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決戦の準備

 諒太とロークアットは焔の祠へと入り、悪魔王アスモデウスと戦っていた。

 焔の祠はダンジョンではあったものの、階層は一つしかなく入り口から真っ直ぐに進んだだけで大扉という単純な構造である。


「ディバインパニッシャァァ!!」

 話していた通りに、諒太はディバインパニッシャーのみで討伐するつもりらしい。ロークアットは大盾を構えているだけであり、ソラはロークアットの後ろに隠れている。


 圧倒的な戦闘が彼女たちの眼前で繰り広げられていた。悪魔王を名乗るというのに、一方的にアスモデウスは攻め立てられている。


 四発目のディバインパニッシャーが炸裂した直後、

「人族よ、やるではないか? しかし、この悪魔王に敵うと思うな!」

 アスモデウスは何やら詠唱を始めている。恐らくは最後の猛攻撃。やはり神雷は考えていたよりもダメージを与えていたらしい。


「ロークアット、しっかり防御しろよ? スキルのタイミングは俺が指示する」

「了解しました!」

 魔力回復ポーションを飲んでから、諒太もまた盾を構える。ゲー速を見る限りは全体攻撃に違いない。ならば単体攻撃よりも威力は劣ると思う。

 防御するや、ディバインパニッシャーを撃ち込む。諒太は呪文の発動を静かに待っている。


 詠唱が終わった直後、諒太は手を挙げてロークアットに合図を送った。諒太自身はディバインパニッシャーの詠唱を済ませており、盾スキルを使用するつもりはない。

「金剛の盾!」

 ロークアットの盾スキルが発動して直ぐに、地面から炎が立ちのぼった。恐らくは捕らえられているイフリートの力。隙間なく炎が燃え盛っている。


「ソラ、自分自身にヒールをかけ続けろ!」

「はい、マスター!」

 戦闘参加者を問答無用で焼いてくるとは思わなかった。ロークアットの直ぐ側であれば軽減されているだろうが、ソラはまだ圧倒的にレベルが足りていない。せっかくアークエンジェルへと進化したソラをここで失うわけにはならないのだ。


「ディバインパニッシャァァアアア!!」

 刹那に神雷が降り注ぐ。燃え盛る炎を気にすることなく諒太は撃ち放っていた。

 響き渡るアスモデウスの絶叫。奇しくもロークアットの創作本通りに何の問題も起きることなく、アスモデウスは地面へと伏している。


『リョウはLv150になりました』


 ここで諒太はレベルマとなった。14日までに達成すれば良かったのだが、一週間近くを残しての到達である。レベル150達成と同時に神聖力はLv5になった。

 ロークアットとソラもまたレベルが上がっている。残す期間は彼女たちのレベリングと自身の魔法熟練度を上げていくだけだ。


「リョウ様、宝箱が……」

 またもや現れる宝箱。本当にどうかしている。300を超えるロークアットの幸運値は伊達ではない。


 恐らくは一つだけであろう。既に終末の実というレアモンスターの殻を手に入れた諒太だが、加工が必要ない装備であればフェアリーティアも必要なくなる。


「何がでるか……」

 例によって宝箱の輝きが失せると、中身が露わになっていく。

 しかし、何も入っていない。赤い靄のようなものが一瞬だけ見えただけである。


「空箱とか聞いたことないな……」

 一瞬のあと、諒太のリングが輝く。と同時に先ほどの赤い靄が再び現れていた。

 呆然とするしかない。何も手に入れられなかった諒太であるが、彼は眼前に現れたものによりその理由を知ることになっている。


「イフリート……?」

 どうやら諒太が錬成した指輪はこの場面で手に入れるべきものであったらしい。ディバインパニッシャーのスクロールを手に入れたように、入手よりも先に錬成してしまっただけのようだ。


「久しぶりじゃの! イフリートよ……」

 戸惑う諒太に代わってリナンシーが言葉をかける。


「妖精女王、恩に着る。実に長い眠りであった……」

「礼なら妾にいうでない。妾の伴侶である勇者リョウが悪魔を倒したのじゃ!」

「しれっと嘘をいうな……」

 どうやら厳つい見た目とは異なり意思疎通が可能らしい。しかし、ロークアットはというと、土下座をして固まっている。


「マジか……。イフリートってすげぇのか?」

「リョウとやら、畏まる必要はない。貴殿の献身に応えねばならんな……」

 エルフの王女殿下が少しも顔を合わせようとしないのはイフリートの力をそのまま表してしるはずだ。ピクリともせず、頭を下げたままであるのは無礼があってはならないからだろう。


「そういってもらえると助かる。でも、俺にはイフリートを解放する使命があったんだ。礼を言われる筋合いはない……」

「その心意気や素晴らしいの。其方に眠る強大な力。逆にそれは其方が背負う使命の大きさを表しているのだろう。暗黒竜に立ち向かうつもりなら、儂は其方に力を貸そうと思うておる……」

 願ってもいない展開である。諒太はそのために来たのだ。イフリートの加護を得るためにレベルを上げ、先ほど悪魔王アスモデウスを討伐している。


「儂の助力が欲しいのなら、そのリングに祈るが良い。そのとき儂は持てる全てを其方に授けよう。其方に立ち塞がる障害を焼き尽くすと約束する……」

 言ってイフリートは消えてしまう。ロークアット曰く事象だという精霊。やはり顕現したままである妖精女王とは異なる存在であるらしい。


「戦利品はなかったけど……」

 一応は満足している。元々、ここで手に入れるものを先に入手しただけだ。ここでも世界に導かれている自分自身を再認識できていた。


「そういや……」

 ふと諒太はドラゴンゾンビ戦における報酬を思い出していた。彩葉に鑑定してもらおうとしていた【石ころ???】。鑑定眼を手に入れた今であれば鑑定できるかもしれない。


 即座にアイテムボックスから取り出し、諒太は鑑定を試みる。

「鑑定!」

 諒太は息を呑んだ。想像よりも強力なアイテムに。それはすっかり忘れていたことを悔やむような効果があった。


【時戻りの石】

【効果】使用すると十秒前の状態に戻る。

【範囲】使用者を中心として三十メートル

【使用】戻れと念じる。(アイテムボックス内有効)使用は最大三回まで。


 この石さえあれば、誰かが失われた場合にも対応できる。たった十秒であり、三回の使用制限があるけれど、不意を突かれたような場面では効果が期待できた。


「使うタイミングが鍵になるな……」

 誰かが失われた直後に使用しなければならない。歩み寄り、生死を確認したあとでは遅すぎる。使用後の猶予を最大にするには即時使用が必要であった。


 再びアイテムボックスにしまい込む。念じるだけで良いのであれば持ち歩く必要もないだろうと。

 諒太が焔の祠をあとにしようかというとき、脳裏に通知音が鳴り響いた。


【着信 九重夏美】


 それは言わずと知れた幼馴染み。彼女にしては珍しく戦闘が終わってからの通話であった。

 諒太は念話の旨をロークアットたちに伝えてから応答する。


「もしもし?」

 まだ早い時間である。従って夏美たちもゲーム中だと思う。しかも彼らは完全クリアを目指している。間違いなくレベリングをしているはずなのに。


『リョウちん、もうレベルマじゃん!』

 少しばかり身構えていたのだが、夏美の第一声は他愛もないことである。今し方、レベル150になったことを夏美は分かったらしい。


「そっちでも分かるのか? ついさっきだぞ?」

『クランに入ったからね。リョウちんが150になった瞬間、みんな声を出して驚いてた!』

 聞けば今は食事休憩中らしい。マヌカハニー戦闘狂旗団のレベリングも順調であるようだ。


「何かマズい情報とか漏れてねぇだろうな?」

『そこまでは分かんないよ。てか、セイクリッド世界の情報がリアルタイムで更新されるなんて凄いね?』

 夏美の疑問に対する答え。何となくだが諒太は解答を得ていた。

 大賢者であると願ったこと。自身の想いは世界間の道を介して深く繋がりを持ったのだと思う。


「どうだろうな? 真面目にレベリングしていると分かってもらえたなら、それでいいよ」

『そだね。あたしたちは今夜にでも悪魔王アスモデウスに挑むのよ。イロハちゃんが130になったからね。リョウちんはどうする?』

 どうも諒太は誘われているらしい。先ほど倒したばかりの悪魔王アスモデウスとの戦いに。


「それはタルトの指示か?」

『アハハ! やっぱ分かった? 戦力だから連れてこいって言われたんだよ』

 諒太としても参加してみたいと思う。しかしながら、諒太はログインできないのだ。クレセントムーンを起動したとして、召喚陣が見えるだけである。


「それは予言の書に反する。それに俺は召喚してもらわなきゃゲームにログインできん」

『予言の書?』

「まあ、別に気にすんな。とにかくログインする手段がねぇんだよ……」

 ロークアットの創作本のせいにするのは間違っている。何しろ悪魔王アスモデウス戦の内容は強かったとしか記載されていないのだ。諒太が参戦したとして歴史を歪めることにはならないだろう。


「俺はこれからフェアリーティアを手に入れてくる。それで鎧を作ろうと考えているんだ」

『そっか、まあセイクリッド世界が第一だもんね。三百年後の勇者には……』

 少しばかり残念そうな夏美。かといって日曜日の夜に夏美の家へ行くなんてあり得ない。またしても美少女回顧録を聞かされるなんて我慢ならなかった。


「それでナツ、大槌のスキルで使えるやつはあるか?」

 せっかくだから諒太は聞いてみる。無双の長剣がなくなった今、諒太は土竜叩きを使用するしかなくなったのだ。使い勝手の良いソニックスラッシュはもう使えない。


『ええ? 大槌って不遇武器じゃん? そんなの持ってんの?』

 夏美に言われて気付く。無双の長剣を壊してしまったこと。それがとんでもない損失ではないかと。


「不遇とか言うな。錬成に失敗して無双の長剣が壊れたんだ。だから俺は超大土竜からドロップした土竜叩きという大槌を使ってる」

『特大土竜からレアドロップなんてあんだ?』

「特大じゃねぇよ。超大土竜だ……」

 夏美は驚いている。どうやら夏美でさえエンカウントしたことがないらしい。


『どこにいんの? 気になる!』

「センフィスよりずっと南だ。農村地帯の土竜退治をしてたらいたぞ?」

『はぇー、やっぱ災厄を呼ぶんだ……』

 やはり疫病神のように言う夏美。諒太としては不本意であったけれど、レアモンスターを狙うのであれば不幸はそれほど悪くはない。


『んでスキルだけど、基本的に大槌のスキルはモーションが大きすぎて使えない。クリティカル率が高いから、使い手は普通に殴るだけだね』

「確率とかやめてくれ。俺は運に左右されないプレイスタイルなんだよ」

『んー、だったらローリングアタックはどう? 回転しながらジャンプして叩き付けんの。何とクリティカルヒットが確定してる!』

 聞けば隙だらけにも思うが、クリティカルヒットが確定しているなら悪くない。諒太は詳しい技の説明を聞き、習得してみようと思う。


「サンキュー。とにかく準備はちゃんと済ませる。決戦には必ず参加するよ……」

『りょ、頑張ってくれたまえ! タルトさんには上手く言っとくから!』

 夏美に説明を任せることは心配でならないけれど、夏美の家に行くしか方法がないのだから仕方のないことだ。特に明日からはまた学校が始まるのだから。


 通話を切り、諒太は溜め息を吐く。勇者業さえなければ、自分も仲間たちと一緒に冒険へと出られただろうにと……。


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