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雑談と真相

 ログインした諒太がサポートセンターから出ると、目の前に夏美がいた。またその隣には聞いていたように彩葉の姿もある。諒太がサポートセンターから出てくることを知った彼女たちは待っていたのかもしれない。


「遅いよ、リョウちん!」

 予定外にセイクリッド神と話をしたのだ。従って、せっかちな夏美が待ちくたびれているのは当たり前である。


「仕方ないだろ? 俺は聖域に入るたびに神様と会わなきゃいけないんだぞ?」

「セイクリッド神はずっといるの?」

「ずっといるな。別に話す事なんてないのに……」


 諒太と夏美が雑談的に話していると、

「リョウちん君、無視することないんじゃない? 私はこれでも君の正体がバレないように誤魔化してあげてんだけど……」

 そういえば彩葉は夏美に全てを聞いたらしい。先日も確かに色々と気を遣ってくれていた。


「ああ、悪い。しかし、本当に夏美の与太話を信じているのか?」

「リョウちん、それは酷い! あたしは実際に異世界を見たし、そのまま彩葉ちゃんに伝えただけだよ!」

 正直に諒太が彩葉の立場であれば絶対に信じていない。まして伝えたのが夏美であるのだから、信憑性は極めて低いと感じるはずなのだと。


「リョウちん君、私は実際に君のレベルアップを見たし、ドラゴンゾンビのボス部屋にアイテムを送ったのを知ってる。君が異界で何かしたとしか思えないのよ。サポートセンターにログインしてくるなんて、普通じゃないしね……」


「まあ確かに。俺は否定できん。信じられるかどうか分からないけど、俺はつい先ほどまで異世界にいたし、セイクリッド神と会ってもいた……」

 諒太とて隠す気はなかった。既に知っているのなら、理解しようとしまいと真実を伝えるだけだ。


「とりま、移動しよう。ここじゃ誰かに聞かれるかもしれないし」

 彩葉の提案で三人は大木の森林へと飛ぶ。夏美のリバレーションにて、レベリングの主戦場へとやって来た。


「それでリョウちん君、私は別に君が勇者であろうとなかろうと構わないのだよ。私が聞きたいことは一つ。異世界がどんな世界かってことよ!」

 彩葉は弁明を並べられるよりも、自身が望む話を聞きたかった。ずっと異世界に憧れていた彼女は期待に胸を膨らませている。


「いや悪いが、異世界はアルカナのまんまだ。街並みは多少異なるけど、主要な建造物の位置は同じだし、ダンジョンもスキルやステータスまで同じ」

「はあ? それじゃリョウちん君って、アルカナをプレイしているのと変わらないの?」

 流石に期待した内容と異なっていたらしい。彩葉は夢に見たようなファンタジー世界の話を望んでいたというのに。


「変わんねぇぞ。何しろアルカナの世界はセイクリッド世界と同質化しているんだ。アルカナはセイクリッド世界の影響を過度に受けている……」

「え? 同質化って異世界が私たちの世界にも介入してんの?」

 彩葉には分かるはずもない。彼女は無意識下で改変を受ける一人だ。本来セイクリッド世界にあった世界観がゲームに流れ込んでいたとしても気付けはしない。


「俺が最初にログインする前のこと。キャラメイクが終わってナツの電話を取ったんだ。その折りに俺のクレセントムーンと異世界が繋がった。その一瞬でセイクリッド世界とアルカナの世界は同質化を果たしている。恐らく俺も改変を受けた一人だ。ログインをして召喚を主導した者に話を聞いたとしても、それは俺が下調べした内容と差異はなかった。それはゲーム世界がセイクリッド世界の情報に上書きされたからだ。またその上書きはプレイヤーや開発にも及んで、違和感なく現実に溶け込んでいる……」

 諒太は予想し得る話を彩葉に告げていく。自身が持つ全ての情報を彼女に伝えるだけなのだと。


「どうしてそう考えるの?」

「セイクリッド神に聞いた話だけど、ルイナーが異世界に現れなければ全ては始まらない。セイクリッド世界に暗黒竜ルイナーが使わされたからこそ、勇者召喚が行われたんだ。仮にゲーム世界にのみルイナーがいたとすれば、ルイナーは異世界に現れないことになる。そうすれば勇者召喚は行われない。俺がセイクリッド世界に召喚されることも世界が同質化することもなかったんだ」

 起点は間違いなく勇者召喚であって、勇者召喚の原因は三大国が争い続けた結果として使わされたルイナーに他ならない。だとすれば、最初から異世界にはセイクリッド三大国が存在し、争い続けた結果として晦冥神より世界の終焉を告げられたことになる。


「ああ、そうか! セイクリッド三国がなければ、争うこともルイナーが送り込まれることもない。勇者召喚があるはずがないんだ……」

 全ては諒太が勇者召喚されたという事象から始まっているのだ。その原因がルイナーという暗黒竜であるのだから、異世界にあった問題は初めから存在したのだと分かる。


「そういうことだと思う。アルカナの世界からはゲームの決まり事が異世界に流れ込んだ。スキルやステータスといったゲームの要素が徐々に入り込んでいる。最初はレベルすら分からなかった人がスキルを習得していたり、違和感なくドロップアイテムまでもを理解していたんだ……」

「なるほどねぇ。じゃあ、リョウちん君はどの辺りで異世界だと気付いたの? 割と直ぐなのかな?」

 彩葉が踏み込んだ質問をする。諒太が最初から異世界だと思わなかったのだと、彼女は理解しているようだ。


「まあ一晩中、プレイヤーを見なかったしな。決定的だったのは勇者ナツ像とコロン団長の像が建てられていたことだ……」

「コロン団長って、あのコロン団長!?」

「壁役のコロン団長だよ。俺はあの日、ナツのマウントプレイを見ることになってな。コロン生け贄攻略をこの目で見たんだ。リッチの猛攻撃を受けて死に絶えたコロン団長を間違いなく見た。その後、俺がログインするとリッチの討伐に寄与したコロン団長の銅像が建てられていた……」


 あの日の改変は諒太に気付かせていた。NPCの銅像が建てられるなんて、普通じゃあり得ない。だからこそ分かった。セイクリッド世界はアルカナの世界を三百年後とし、アルカナの世界を引き継いでいる異世界なのだと。


「マジかぁ……。じゃあさ、異世界にはニホもいるの?」

「ニホってこの前の子供か……?」

 そういえば知らないうちにアアアアと彩葉は結婚し、二人には子供が生まれていた。


「ニホちゃんはクローンみたいでウケる!」

「ウケるいうな。呼び出そうか?」

 言ってイロハはニホを呼び出す。どうやら相方が使用していなければ、好きなときに呼び出せるらしい。


【ニホ・アアアア】

【公爵家令嬢・Lv105】


 ニホはまだレベルが100を超えたところのよう。諒太の席が空いているから、レベリングできたのだと思われる。


「残念だが、この子は未来にいない。三百年後なんだぞ? 人族は誰も生き残ってねぇよ。ドワーフでさえ代替わりしてんだ。アルカナの世界と共通なのはセシリィ女王とロークアット、あとはリナンシーくらいかな」

 サンテクトにいた雑貨屋の店主や、エルフのNPCは多く残っているだろうが、諒太が知る有名なキャラクターは三人だけである。


「ロークアットもいるんだ。大福さんに似てなきゃいいけど……」

 彩葉は本当に異世界を受け入れている。諒太が拍子抜けするほど諒太の話を信じていた。


「私も行きたいな……」

 ポツリと彩葉。異世界を信じた彼女は願望を口にしている。しかしながら、諒太は彼女の申し出を受け入れるわけにはならない。


「無理だ。ナツはともかく、彩葉には子孫がいるんだぞ? 歴史がおかしくなってしまう」

「ええ!? 私の子孫が残ってるの!?」

「重要人物として残ってる。だから俺はニホを守らなきゃならなかった。ちなみにその子孫はルイナー討伐のメンバーに選ばれている。他ならぬセイクリッド神の未来視によって」

 予想外の話に彩葉は驚いていた。ノリで結婚したことが三百年後に影響を与えていたなんてと。


「スクショとかないの!? 超見たいんだけど!?」

「まあ、あるけど、子孫の子は撮ってない。撮り方を覚えたのは最近だし……」

「へぇ! じゃあ、撮ったやつでいいから見せてよ!」

 ここで諒太は失態であったと知る。思わず口を滑らせただけなのだが、見せてくれと頼まれるなんて想定していない。何しろ見せられる写真はアーシェの隠し撮り。異世界感はもの凄くあるけれど、どうにも下心を覚える写真でしかなかったのだ。


「えっと、それはマズい……」

「ははん、リョウちん。ローアちゃんを隠し撮りしたんだね?」

「ロークアットじゃねぇよ! 思わずスクショって口にしたらシャッターがおりてしまっただけだ!」

 必死で弁明する。事前に不可抗力であったことを告げなければ、絶対に見せられたものではないのだ。


「んで、リョウちん、誰を撮ったの?」

 追及の手は止まず、諒太は渋々ファイルを取り出す。メニューからスクショフォルダーを開いて、アーシェの写真を二人に見せた。


「うおお! 美少女じゃん!」

「アーシェちゃんか! これは絵になるなぁ!」

 意外にも妙なツッコミはないようだ。幻想的な妖精の泉であったこと。視線が合っていないことも絵画的に感じられる理由に違いない。


「こんな子と旅してんの? リョウちん君は隅に置けないなぁ」

「いや、これはフェアリーティアを手に入れるのに協力してもらったんだ。映ってないけど、怖いお姉さんも一緒だからな……」

「フレア騎士団長も一緒に行ったんだ?」

「ちょ、ナツばっかズルくない!?」


 話が通じる夏美に彩葉は嫉妬している感じだ。アーシェのスクショはどうにも彼女を刺激してしまったらしい。


「おかげで三個のフェアリーティアを手に入れた。今はカモミールで装備の加工中なんだ」

「リョウちん、鎧の素材なんか手に入れたの?」

「おう、終末の実っていうクソ堅い魔物からドロップした。ルイナーとの一戦に間に合うと思う」

 諒太は素材の説明をするも、二人は小首を傾げている。ひょっとしてまたも諒太は実装されていない魔物とエンカウントしたのかもしれない。


「リョウちん君、終末の実ってアルカナⅡの魔物じゃん?」

「え? マジで?」

 セイクリッド世界にアルカナⅡは影響を与えていないはず。基軸となる諒太や夏美のデータはアルカナⅠのままなのだ。


「うん、公開映像で見たよ。何でもイベントで湧く魔物みたいだけど……」

「イロハちゃん、きっと急に移行したから、データが残ってんじゃない?」

「ほう、じゃあそれを倒しに行く? 私も素材が欲しい!」

 倒しに行くと言われても、諒太は終末の実が出現するポイントを知らない。あれは残念妖精の失態により出現していたのだから。


「やめとけ。滅茶苦茶強えから。インフェルノ二十発くらい撃たなきゃ倒せん……」

「リョウちん君、よく倒せたね?」

「あれは実が成長する前に倒す必要がある。MP回復ポーションに余裕がある魔道士でないと無理だろうな。まあ俺が倒したのは亜種でLv191だったんだが……」

 一応は説明する。エンカウントしたのではなく、リナンシーが手間を省いたせいで出現したことを。二人が諦めてくれるように。


「ならば焔の祠に飛ぶよ!」

「おい、やめろって! 同じものが湧く可能性が高いんだぞ!?」

 かつてアルカナでプレイした折もグレートサンドワーム亜種が現れていた。それも同じLv200という強敵である。もしも世界が同質化を図るのであれば、この度も終末の実亜種が現れるだろう。


「いや、待てよ……?」

 ここで諒太は考え直している。以前であれば間違いなく世界は同質化を図ったはず。しかし、現状を考えると正しくないように思える。


「クランに入ってから、俺の情報は逐一更新されている……」

 以前であれば、諒太はキャラメイクしただけの状態であった。しかし、現状はレベル150になったことを、伝えるよりも先に知られていたのだ。世界は明らかに遅れることなく同期している。


「リョウちん君?」

「ああいや、すまん。恐らくだが、俺はもう災厄を呼び寄せることなどない。期待させて悪いが……」

「ホント? ドラゴンゾンビも引いたんでしょ? リョウちん君ならやってくれると思うけどな……」

 フラグを立てるなと諒太。かといって、諒太は異常なほどボス級の亜種モンスターを引いている。終末の実亜種でないにしても、何かしらを引き当てる可能性は否定できなかった。


「とりま、行くよ!」

 せっかく大木の森林へと来たというのに、夏美はまたもリバレーションを唱えている。

 諒太の意見など無視して、再び焔の祠へと二人を誘っていた……。

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