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王都センフィス

 アクラスフィア王国城下センフィス。

 夏美の転移魔法にてマヌカハニー戦闘狂旗団の五人は再びこの地に降り立っていた。

 どうにも感慨深い。幾人かのフレンドは残っていたけれど、活動拠点を変えた今となっては訪れる理由がなくなっていた。


「五人でセンフィスを歩くのは久しぶり!」

「だねぇ……。あの頃、チカちゃん走れなかったよね?」

「わたしは歩きでないとヤバいんよ!」

 当時を思い出しては笑い声を上げる。全てが懐かしく面白く感じられていた。


「おや? 珍しい面々だな?」

 騎士団の前にある大広間で雑談していると、白いマントを纏った男が話しかけてくる。


「ゴリさん!?」

 王国騎士団の白マントを翻したのは夏美たちの知り合いらしい。ゴリというプレイヤーは古参であったものの、過去に二度も死に戻りをしている。


「ナッちゃん、聖王騎士団長の赤いマント、カッコいいな?」

「でしょ? 赤マントは正義の証しだよ!」

 ゴリは再会を懐かしんでいる。かといって、彼と夏美だけの話ではない。過去には五人全員が騎士団に所属していたのだ。従ってゴリのことを知らない者はいない。


「ゴリ、まだレベル60かよ?」

「アアアア、俺にしてみれば臨死体験を二回したってのは自慢だぞ? 一度目はルイナーに焼き殺され、二度目はラリアットのメテオバスターにて爆死した。いずれも脳が震えたぞ?」

「マゾいなぁ。ゴリさん変なゲームの楽しみ方するの止めなよ?」

 彩葉がツッコミを入れた。彩葉もまたレイブンと刺し違えた経験があったけれど、もう二度と体験したくはないトラウマである。


「ふはは! そういやイロハも刺し殺されたんだったな?」

「別にゴリさんみたく快楽は覚えなかったけどね。それでゴリさんは迷子イベしてないの?」

「騎士団員は随分と減ったからな。評判を落とさないように依頼をこなしてるよ」

 大勢いたアクラスフィア王国騎士団員も夏美の移籍を皮切りにして、随分と数を減らしたようだ。他の組織に入ったり、移籍したりして。


「わぁ、すまんす! んじゃ、みんなどこ行ったの? 聖王国にはあまり来てないけどさ」

「大半がガナンデル皇国だよ。移籍キャンペーンやってるだろ? 昨日の夜には五人くらい移籍していったな」

 ゴリの話に彩葉は小首を傾げた。ガナンデル皇国移籍キャンペーンは彼女も知っていたけれど、そこまで魅力的な内容だとは思わなかったからだ。


「みんな、NPC口説きにいっちゃったの?」

「ああいや、そういう者も若干名いるが、そうじゃない。実はテイマーが流行りだしているんだ……」


 テイマーは厳密に言うとジョブではない。戦闘系スキルの一つである。よって戦士であったり、魔法士であってもテイムすることは可能。テイムスキルの獲得手順は既に確立しているのだが、弱い魔物しかテイムできない仕様であり、テイムスキルを手に入れようとするプレイヤーはごく僅かである。


「昨日のことなんだが、移籍したプレイヤーが早速とテイムしてな。それが話題となってるんだよ」

 全員揃って、へぇっと気のない返事。わざわざテイマーを目指すなんて信じられないと行った風に。


「テイムって制限がキツいよ。属性が悪の魔物はテイムできないんでしょ? 中立と善の属性に限るとかなり種類が減るし……」

「そのはずだったんだが、リリスをテイムしたプレイヤーが現れたんだ……」

 リリスは淫魔である。弱いながらも歴とした悪魔であり、当然のこと属性は悪であった。


「どゆこと? サイレント修正でもあった?」

「いや、元から設定されていたらしい。ただイビルモンスターのテイム方法が判明していなかっただけなんだ……」


「え? ゴリ、早く教えろよ! 俺もリリスを連れて回りたい!」

 アアアアが興味を示した。元々ガナンデル皇国所属の彼は自身もリリスをテイムできるのではと考えたらしい。


「このドスケベは……」

「ドスケベいうな! 純粋にイビルモンスターをテイムしてみたいんだよ!」

 アアアアの目的は明らかであったが、確かにリリスを仲間にするメリットはあるだろう。デバフスキルを多く持っており、サポートとして役に立つはずだ。


「ハハハ! まあ掲示板に載った情報だがな? まず錬金術が必須らしい。悪属性をテイムするにはテイムと錬金術がセットでなければならん」

「錬金術なんかどうして必要なの? テイムは餌とかアイテムとか与えて友好度を上げるんでしょ?」

 彩葉が疑問を返す。基本的にテイムは魔物の好感度を上げるか、脅迫の二択だ。錬金術がどう作用するのか、まるで分からなかった。


「朴念仁というプレイヤーを知ってるか? 彼が発見した技なんだが、実は魔物に錬金術が使えるらしい。戦闘中にメニューを開いたとき、技能項目の錬金術がアクティブになっていたと話してる」

 メニューにある使用不可能な項目はグレーアウトして実行できない。生産職は基本的に念じることで作業するのだが、朴念仁は戦闘中にメニューを開き、どうしてか技能項目の中にある錬金術を確認したらしい。


「錬金でテイムできるのか?」

「いやいや、錬金術にて属性を変換するようだ。そこからテイムを仕掛ける感じだ」

 聞けばなかなかハードルが高い。決してリリスは強い魔物ではなかったというのに。


「朴念仁はステータスを公開している。彼によると魅力値はイベント前にミドルであったらしい。また器用さはアッパー。ラックは75だそうだ」

 隠しステータスは大凡しか分からない。ミドルは平均的であり、アッパーは平均より少し上。アッパーの上にはスプリームがあることから、朴念仁のステータスはそこまで優れているとはいえない。


「そのステならトライしようと思えるな? スプリームばかりだとブームにはならんだろうし……」

「そうなんだよ。決して有能なプレイヤーじゃないが、一躍時の人だよ。かといって戦闘もこなす生産職プレイヤーだから、他にも重要なステータスがあるかもしれない」

 どうやら朴念仁が平均的なステータスであったことが、ことの始まりらしい。


 誰しもが可能性を見出して、こぞって皇国へと移籍していった。今であれば入国証の百万ナールが無料になることもあって、全員が今こそ移籍だと背中を押されている。


「んんー、テイムと錬金術を獲得するのも簡単じゃないっしょ? それだけしてリリスとか、しょぼくない?」

 彩葉が眉根を寄せる。確かにリリスはレベル40であり、ガナンデル皇国エリアでは最も弱い魔物に分類された。テイマーが不遇であるのは強い魔物をテイムできないことにある。


「まあそれな。しかし、イビルモンスターをテイムしたことに意味がある。これまで不可能だと考えられていたんだぞ? まさかテイマーに器用さが求められるだなんて誰も考えていないし、錬金術が必要になることもな。移籍していった大勢のプレイヤーは自分ならリリス以上をテイムできると考えているみたいだ」


「なるほど、テイムは悪くないな。進化させたりするのが醍醐味だ……」

 タルトも話に入った。彼が語ったのはテイマーの魅力であるが、人気がでない原因でもある。進化させるほど育てるのは苦行であるし、テイムした魔物は死んでしまうと復活させられないのだ。


「んでさ、脱線したけど、ゴリさんって迷子イベの情報は持ってないの?」

 珍しく夏美が真っ当なことを聞いた。だが、テイマーの話に飽きたのだと全員が理解している。


「すまんが、全く分からない。ていうか、お前たちが初めてだよ。迷子イベでセンフィスに来たプレイヤーは……」

 移動を考慮すると一番乗りかもしれない。しかし、嫌な予感も覚えてしまう。誰も来ていないということはハズレを引いたのではないかと。


「ま、とりあえず捜索しようぜ? エリアを決めて潰していこう」

 せっかく来たのだし、やはり捜索はするみたいだ。選択ミスの可能性はあったけれど、五人は聞き込みを始めることに。


 先ほどと同じように分担をしてNPCの話を聞くのだった……。

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