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迫り来る決戦の日

 木曜日となっていた。諒太は相変わらず、ロークアットたちのレベルアップと打撃スキルの熟練度上げに勤しんでいたけれど、レベリング時間が限られるロークアットたちはまだレベル150にまで到達していない。


「決戦まであと二日か……」

 まだウルムの鎧製作は完了していない。しかしながら、諒太は間に合うとは考えていなかった。


 恐らくはロークアットの創作本にあったままだ。ウルムの製作は夜の九時に間に合わず、諒太は遅れて参戦することになるだろう。


「ま、俺は俺にできることをする……」

 諒太はまだローリングアタックという槌スキルを習得できていなかった。夏美曰くクリティカルヒットが確定というスキル。是が非でも習得したいと考えていたというのに。


「結局、俺はAランクスクロールを手に入れられなかったな……」

 諒太は使い勝手の良いAランクスクロールを一つも手に入れていない。ドロップするという魔物を狩ったりはしたけれど、手に入るのは魔石ばかりであった。

 今日も今日とてログインしようかというところで、スマホが着信を知らせている。


【着信 九重夏美】


 未だボッチである諒太に電話してくるのは一人だけだ。五月も中旬に差し掛かろうというのに、幼馴染みしか連絡先を交換していない。


「もしもし?」

 嘆息しつつも応答に出る。本日が本番であるというのに、何の用かと思う。


『リョウちん、暇かな? 今日はイロハちゃんしかログインできないんだけど、こっちにこれない?』

 何と夏美の要件は一緒にプレイすることであった。諒太としてはロークアットたちのレベリングが残っていたけれど、彼女たちは順調にレベルアップをし現在は147というところまで来ていた。切羽詰まっている状況でもなく、夏美との共闘は悪くない話である。


「分かった。ログインしてロークアットに今日のレベリングは中止だと話しておく」

『そうこなくっちゃ! 彼女たちはこっちに来れないよね?』

「そりゃ無理だろ。俺は一応、そっちと繋がっているけど、彼女たちからすればアルカナは過去だからな……」


『そだねー。残念だけどリョウちんだけで来てよ……』

 どうにも不満を覚える話であったが、諒太はアルカナの世界へログインしようと思う。

 まずはロークアットへと念話を送り、本日のレベリングが中止になった旨を伝える。


『ロークアット、悪いが今日のレベリングは中止になった。俺は三百年前に顔を出さねばならない』

 今のところセイクリッド世界に時間的制約はない。厳密にはアルカナの世界でも制限などなかったけれど、一番乗りを目指すマヌカハニー戦闘狂旗団の方針により、14日のチャレンジが決定しているのだ。


『三百年前というと大賢者として向かわれるのでしょうか?』

『そういうことになる。俺が勇者のまま現れては大問題だからな。ちょっとした用事だから、明日はまたレベリングを再開する。二人にも伝えておいてくれ』


 了解しましたとロークアット。少しばかり残念そうにも聞こえたけれど、諒太はそのまま聖域までリバレーションを唱えている。


 僧兵はミーナが取り計らってくれたままだ。諒太が現れるや、扉の前から外れてくれる。諒太は軽く挨拶をしてから、聖域へと入っていく。


 例によってセイクリッド神の姿がある。諒太に特別な用事などなかったけれど、一応は声をかけていくことに。


「えっと、まだ決戦じゃないのだけど、ちょっとした用事があってな……」

「構いませんよ、勇者リョウ。私は貴方の活動に文句など一つもありません。私の要求はこの世界の救済のみ。過程は考慮致しません」

 セイクリッド神の思惑は何も変わっていない。そもそも彼女は同質化による改変を理解した上で異世界召喚を推し進めたのだ。過程などにこだわるとは思えない。


「そうか。じゃあ、行ってくる。あと出迎えとかいらんからな? 用事があるときは呼びかけるし……」

「まあ、そう言わずに。貴方には感謝しているのです。何の見返りもない勇者を請け負ってくれたのですから」

 そういえば諒太にメリットは何もなかった。世界を救う対価として諒太はリバレーションの使用を望んだけれど、それは結局のところ世界が選定しただけであり、女神からの報酬は何も用意されていない。


「もし俺が戦わなければ、セイクリッド神はどうしたんだ?」

 少しばかりの雑談。この現状は諒太が彼女の思惑通りに動いた結果である。よって諒太が戦わなければ、決して現状には導かれることなどなかったはず。


「私は貴方を信じるだけです。仮定の話など存在しません。召喚対象は強者であるだけでなく、使命を果たしてくれる資質を持つ者です。正義感や責任感。吟味した上で選定しておりますので、私は貴方を信じられます」

 どうにも一定の未来がセイクリッド神には見えていたようだ。諒太やダライアスが使命を投げ出さないことを彼女は確信していたように思う。


「そうか……。まあでも、割と大変だった。それで聞きたいのだけど、俺はこの世界で死ぬとどうなる?」

 ずっと考えていたこと。諒太はついでとばかりに聞いている。返答により態度を翻すつもりもなかったけれど、それは確認すべき事柄の一つだ。


「貴方が考えているままです。向こう側と過度に同質化しておるこの世界でも、魂の復帰は容易いことではないのですよ」

「向こう側では最初からやり直せることを知っている?」

「大差はありません。失われた魂は輪廻に還り、新たな人生を始めることになる。向こう側が異なると感じるのは記憶を有した転生であるからでしょう」

 どうやら死に戻りのリスタートは同一人物としてカウントされていないらしい。確かに彩葉も髪型や髪色を変えるだけでなく、ステータスも変更となってリスタートしている。

 プレイヤーの魂が異なるプレイヤーとして輪廻したと考えるならば、それは世界に元々あった理だといえた。


「なるほどな。ま、俺は死ねばそれまでってことか。別に今さらだけど……」

「勇者リョウ、もし仮にルイナーを討伐できたのなら、願いを一つ叶えましょう」

 意外な話になる。既に諒太は要求をしていた。召喚陣を消してくれと頼んでいたというのに。


「別にいいよ。俺はやりたくて勇者をしている……」

「欲がありませんね。もしも希望があればいつでも言ってください。一応は私も世界を治める女神の一角ですから……」

 恐らく最後まで願うことはないと思う。諒太はセイクリッド神に手を挙げてから、ログインと口にする。


 何の希望もないのだ。あるとすればルイナーの討伐。このゲームにも似た世界をノーコンテニュークリアにてハッピーエンドに辿り着くことだけ。


 困惑したような女神セイクリッドの表情を目にしながら、諒太はアルカナの世界へとログインしていく。

 表情とは裏腹に届く彼女の声を聞きながら……。


 大いなる旅路に幸あらんことを――――。

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