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第三勢力

 セイクリッドサーバー内にあるドワーフたちの国。大陸の南西にあるその国はガナンデル皇国といった。


 そこはストーリーを進める上で最後に到達する国であり、かの国には凶悪な魔物が多く出現する。従って移動にはレベルキャップが設けられており、初心者が誤って入り込まぬようになっていた。

 しかし、それ故にセイクリッド三国の中でプレイヤーが最も少ない。またドワーフの国という背景もなかなかプレイヤーが移籍しようとしない原因であった。


「アアアアさん、リーク情報って見ました? 移籍キャンペーンをするみたいですね」

 アアアアとはプレイヤーの一人。アクラスフィア王国からガナンデル皇国に移籍し、大臣という役職を得た廃プレイヤーである。


「ああ、見た見た。マスターメールにそんなことが書いてあったよ……」

 要職に就く者はプレイヤーマスターという地位を得て、運営から意見を求められたりイベントの調整役を請け負ったりもする。


「運営はどうしてもアクラスフィア王国の所属プレイヤーを分散させたいようだ。場合によってはまた戦争イベントをするつもりらしい」

「またっすか? アクラスフィアでは死に戻りイベントをしたところでしょう? 根本的にアクラスフィア王国から始まる設定が間違っているんすよ。プレイヤーに選ばせるだけで良かったと思うんすけどね……」


「どうもセイクリッドサーバーだけ異常らしい。他のサーバーでは割と均整が取れているみたいだ。普通ならプレイヤーは育っていく段階によってステージを変えるだろう? アクラスフィア王国でレベリングするのは長くてレベル50ってとこだ。狩り場までの移動時間を考慮すると成長につれて所属を変えるべきなんだがな……」


 所属によりログイン位置が変わる。アクラスフィア王国の所属であればアクラスフィア王城から。スバウメシア聖王国ならばエクシアーノ聖王城といった風に。どこでログアウトしたとしても、それは決まっていた。


 だからこそ、いつまでもアクラスフィア王国に留まるのは効率が悪い。移動ポータルが設置された街はそんなに多くなかったのだ。


「まあ俺は無駄だろうと意見した。アクラスフィア勢力はどんなキャンペーンを張ろうとも移籍しないって……」

 アアアアはマスターメールの返事にそんなことを書いたらしい。圧倒的戦力を誇るアクラスフィア王国勢は特典をつけたとして移籍しないだろうと。


「それはどうしてす? Sランクスキルをボーナスとしてつけたら移籍する者もいるのでは?」

「馬鹿いえ……。そんなことをすればゲームバランスが崩壊するだろ? 既に移籍済みのプレイヤーから反感も買うしな。だから与えられたとしてもAランクスキルまでだ。そんなショボい特典で団結したプレイヤーを分散できるはずもないだろう?」

 移動やレベリングに支障がなければ、慣れ親しんだ所属を変える必要はない。そこが楽しいのであれば、わざわざ動くことなどなかった。


「やっぱナツさんの存在っすかね?」

「まあ彼女の存在は大きい。廃プレイヤーでありながら、本当にアルカナを楽しんでるからな。いつだって真剣にプレイしてるし、パーティーを組んだことがあるのなら彼女を嫌うなんて無理だろう」

「そういえばアアアアさんはフレンドなんですよね? 確か昔は同じクラン員だったとか。やっぱりナツさんは強いんすか?」

 勇者であるのだから弱いはずがない。当たり前の質問であったはずが、アアアアは小さく首を振っている。


「強いのは強い。だけど、彼女を一言で表現するなら神運。まだ初期の頃の話だ。レベルが20も上のレアモンスター【トールキング】と俺たちはエンカウントした。無謀だと思える戦いであって、パーティーの誰もが逃げることを視野にいれていたと思う。トールキングのヒット率は95%と高い設定なんだ。加えて与える一撃は全てがクリティカルという化物。でもナッちゃんが戦うというから、俺たちは付き合うことにした。少しばかり戦えば彼女も気が済むだろうと。だが、彼女は勝利を収めてしまうんだ……」

 今でも鮮明に思い出せた。あり得ない戦闘。まるで神が味方しているかのような彼女の戦いぶりを。


「作戦はヒットアンドアウェイだった。それは戦士として基本であったけれど、全てを避け切るなんて無理だ。タンクの大福がいたおかげでタゲは多くなかったけれど、ナッちゃんは回避できなかった一撃を全てヒットミスとした。一時間にも及ぶ戦いで彼女は一度も攻撃を受けなかったんだ……」

 実際に見ていない彼には偶然だと思えた。目の当たりにしたアアアアとは温度差が激しい。


「まあパーティーを組めば分かる。彼女の魅力も、彼女が有する神運についても……」

 遠い目をするアアアア。思えばあの頃はログインするのが楽しみで仕方なかった。破天荒な夏美の戦いはゲームを盛り上げていたと思う。ワクワク感があの頃と今では明確に違っている。


「じゃあ俺はレベリングに行くっす!」

 フレンドの彼はあまり興味がなかったのか、話を打ち切りレベル上げに向かうようだ。

 了解と軽く返事をしたアアアアは笑顔を作って彼を見送っている。


 大いなる旅路に幸あらんことを――――と。

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