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ゲマ速

 翌朝のこと。本日は5月6日である。一応は起きた諒太だが、そもそも六日はずる休みの予定であった。予定より早く借金を返済しており、学校に行くべきなのだが、どうしても気力が湧かない。


「やっぱ休むか……」

 直ぐさま夏美に連絡を入れる。明後日まで両親がいないのだ。体調不良を夏美から先生に伝えてもらうだけでいい。


 いつも通りにワンコール。夏美はスマホを触っていたのか、即座に通話となる。

『リョウちん、ずる休み?』

 何と見透かされていた。開口一番に諒太は図星を突かれている。


「俺には勇者業があんだよ。両親は海外旅行中だし、今はレベリングに専念した方がいいだろ?」

『ま、分かった。先生には上手くいっておくよ』

 意外に物わかりのいい幼馴染みだ。ずる休みだと知っても、何とか取り次いでくれるらしい。


「サンキュー。熱があるとでも言っておいてくれ」

『どうせ登校したところで寝てるしね。ご飯くらいはちゃんと食べなよ?』

「わぁってる。それで悪魔王アスモデウスの攻略法とかって判明してんのか?」

 ここで諒太は情報を仕入れようとする。既に実装済みであれば、廃人たちが攻略しているのではないかと。


『いや、それが全くないの。みんな悪魔公爵クロケルで引っかかってるらしいね。ダンジョンの入り方や幻術の攻略法はタルトさんが書き込んだけど、やっぱあたしたちほど平均レベルを上げられてないみたい。死に戻った情報が多くて、アスモデウスに挑む強者は現れていない感じ』


 どうやら先に実装されたクロケルの難易度から推し量り、プレイヤーは躊躇しているらしい。確実に強いと思われる悪魔王アスモデウス。死に戻りしたくないからか、或いは攻略法が確立してから挑もうとしているのかもしれない。


『確か今日発売のゲマ速にアップデートの攻略記事が載るって聞いたよ。どこまで攻略してんのか分かんないけど、敷嶋ちゃんが全面協力しているらしくて期待されてるね』

 ゲマ速とはゲーマー速報という雑誌である。現在では物理媒体で発売される稀有なゲーム雑誌に他ならない。


「物理媒体かよ。学校休んで買いに行くのキツいな……」

『情報よろ! 先生にはずる休みがバレないように言っとくからさ!』

 どうやら夏美もまたゲマ速の情報に期待しているらしい。プロデューサー自ら語られる攻略法。いち早い移行を推し進めたいクレセントムーン社としては出し惜しみなどしないと考えられ、踏み込んだ攻略記事を掲載している可能性が高かった。


「しゃーねぇな。買いに行ってくんわ。しかし、駅前の本屋には入荷しないんだよな」

『冬葉原までゴーだよ。あそこならたくさん売ってるはず!』

 学校を休むというのに、ゲーマーのメッカまでへ行けと夏美はいう。電車を乗り継いで行く必要があったのだが、人ごとだと思って本当に軽く。


「ま、買ってくんわ。期待しとけ……」

『よろしく!!』

 一日中、レベリングしようと考えていたけれど、未確認情報を得られるのなら勇者業にもプラスとなる。よって諒太は面倒にも感じながらも、足を運ぶことにした。


 朝ご飯を食べてから、諒太は出発する。念のため登校時間が過ぎた頃を見計らっているが、駅までは帽子を深くかぶり目立たぬように歩く。


 尾行を避けるように電車へと飛び乗り、目的地を目指す。サブカルチャーのメッカである冬葉原までは約一時間だ。諒太としてはクレセントムーンの本体を探し求めていた春休み以来となる。


「何だか、わくわくしてきたな……」

 並び立つ巨大な電気店や所狭しと掲げられるアニメやゲームの広告。ゲーマーとして血が騒ぐのは仕方のないことであろう。


 早速と諒太はゲマ速を購入し、一応は電気街を散策。高校入学前を思い出しながら、色々な店舗を見て回った。


 一時間ほどが過ぎて、諒太はそろそろ帰ろうかと思う。時計を見ると十一時。少し早めの昼ご飯を食べることにした。

 早速とハンバーガー店へ。中途半端な時間であったからか、店内は割と空いている感じだ。ランチセットを購入し、空いているテーブルを探す。


「っ!?」

 彷徨いていた諒太は誰かと接触。肩と肩がぶつかり合った。加えてコーヒーが零れ、思い切りズボンにかかってしまう。


「ああ、君! ごめんね!?」

 ふと声をかけられていた。

 女性の声だ。諒太自身も前を見ていなかったというのに、先に謝られている。


「こちらこそすみません! 濡れませんでしたか!?」

「私は大丈夫。それより君のズボンが……」

 女性はハンカチを取り出し、諒太のズボンを拭いてくれる。別に諒太は気にしていなかったというのに。


 少しばかり緊張している。ただし、大人の女性に拭いてもらっているからではない。

 諒太は彼女に見覚えがあったのだ。しかも、つい最近会ったばかり……。


 思わず口にしてしまう。無意識に諒太は彼女の名を呼んでいた。


「敷嶋プロデューサー?――――」

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