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イベント開始!

 エクシアーノを発ち北東へと歩き出すマヌカハニー戦闘狂旗団。タルトの号令により、大勢のプレイヤーを引き連れることになっていた。


「うわぁ、これで予想が外れたらタルトさん、総スカンだわ……」

 イロハが嘆息する。エリアチャットで叫んだものだから、ログを見たプレイヤーたちは大半が北東を目指している。


 当然のことながら逆張りだという声もあり、南西に向かうプレイヤーも多い。エクシアーノの守護は二つの勢力に分かれる格好となっていた。


「でも、王配のイベントでは当たってたじゃん? サンテクトが狙われるってやつ!」

 かつて、いちご大福はスバウメシア聖王国の指揮を執っていた。エクシアーノの防衛戦を戦っただけでなく、彼はサンテクトへの進軍を予期している。此度、多くのプレイヤーたちが彼に付き従ったのは決して興味本位ではない。当時を知る者たちは彼の予想が的中するとしか思えなかったのだ。


「ふはは、我を信頼せよ! 大乱戦がこの先にあるのだ!」

「いい加減、ロールは止めたらどうだ? もうバレてんだし、気色悪くてしょうがねぇよ」

 冷たい視線を向けるアアアアにタルトは首を振った。いちご大福であると知られてもなお、ブレブレのキャラ設定を続けるつもりのよう。


「いちご大福などもういないのだ! 従って俺様は俺様であり続ける! そもそも、いちご大福が作られた設定だしな!」

「嘘いうなって……」

 アアアアには照れ隠しだと分かっていたけれど、もう元に戻すようには言わなかった。


 確かに生まれ変わったのだとしたら、過去のことは全て忘れ去るべきだ。あのような結末を迎えたいちご大福とは決別すべきなのだと。

 二十分が経過。北東組はだだっ広い野原へと到着している。タルトの指示で救護班を最後尾に設置し、傷ついた者たちが回復できるようにした。


 作戦はマヌカハニー戦闘狂旗団が先頭に立ち、可能な限り魔物を討伐する。彼らの討ち漏らしを後方に陣取ったプレイヤーたちが始末するというシンプルなものだ。

 緊急クエストの流れを全員に伝え終えたタルトは再びエリアチャットにて叫ぶ。


「誰も死ぬな! 全員が報酬を手にしろ!――――」


 力強いメッセージに北東組が威勢のいい雄叫びを上げる。今回に関してはロールが良い味を出していた。以前の柔らかい口調よりも、ずっと盛り上がっている。


『イベント開始まで【0:00:10】』


 あと十秒であった。エリア限定の緊急クエストであるというのに、どこからともなくプレイヤーがスバウメシア聖王国に集結していた。SNSや攻略ページで情報を聞きつけ、わざわざポータルを使用して飛んできたものも多い。それだけにタルトの指示は責任重大である。


『只今より緊急クエスト【スタンピード】を開始します!』


 プレイヤー全員に通知が流れると、マヌカハニー戦闘狂旗団の眼前に土煙が上がった。

 これには全員が歓喜する。まだ戦いが始まる前であったというのに、まるで勝利したかのような反応であった。


「静まれ! 全員で守り切ってこそだ! 一人の脱落者も許さぬ!」

 浮き足立つようなプレイヤーを一喝するタルト。だが、その話でさえもプレイヤーたちを煽っている。これから始まる乱戦に期待させてしまう。


「ほな、僧兵ちゃん出すで!」

 チカが大きな笑みを浮かべる。すると瞬く間にメイスを持ったNPC十体が召喚されていた。


「うお! チカすげぇじゃん! 僧兵強そうだな!?」

「期待していいんよ! 今ならわたしも戦力なんよ!!」

 かつては体力値の低さからクランを外れたチカも僧兵を操ることで戦闘に参加できるようになった。イロハが後衛職となっていたけれど、レベル100の僧兵が十体も加われば楽に戦えることだろう。


「めっちゃ興奮してきた! あたし絶対、トップになる!」

「ナッちゃん、張り切るのは良いが、タルトより前に出るなよ? お前は直ぐに突っ走るからな……」

「へーきへーき! ほら、今のところ向かって来んのってLv50しかいないじゃん?」

「魔物は徐々に強くなんだよ。先走んなって言ってんだ!」

「まあまあ、ナツはちゃんとやるって! 昔よりもずっと上手くなってるからさ!」

 イロハの仲裁にアアアアは引き下がっている。たかが数ヶ月であったけれど、確かに成長するには十分な期間だ。常に命を狙われる勇者でありながら、ずっとその役割を死守している。クランが解散したあとであり、騎士団以外はリアフレであるイロハしか仲間はいなかったというのに。


「しゃーねぇ、イロハはデバフメインで。攻撃魔法は俺に任せろ……」

「おお、カッケーじゃん? まあ助かるわ。長丁場だと魔力が尽きるかもしんないし」

「フッ、惚れてもしらんぞ? 大魔道士の先輩である俺の戦いをよく見とけ!」

「あいよ! センパイ!!」

 乱戦が始まろうとしていたけれど、彼らには緊張感がなかった。後方に陣取るプレイヤーたちは全員が鼓動を早めていたというのに。


「序盤は俺様も切りまくる。勇者ナツ、それでいいな?」

「問題ないよ。チカちゃんの僧兵もいるし!」

 レベルの低い魔物は手分けして倒すことで一致。以前と比べて前衛は減ったはずだが、チカの僧兵を加えると寧ろ増強されているはずだ。


「ならば結構! いざ行かん! 一匹残らず殲滅するぞ!!」

 戦闘開始の号令が響き渡る。マヌカハニー戦闘狂旗団についてきた者たちは全員が威勢のいい返事を返していた。


 これより緊急クエストが始まる。プレイヤーたちはエクシアーノに襲い来る魔物たちの行進を食い止めなければならない……。

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