国は敵対しているままなのだろう。ドワーフの面を被る夏美は不審がられてしまったらしい。


「人族であれば問題ありません。どうか外して頂けませんでしょうか? 兵が見ると不快に感じるかもしれませんし……」

 夏美は直ぐさま諒太の顔色を窺う。彼女としても外したかったのだろうが、諒太としては許可できない。正直に不審者認定の方がマシなのだ。三百年前の勇者が現れたなんて絶対に歴史が変わってしまうはず。


「すまんがこいつはこの仮面を外せない。でも身分は保証する。決して怪しい者でも敵対勢力でもない」

「そうですか……。リョウ様がそう仰るなら……」

 納得したようでロークアットは折れただけだろう。恐らくは嫌悪感すら覚えているに違いない。彼女の表情から感情が窺い知れた。


「ローアちゃん、ひょっとして結婚してるの?」

 夏美を黙らせたいところだが、諒太の意に反して彼女は質問を投げている。さりとて疑問のわけは明らか。ロークアットが装備する赤い宝石のチョーカーを見てしまったのだろう。


「いえ、結婚はまだ……。このチョーカーでしたらリョ……」

「さあ、セシリィ女王陛下に挨拶するぞ!」

 危機を脱するため強引な話題転換が図られている。どう転んでもろくな未来ではない。だとすれば疑念を抱かれようが、ここは話を切っておくべきだ。

 真っ先に諒太が貴賓室をあとにすると、ロークアットと夏美が続いた。これにより諒太は謎のモテ期到来を悟られずに済んでいる。


「お母様はこちらに……」

 どうやら公務中ではないようだ。豪華な扉ではあったけれど、この部屋は女王のプライベートスペースであるらしい。


「お母様、リョウ様とご友人様をお連れ致しました……」

 中から応答があり、三人は女王の部屋へと入っていく。

 そういえば諒太は世話になったお礼を伝えていなかった。いちご大福の指輪がなければ、彼はリッチを討伐できなかったはず。


「女王陛下、お久しぶりです。先週は有り難うございました。目的が達成できましたのはセシリィ女王の助力があってこそです」

「う、うむ……。それは構わんが、お連れ殿はどういった方なのだ?」

 どうしても夏美の話題になってしまう。無理もないけれど完全に想定外だ。

 目立つだけでなく、ドワーフというNGワードまで含んだ装備しか持っていないだなんて。


「まあ戦友です。気にしないでください……」

 小さく頷くセシリィ女王陛下。けれど、上手く誤魔化せたかどうかは不明である。

「ローア、晩餐の準備を指示してきなさい。当然、お二人の歓迎会だ……」

「あ、はい。お母様……」

 どうしてかロークアットは退出させられてしまう。恐らくは夏美が原因。どうやら諒太は夏美の格好について説明するしかないらしい。


 少しばかりの沈黙があった。ロークアットが部屋をあとにしたというのに、セシリィ女王は言葉を探すようにしている。

 こうなってくると先に説明した方が良いだろう。今まさに装備について話し始めようとしたそのとき、


「貴方様はナツ様ですね?――――」


 セシリィ女王が言った。しかも的確な内容だ。どうしてバレたのか分からないけれど、確信めいた表情を見る限りは誤魔化せそうにもなかった。

 夏美が諒太と視線を合わせる。こうなると仕方がない。ロークアットも退出したことだし、諒太は頷きを返している。


 徐にドワーフの奇面を外す夏美。と同時にセシリィ女王の表情が驚愕のそれに変わっていた。

「記憶のままで驚きました……。ナツ様が未だご健在であったとは……」

「ああいや、ナツは……」

「女王陛下、お久しぶり! 今年で316歳くらいだよ!」

 諒太がはかぐらかそうとした瞬間、またも夏美が返答してしまう。セシリィ女王は諒太が勇者であると見抜くほどの人だ。下手な嘘が通用する相手ではないというのに。


「ならばローアと同じくらいですね? 再びお会いでき光栄です」

 諒太の予想と異なり、思いのほか上手く話が流れている。もしかするとセイクリッド世界の人間は現実よりも長生きするのかもしれない。

「ローアちゃんは可愛く成長したみたいだね? 嬉しいよ!」

「おいナツ、ゲームとは違うんだぞ? 礼儀をわきまえろ」

「リョウ、心配には及ばん。ナツ様は昔からこのような感じだ……」

 当時はゲームであるからまだしも、諒太としては肝が冷えて仕方がない。


「すみません。こいつは何も考えていないので……」

「セシリィ女王が良いって言ってんだから構わないじゃん?」

 どうしたものだろうかと諒太は悩んでいた。しかし、悩みは夏美の正体が見つかったことではない。諒太には他にも抱える問題があったのだ。だから諒太はそれをセシリィ女王に聞いてみたくなった。


「ナツ、少し席を外してくれないか? 俺は女王陛下と込み入った話がある。陛下と話をする場はあとでもあるから……」

「まあ構わないけど……」

 夏美を一人にするのは心配であるけれど、夏美を同席させたとして話は纏まらないはず。ここは追い払った方がよりスムーズに解決すると思う。


 これより諒太は決断しなければならない。それは夏美の移籍話。女王の真意を問い質し、夏美と世界にとって最善の選択を見つけ出さねばならない……。

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