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足早に動き始める世界

「聖王騎士イロハは皇国のアアアア大臣に嫁入りしました……」

 告げられた話に唖然とする諒太。それらしい話は一言も聞いていない。イロハがアアアアとかいう大臣と結婚するなんてことは……。


「嫁入り……?」

「ええ、彼女は険悪だった聖王国と皇国に和平をもたらしました。戦争ばかりしていた両国の架け橋となってくれたのです。おかげでそれ以来、二国間の戦争は起きておりません」

「いや、昨日はドワーフ対策としてマヌカハニー衛士隊があると言っていたじゃないか!?」

 思わず声を荒らげてしまう。ロークアットが嘘を言っているはずもなく、彼女には責任などなかったというのに。


「え? どこでそのような話を? マヌカハニー衛士隊は設立当初より、魔物被害に際して前衛を務めるのが仕事ですよ? 魔道士隊は魔法発動まで時間が必要ですし、一掃するまで持ち堪えるという任務が課せられています」

 諒太が知る内容と違っていた。昨日は間違いなくガナンデル皇国の侵攻に対して組織されたと聞いたはず。間違っても魔物被害だなんて言葉は聞いていない。


「改変が入った……?」

 昨日からこの今まで。その期間に何かが起きたのだと思われる。ロークアットは無意識に記憶が書き換えられており、諒太だけは今回も蚊帳の外であるらしい。


「リョウ様に鍛えていただければ、兵たちはずっと強くなるはずです。エルフは体術に劣りますけれど、徹底的に鍛えてもらえればと存じます」

 ああ、と気のない返事をしてしまう。アアアアとイロハの結婚はセイクリッド世界にいい影響を与えているけれど、自身も知る地味っ子がゲーム内とはいえ結婚するなんて考えもしないことだ。


「話を戻すけど、セリス公爵令嬢はアアアアの血を引いているのか?」

 どうにも気になった。セリスがアアアアとイロハの血を継ぐ者なのかと。彼女はスバウメシア聖王国を敵視している感があったけれど、改変を受けたこの世界でどうなっているのか疑問である。


「もちろんです。アアアア公爵家は人族の家系ですからね。彼女は聖王騎士イロハの血を多く残しております。髪色などは瓜二つかと……」

 死に戻ったあとのイロハを諒太は知らない。だから髪色と言われてもピンとこなかった。


「友好的な存在か……?」

 問題があるとすれば、その一点だけだ。権力者である彼女が聖王国に対して友好的であれば、この世界はずっと良くなっていくだろう。


「バカンスなどで頻繁にお見えになりますよ? 我が国には彼女の家もございますし……」

 ロークアットの話を聞く限り、友好的な存在となったらしい。だが、たった一日で一変してしまうなんて、にわかに信じられることではない。しかし、これだけの改変を起こすほど重大な事象がセイクリッドサーバー内で起きたのは明らかだ。


 マヌカハニー戦闘狂旗団というクラン。メンバーはトッププレイヤーばかり。たった一人タルトという謎が残っていたけれど、彼についてロークアットは情報を持っていない。


「タルトなぁ……」

 問題はどうして彼がリーダーなのかという話だ。ゲーム内の序列的には夏美かアアアアが仕切るべきだろう。けれども、歴史に残るクランの代表はタルトという聞いたことのないプレイヤーだった。


「ええ、タルト様について他に分かっていることは、全身が漆黒の重装備であったことと、大盾を使用しつつも魔物の殲滅能力に長けていたことくらいです……」

 判明している情報は多くない。けれど、予想できなくはなかった。

 大盾という記憶を掘り起こすようなキーワードによって……。


「まさかな……」

 彼ではないと思いつつも、諒太は想像してしまう。

 皇国の要職につくアアアアや勇者である夏美をクランに引き入れるような猛者が多くいるとは思えない。特に所属が異なるアアアアはポッと出のプレイヤーに付き従うような立場ではなかった。彼は皇国の重鎮であり、聖王国に本拠地を構えるクランへと加入するには、同胞たちを納得させる明確な理由が必要であるはず。


 考えるほど、彼しかいないように思う。寧ろ、彼以外には不可能だ。セイクリッド世界への影響を知る夏美が迂闊な行動を取るとは考えられないし、かつてパーティーを組んでいたという大司教チカまでもを組み込んでしまうなんて彼以外にできることではない。


 英雄と呼ばれるに相応しい人物がセイクリッドサーバーに帰ってきたのだと思う。マヌカハニー戦闘狂旗団のリーダーはまず間違いなく彼であろうと。


「それで六人目は誰だよ? 一人増えたと話していたよな?」

 諒太は最後の一人の情報を聞く。ロークアットは彩葉が最後だと話していたけれど、それは創設メンバーの話だ。あとになって参加を認められたプレイヤーの話が残っていた。


「ああ、あとから加入したとされる冒険者ですか……」

「んん? タルトと同じで情報がないのか?」

「ええまあ、その通りです。六人目は男性であることとジョブしか判明しておりません」

 まるで不明かと思いきや、ジョブだけは分かっていると話す。

 頷きを返す諒太。彼女の話を促すようにしている。とりあえずジョブだけでも聞いておこうかと。


 ところが、諒太は愕然とさせられてしまう。軽い気持ちで聞いたジョブは諒太の記憶を激しくかき乱していた……。


「ジョブは大賢者です――――」


 未だ聞いたことがない大賢者というジョブ。けれど、諒太はかつて妄想にも似た推測をしていた。


 それは大賢者ベノンが歴史の闇に消えていったときである。勇者ダライアスの代わりが勇者ナツとなっていたというのに、どうしてか大賢者ベノンは抹消されただけだ。代わりとなる者がいない現状に疑問を覚えていた。


「大賢者って……?」

 問わずにはいられない。その彼が大賢者ベノンの代理であると諒太は考えてしまう。


「分かりません。最後の一人については本当に何も分からないのです。所属していたことは確かですけれど、どういった活動をしたのかすら不明なままです」

 ロークアットが知らないのであれば、誰も知らないのだろう。過度に気になっていたけれど、問い質したとして無駄なことだ。


「まあ、また聞いてみっか……」

「そうですね。ナツ様ならご存じでしょう」

 ソファにごろんと寝転がる。考えても仕方がない。三国が手を取り合うような展開は諒太が望むことであり、謎を残していようと、今のところは何の問題もなかったのだ。


「それでリョウ様、着替えますので少しばかり……」

 寝転がったばかりであったけれど、そういえばこのロークアットは同室で着替え始めてしまう大胆な彼女とは異なる。目の前の彼女はロークアット(奥手)に他ならない。


 少しばかり妄想をしながら、諒太は部屋を出て行く。すっかり奴隷であることを忘れてしまうのだが、今も明確に彼の身分は奴隷のままだ。


 首へ取り付けられた契約リングに手を当てつつも、諒太は金策を頑張ろうと心に誓うのだった……。

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