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最後の一人

 諒太は気付けばアルカナの世界に転移していた。

 明確に異なる視界。自身はサポートセンター内にポツリと立っていた。

 受付らしきNPCと目が合うも、苦笑いを返して諒太はサポートセンターをあとにしていく。


 外はセイクリッド世界と大差がなかった。中立国アルカナはメインとなる建物が密集していたために、諒太にも馴染みがある感じだ。さりとてプレイヤーの姿は少ない。大勢が暮らしているセイクリッド世界とは賑わいが異なっている。


 直ぐさま諒太はクランメニューを開いて、夏美たちの様子をチェック。

「もうイロハは130か。現在地大木の森ってことはこれから移動するってことだな……」

 ならば諒太は先回りするだけだ。焔の祠は攻略したばかり。リバレーションで飛べば確実に先行できるはず。


「今は大賢者だし、人目を避けなきゃいけない……」

 正教会の裏側から諒太はリバレーションを唱える。先ほど戦った焔の祠へと転移しようとして……。しかし、呪文が発動しない。魔力が減る感覚すらなかった。


「マジか……。こっちでは大賢者にジョブチェンしてるからか?」

 世界に勇者は一人。有線接続にて出張したわけではない諒太は勇者以外のその他となっていた。つまりは転移魔法が使えない。恐らくは神聖力もなくなっているはずだ。


「まあエデルジナスまでポータルで飛べば問題ないな……」

 既に諒太は金銭的な問題を抱えていない。よってポータルの使用料を節約する必要はなかった。


 アルカナからエデルジナスまで転移し、諒太はワイバーンを借りる。急がねば夏美の転移魔法で先に飛んでいく可能性があったのだ。


「ボス部屋に入る前に合流しないと……」

 道中に夏美の様子を確認すると、どうやら夏美は焔の祠に行ったことがないのだと分かる。エデルジナスに飛んだ彼女たちはワイバーンを借りるはずなのだ。


「とりあえずは大丈夫そうだな……」

 諒太は先んじて焔の祠へと到着。あとは夏美たちの到着を待つだけだ。かといって、待ったとして十分程度である。エデルジナスから焔の祠までの移動はワイバーンならば大した距離ではない。


「隠れていた方が面白いかもしれない……」

 上空から見つかる祠の前よりも、岩肌に隠れていようと思う。ワイバーンに帰れと命令してから、諒太は岩の影へと身を隠す。夏美が驚く様子を見てみたくなった。


 しばらくすると、上空にワイバーンの影が出現する。その背にはもちろんプレイヤーも確認できた。彼らが祠の前へと降りてくるまで、諒太は息をひそめて隠れているだけだ。


「やぁっと着いたね!」

「勇者ナツよ、暇があればルイナーが眠る火口にも行っておけ。我らが一番乗りするためにな!」

「火口は行ったことあるから問題ないよ」

 到着したマヌカハニー戦闘狂旗団はこれから戦う悪魔王アスモデウスではなく、ルイナーについて話している。楽勝だと考えているのか、まるで気にしていない。


 彼らが降り立った瞬間に現れるべきであったのだが、諒太はタイミングを逃している。実際に見る彼らは勇者一行に相応しい。各々がオーラを纏っているように見えて、正直に圧倒されていたのだ。


「あれ? 最後の一人が近くにおるんよ!」

 次の瞬間、チカが声を上げる。どうやら彼女は諒太が近くにいることを確認したようだ。


「ええ? 嘘っ!?」

 やはり夏美は驚いている。諒太がどうやってログインしたのか、彼女には分からなかったはずだ。

 今こそが登場のタイミング。諒太は少しばかり緊張しながら、岩陰から姿を現す。


「よ、よう……」

「リョウちん!?」

 事前に説明しておくべきだったかもしれない。戸惑う夏美は何を口走るか分からなかったからだ。ならば、先に適当な話をしておくべきだろう。


「俺はアスモデウスを倒したばかりなんだ。だから待たせてもらった。急に用事がなくなってログインできたんだ。ナツにはログインできないと話してたけど……」

 諒太が先に話し出すことで夏美が落ち着けばそれでいい。何かしらの方法があるのだと察してくれるだけで良かった。


「リョウちん君……、君は一体……?」

 しかしながら、夏美よりも彩葉が困惑していた。彼女は諒太が異世界の勇者だと聞かされたのだ。以前に共闘したことがあったけれど、普通にログインしてくるなんて騙されたような気になっていることだろう。


「イロハ、俺はちょいと特殊なんだよ……」

 雰囲気を察して先に誤魔化す。夏美から話は聞いていたものの、彼女は本当に異世界の勇者であると信じていたらしい。


「わーわー! その大槌カッコいいんよ!」

 チカが早速と近付き、諒太の土竜叩きに触れている。諒太としては格好悪いと考えていたのだが、そこは残念なる幼馴染みの廃フレなのだろう。


「大槌とか不遇装備だな? 大賢者リョウ、貴様はそれでアスモデウスと戦ったのか?」

 ここでタルトが近付き諒太に右手を差し出している。ロークアットの創作本で見たままだ。漆黒のフルプレートはタルトに違いない。


 諒太は直ぐさまその手を取り、彼の質問に答え始める。

「最後に回避不能な火属性魔法を使うから、体力値が怪しい者には先立って回復魔法を使うべきだ。俺は金剛の盾を持っているから問題なかったけど……」


「なるほど、ならば同行願えるか? 聖王騎士イロハのレベルがまだ推奨値であるし、大司教チカは体力値がゴミなのだ」

「ゴミはないんよ! わたしは防御力と耐性値で生き残るし!」

 笑みを浮かべる諒太。やはりパーティーを組むのは楽しいと思う。こういった遣り取りがMMORPGの醍醐味なのだと。


「もちろん、そのつもり。俺はSランク魔法を使う。五発も撃てば倒せるはずだ」

「む? そういえばこのダンジョンからSランクスキルが解放されたのだったな……」

「地形変化は起きないから景気よく使ってくれ。あとアスモデウスには聖属性系の剣技や魔法が有効だから……」

 タルトは頷きを返している。恐らくは聖属性スキルを所有しているのだろう。この辺りは流石にトッププレイヤーであった。


「ならば大賢者リョウ! よろしく頼む!」

「ああ、こちらこそ!」

 大賢者と呼ばれるのは新鮮である。しかし、ジョブは明確に大賢者となっていた。諒太が望んだままに大賢者として合流できている。


「しかし、リョウはソロで倒したのか?」

 ここでアアアアが聞いた。レベルマであるのは分かっていたけれど、それでも超高難度クエストをソロでクリアしたなんて信じられない。


「アアアアさん、リョウちんはずっとソロだよ。教室でもソロなんだから!」

「うるせぇ。ボッチは好きでやってるんじゃない!」

 夏美が割り込んだことで笑い話となっている。流石に信じられないだろう。これまでの全てを口にしたとして、アアアアには理解できないはずだ。


「皆の者、出陣だ! 聞いたように聖属性スキルで圧倒するぞ!」

 ここにマヌカハニー戦闘狂旗団の六人が勢揃いをしている。


 意図せず訪れたクランデビュー戦。諒太は目一杯に暴れてやろうと思うのだった……。

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