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贈り物

 聖王城で昼食を取り、諒太はアトリエを開店していた。昨日は物珍しさもあって大盛況の内に閉店したのだが、本日の客足は考えていたほどでもない。


「暇だな……」

「ええ、昨日かなりの数を売りましたし、この辺りで興味のある方は一通り買われたのかと思われます」

 せっかく在庫を沢山用意したというのに、これでは仕入れに使った金額すら回収できそうになかった。


「まいったな。前途洋々だと考えていたのに……」

「仕方ありませんよ。昨日購入された方の口コミが拡がれば、また賑わうはず。エクシアーノは三大国で一番の大都市です。需要はきっとあるはずですから……」


「昨日の売り上げが八万ナールで店を閉めたあとの仕入れが一万ナールか。利益率は高いのだけどな……」

 厳密には昨日の仕入れもあるので、利益は七万を切る。一日としては十分な利益であったけれど、十日で百万を返済する計画は達成が難しくなっていた。


「ああ、今月分の給金は借金に充当しましたが、よろしかったでしょうか?」

 そういえば本日は給金が支払われる日であった。諒太に手持ちがあると知ったロークアットは全額を借金の返済としてくれたらしい。


「構わない。奴隷は利子を支払わなくていいのだろ?」

「ええ、もちろんです。借金奴隷は基本的に給金で返済していくだけですから……」

 利子が発生しないのであれば、来月末には完済である。しかし、諒太には学校がある。六日を無断欠席するとしても、八日の日曜日には両親が戻ってくるし、実質的には今日を含めたとしてあと八日しかなかった。警察沙汰を避ける意味でも七日には完済する必要がある。


「困ったな。高級品も作ってみたけど、やっぱ売れないし……」

「それでしたらリョウ様、四日後に聖王城で国際的なパーティーがございます。そこで、わたくしがリョウ様のアクセサリーを身につけてアピールいたしましょう。目の肥えた諸侯たちが欲しがるかもしれませんし。ご一緒しませんか?」

「いやいや、奴隷がパーティーに参加しちゃ駄目だろ? それも国際的なやつって……」

 どうにも奴隷という身分を理解していないのか、ロークアットの扱いは奴隷どころか貴族並みである。一般人にも劣る身分だというのに、パーティーに参加できるはずもなかった。


「政治的な意味合いはなく、カジュアルなパーティーですので大丈夫ですよ! 母の誕生日というだけですし」

「女王陛下の誕生パーティーがカジュアルなわけねぇだろ!?」

「もう千百回目なのですよ? 来賓の方は既に何回目かも分からなくなっています。ただ飲んで騒ぐだけのパーティーですし、従者に関する決まりなどございません。リョウ様が懸念されるような事態は決して起こらないと断言できます」

 確かにパーティーで注目を浴びるのは良い宣伝である。諒太は手っ取り早く借金の返済を終えたいのだ。今のままでは地球世界において失踪者扱いとなってしまう。


「そうだなぁ。確かにアピールの場は必要かもしれん……」

「そうですよ! お披露目の場が必要です!」

 過度に気が引ける話だが、高額商品を売りたい諒太は了承するしかない。その場で受注するためには直接参加すべきである。


「じゃあ、約束していたブローチを製作すっか……」

「あ、それに関しては素案がございます! わたくしのドレスを製作してもらっております仕立て屋にデザイン案を描いてもらいました」

 言ってロークアットは図案をアイテムボックスより取り出した。

 ここまでの彼女を見る限りは全て計画通りなのだろう。ブローチの製作からパーティーへの出席まで。


 何らかの策がありそうな気もするが、元よりロークアットならば悪いようにはしないだろう。だとしたら、諒太は彼女が望むままに行動するだけである。

「じゃあ、ブローチを作るか。一応はステータス付与もしておこう」

『や、やめるのじゃ。せっかく回復してきたというのに……』

 邪悪な声が聞こえた諒太はステータス付与を決めた。パーティーの主役になれるようにと、持てる全てを注ぎ込むことにする。


「錬成!」

 ロークアットが用意したデザイン案に加え、神々しさすら覚える二人のイメージを重ねていく。彼女たちがこの後も平穏で過ごせるよう。とっておきのアイテムになるようにと。


 作業台が光を帯びる。リナンシーの断末魔的な声が脳裏へ届くも諒太は錬成を続けた。

 セシリィ女王とロークアットが気に入るものを作ろうと。唯一無二のブローチを生み出すのだと……。


 輝きが失われると一対のブローチが露わとなる。黄金に輝く宝石と白銀に輝く宝石。台座はロークアットが用意したデザインそのままである。


「こ、これは……?」

 またもロークアットは面食らっている。焔のリングと同じ工程を経て作られたのだ。ロークアットが驚いたのは見た目ではなく、彼女が持つ鑑定眼によるものであろう。


【黄金のブローチ】

【レアリティ】★★★★★

【効果】

・DEF+10

・風属性攻撃+30%

【サブ効果】

・白銀のブローチの効果二倍(パーティー内)


【白銀のブローチ】

【レアリティ】★★★★★

【効果】

・DEF+10

・風属性攻撃+30%

【サブ効果】

・黄金のブローチの効果二倍(パーティー内)


 生み出された二つのブローチは一対である。それぞれがセシリィ女王とロークアットの髪色と合わせたものだ。


「二つとも、わたくしがいただいても!?」

「いやいや、駄目だ。女王陛下に贈ると言っただろう?」

 二つを握り締めてロークアットが懇願するも、諒太は首を振る。恐らく黄金のブローチまでプレゼントしたとしても、彼女は次に生み出されるブローチも欲しがるはずだ。


「わたくし、二つとも気に入りました! お母様には内緒でお願いします!」

「駄目だつってんだろ? ほら黄金のブローチは返せよ……」

 不服そうな表情をするロークアットだが、諒太が手を伸ばすと渋々と返却している。だが、文句はあるようで、彼女は言葉を繋げていた。


「お母様、ズルいです。わたくしも金色の髪であれば……」

「そうしたら白銀のブローチはあげられないぞ? 髪留めなら逆もありなんだろうけど、ブローチなら髪色に合わせた方が良いと思う。ドレスに映えるだろうし」

「うぅ、リョウ様がそう仰るのでしたら……」

 何にしても効果は望んだままだ。恐らく現時点で諒太は防御力+10以上のアクセサリーが作れないはず。付加効果についても同様だろう。諒太のリングにあった召喚は付加されなかったけれど、セシリィ女王とロークアットが共にいるだけで効果が二倍だなんてレアリティに相応しいと思う。


「何にせよ、これはイメージ通りです! 子供だったわたくしが欲しかったままです!」

「んん? デザイン案はロークアットのイメージだったのか?」

「ええまあ……。露店で見つけて欲しかったものです。当時は現金を持っていませんでしたので買えませんでした……」

 どうやら幼少期に見つけたブローチと同じデザインにしたらしい。

 薔薇のような八重咲きの花を模したブローチ。下部にある小さな葉がアクセントとなっている。


「ひょっとして、それも色違いだったのか?」

「ああいえ! それはお母様に贈るブローチと同じ金色をしておりました……」

 話を聞けば諒太が失敗したのだと思える。彼女が欲しかったものを、わざわざ変更してしまったのだと。


「何なら金色に変えようか? 同じものを二つに……」

「いや別に、これはこれで気に入っております! リョウ様が似合うと言ってくれたものですし」

 真意までは汲み取れない。だが、ぎこちない笑顔を見る限りは、やはり過去に望んだままが欲しかったのだと思える。


「とにかく、わたくしはパーティーが楽しみになってきました!」

 気にしていない素振りのロークアット。彼女の振る舞いは諒太に罪悪感を覚えさせるのだが、いずれプレゼントするということで諒太は問い質すのを止めている。


「俺は隅っこで大人しくしてるからな?」

「さあ、どうなるでしょうね?」

 悪戯に笑うロークアットには悪しき思惑を感じずにはいられない。ブローチの件はともかくとして、彼女が楽しみにしているのなら、諒太は笑顔を返すだけだ。


 元よりパーティーへの参加は諒太のためでもある。今よりも状況が悪化するはずはないし、諒太は主であるロークアットに従うだけであった……。

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