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いざ魔道塔へ

 セイクリッド世界に戻った諒太は騎士団本部の詰め所へと駆け込んだ。レベルが88になったことで、魔道塔へと向かうべくワイバーンを用意してもらうためだ。

 いつものように受付でフレアを呼んでもらう。ドロップ確率を考えると、急がねばならない。悠長にしている暇はなかった。


「リョウ、どうした?」

 毎日、会うたびに同じ会話から始まる。この辺りはNPCの名残りを感じずにはいられない。


「実はレベルが88になったので魔道塔に行きたいのです」

 諒太は希望を告げただけ。いつでも頼ってくれという彼女の言葉に甘える格好で。しかし、フレアは難しい顔をしている。どうも諒太の要請は期待通りに運ばない感じだ。


「すまない。流石にまだだと考えていた。ワイバーンは出払っていて、今日は使えそうにないんだ。申し訳ないがしばらくはレベル上げをしてくれないか……?」

 聞けば大規模な魔物被害が王国内で起きたらしい。騎士団員は総出で掃討作戦に向かったとのこと。場所が王都より離れているために、ワイバーンでの移動を余儀なくされているようだ。


「私もアーシェを救いたい。けれど、騎士団の任務を投げ出すわけにはならない。この作戦には大勢の命がかかっているのだ……」

「ああいえ、分かっています。大人しくレベル上げをしておきますから……」


 当てが外れてはどうしようもない。フレアも断腸の思いであったはず。アーシェを救いたいと考えているのは彼女も同じなのだから。


「ところでリョウ、その胸のチョーカーはアーシェにもらったのか?」

 ここで妙な話になる。首にかけたチョーカーはロークアットにもらったものだ。遠隔通話が可能になるという便利な魔道具である。


「えっと、ちょっとした知り合いに……」

「何だと!? 誰にもらった!? 洗いざらい吐くまでワイバーンは貸し出さんぞ!?」

 どうしてか声を荒らげるフレア。諒太は眉根を寄せるしかない。しかし、ワイバーンを人質に取られるのであれば、正直に話すしかないだろう。


「スバウメシア聖王国のロークアット殿下ですけど……?」

 諒太の返答にフレアは顔を真っ赤にして怒りを露わにしている。このあと彼女が何を発言したとしても、諒太が怒られる未来は確定的であろう。


「青い宝石のチョーカーを男に贈るのは特別な意味があるのだぞ!? 誓いのチョーカーだといってなかったか!? 女は赤い宝石を身に纏い、男は青い宝石。異性にそれを手渡すのはセイクリッド世界において告白も同然だ!」

 ゲーム内での交際や結婚なんて諒太は考えたことがない。従って、その辺りの設定について彼は調べていなかった。ロークアットの様子からそこまで大袈裟なことではないと思うけれど、慣例を聞いてしまったあとでは意識せずにはいられない。


「まさかアクラスフィア王国を裏切ったのではないだろうな!?」

「滅相もない! 今もまだここにいるのがその証拠ですって!」

 裏切りイベントという面倒ごとまで抱え込みたくなかった。そもそも諒太はアクラスフィア王国に属しているというより、セイクリッド世界に所属していると考えているのだから。


「アーシェが大変なときだというのに他の女をたぶらかし、ましてそれが王族だなんて。私はエクシアーノではなくサンテクトへと君を送ったはずだが、どうすればロークアット殿下とお近づきになれるんだ?」

 薄い目を向けるフレア。とはいえ彼女の言い分は理解できる。諒太だって初めてのスバウメシア訪問で王族と関わり合いを持つとは考えもしなかったのだ。


「あの……早速レベリングしますので、今日のところはこれくらいに……」

「弁明はまた聞くとしよう。とはいえ君には感謝もしている。切り捨ててもいいはずのアーシェのために君は命を懸けて戦ってくれているのだ……」

 最後に彼女は小さく礼をしてくれた。だが、諒太としては自分のために戦っているつもり。軽率な行動のせいでアーシェは死の淵にいる。だからこそ諒太の行為は全て贖罪に他ならない。


 騎士団をあとにし、路地裏にてリバレーションを唱えようとしたところ、


『リョウ様! ご無事だったのですね!?』


 脳裏に声が響いた。それは誓いのチョーカーによる遠隔通話だ。スナイパーメッセージの通信よりもずっと身体の内部に届く感じ。もちろん相手はロークアット殿下である。


「ロークアットか? どうしたんだ?」

『今朝からリョウ様の気配を感じられなくなったので心配しておったのです……』

 どうやら諒太がセイクリッド世界からログアウトしたことを彼女は感じ取れるのかもしれない。ログイン状態まで分かるだなんて誓いのチョーカーは侮れないと思う。


「俺は定期的に気配を消すけど、死んだわけじゃないから心配しないで欲しい」

『それなら良いのですが……。今はアクラスフィアに戻られたのでしょうか?』

「よく分かるんだな? 騎士団でワイバーンを借りようとしたのだけど、ワイバーンは全て出払っていたんだ」

 他国の王女殿下に話す事情でもなかったのだが、意気込みを削ぐような事態は自然と愚痴を漏らすように諒太の口を滑らせていた。


『ワイバーンですか……』

 アクラスフィア王国は一騎のワイバーンも用意できないと思われたかもしれない。それこそフレアが激怒したように裏切り行為に当たる気もする。


『わたくしの愛騎であればお貸しできますけれど……』

 ところが、ロークアットは想像と異なる反応をした。彼女はアクラスフィア王国に対して邪推することなく、諒太にワイバーンを貸してくれるという。


「本当か? 是非お願いしたい。俺は魔道塔へ行きたいんだ!」

『構いませんけれど、条件があります』

 眉根を寄せたのは諒太だ。混じりっけなしのピュアな美少女かと思いきや、ロークアットは打算的な交換条件を出してきた。


『わたくしも連れて行ってください……』


 諒太はゴクリと息を呑む。確かに魔道塔へ行くと伝えたはず。そこは言わずと知れた不死王リッチの住み処であり、間違ってもお姫様をエスコートするようなスポットではない。


「死ぬかもしれないんだぞ? そんなこと俺には受諾できない」

『だとすれば貸し出しは却下です。これでもわたくしは【不動王】の娘。父親譲りのスキルを有しています。きっとお力になれるはず』

 不動王はいちご大福の二つ名である。また彼のスキル【金剛の盾】は装備品の防御力を強化できる。発動時に攻撃力を失うデメリットはあるのだが、それだけにスキル効果は高い。

 諒太は悩んでいた。容易な選択ではない。アーシェに起きたことを考えると、ロークアットを仲間にするなんてできなかった。


『何も問題ありませんよ。何しろリョウ様は……』

 決断できない諒太にロークアットが続ける。


『勇者様なのでしょう?――――』


 またも諒太は絶句させられてしまう。ひょっとするとロークアットはステータス閲覧のスキルを所有しているのかもしれない。


『お母様が話しておられました。リョウ様が勇者であること。かつて母は勇者ナツ様にお会いしています。だから秘められし力が同質であると分かったそうです。神命が下った者だけに与えられる力だとも……』

 恐らくそれは神聖力と呼ばれるものだろう。セシリィ女王はまだ目覚めていない諒太の神聖力を感じ取っていたらしい。


『わたくしは覚悟していますから。どこまでもお供いたします。けれど、失われるつもりはありません。世界のためにわたくしも助力したいだけなのです』

 ロークアットが話すように諒太はセイクリッド世界を託されている。暗黒竜ルイナーを再び封印する義務が彼にはあった。さりとて今はただ一人のためだけに戦っている。

 一秒でも早く不死王の霊薬を手に入れること。病床に伏す彼女を救うためだけに剣を振っていた。そんな諒太に高い志を掲げる彼女を連れて行く資格はない。


「絶対に勝てるという保証はない。俺は撤退も考えているからな。不死王リッチのレベルは90。俺はリッチよりも弱い。だからロークアットを守り切る自信がないんだ」

『覚悟していると言ったはず。わたくしは協力したいのです。それこそ命を賭してまで』


 問答していても無駄のよう。どうやらロークアットは可憐でお淑やかな姫君ではないらしい。想像よりも強い心を持ち、それでいて頑固。彼女を説き伏せる台詞など考えつかなかった。


 ならば諒太は同意したフリをしようと思う。承諾したことにしてワイバーンを借りるだけだ。始めから諒太は一人で戦うつもりであるし、彼女を絶対に巻き込んではいけない。


「分かった。今からエクシアーノに行く。場所は王城の貴賓室でいいか?」

『お待ちしております』

 諒太はボス部屋にロークアットを入れないつもりである。以前に見た夏美のプレイ状況から、定番モンスターなら彼女も戦えるだろう。ボス部屋の外に取り残されたとしても、ロークアットであれば逃げ切れるはずだ。


 リバレーションを唱え、諒太は先日通された貴賓室へと到着。直ぐさまチョーカーに手をやり到着したことを念じた。

 待つこと二分。まだドレス姿のロークアットが貴賓室へと飛び込んできた。


「やはり勇者様であられたのですね? 移動魔法をお使いになるとは……」

「隠してもしょうがないしな。それより着替えてきてくれ。あと衛兵に捕まらないように話をしてくれよ?」

 ロークアットは笑っている。これより勇者ナツしか踏破していない高難度ダンジョンへ向かうというのに、彼女はまるでピクニック気分のようだ。


「了解しました。竜舎でお待ちください」

 ベルを鳴らすや現れた衛兵に連れられ、諒太はワイバーンの竜舎へと案内されている。

 初めて見るワイバーンは想像以上に大きい。飼い慣らされているらしいが、見た目は魔物そのものである。


「お待たせいたしました! さあ行きましょうか!」

「ん? 誰がワイバーンを操るんだ? 衛兵は戻ってしまったぞ?」

 竜舎には諒太とロークアットだけだ。とても準備が整ったとは思えない。


「わたくしです! 兵を動かすとお母様に見つかりかねませんからね?」

「おいおい、女王様に秘密なのか? とんでもないお転婆姫だな……」

 初めての空を美女とデートするのは悪くない。人生最後の旅となるかもしれないのだから、ここは無粋な衛兵がいなくて良かったと考える。元より彼女を危険に晒す気はなかったのだから。


 諒太は束の間のデートを楽しもうと思い直している……。


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