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収監後

 何の弁明もできず諒太は連行されていた。衛兵たちは神兵というらしく、神が定めた規則を維持するために存在するようだ。つまりは違反者を裁く者たちである。


「ゲームマスターの子孫ってことか?」

 セイクリッド世界は運命のアルカナに近付いている。ゲーム内ルールを破った者たちにはゲームマスターが罰則を与えていたのだ。借金奴隷は悪落ちするわけではなかったけれど、返済できなかったペナルティを受けることになる。


【グイン・ジーエム】

【人族】

【神兵・Lv80】


 名前からして間違いない。三人は種族が違ったけれど、全員がジーエム姓である。更には他のゲームにありがちな最強キャラではなく、全員がレベル80とのこと。それは恐らく神兵を倒せば問答無用でイビルワーカーとなる仕様のせいだろう。斬り倒せる可能性を残したレベルとなっていた。


 教会からポータルによって移動した先は諒太が知らない街である。

 キョロキョロとしていると、

「ここは中立都市アルカナ――――」

 グインが言った。

 諒太はただ息を呑む。確かにその都市国家は運命のアルカナにも存在する。けれど、国とは名ばかりであって教会組織と裁判所、更にはオークション会場があるだけであった。


「ここがアルカナ……?」

「うむ、基本的にアルカナは犯罪者を裁くためにある。奴隷オークションの会場であり、見物客で賑わう街なのだよ。ここは中立国であり、人種間の闘争がないどころか、少しの犯罪もない。だからこそ移住する者が多いのだ……」

 現状の繁栄ぶりは全て平和であるからだ。戦争を繰り返す国に見切りをつけ、移住した者が多いという。


「それで俺はいつまで拘束されるのですか?」

 ステータスを見ると、まだ勇者のままだ。恐らくは奴隷オークションにて落札者が決定し、契約を結ぶことで奴隷落ちとなるのだろう。


「借金奴隷は人気がなくてね。合同開催になるだろう。三日以内に君がどのオークションに参加するかを決めると良い」

 グインが言うには人気は犯罪奴隷なのだという。給金は高くつくけれど、どのような命令にも背けない犯罪奴隷はオークションの目玉らしい。逆に拒否権がある借金奴隷は落札者が現れない場合もあるとのこと。


「もし誰にも落札されない場合はどうすれば良いのでしょう?」

「問題ない。その場合は給金は安いがアルカナの雑務に従事してもらう。もちろん借金を返済できれば解放されるぞ」

 聞けば借金奴隷は債務不履行から一週間以内に開催されるオークションに参加する義務があるようだ。また決定するまでの猶予は三日。三日を過ぎても決めない場合は強制的に四日目の朝に開催されるオークションへと出品されてしまう。


「これが開催リストだ。独房になるが、不便はないはず。じっくり考えておいてくれ」

 諒太は街の中心にあるお城のような建物に連れられ、地下にある独房へと通されていた。

 そこは借金奴隷専用の独房とのことで、鉄扉がある以外は宿の部屋を思わせる作りだ。トイレもあり、水を汲んだ桶もある。更には食事が一日二回届けられるらしい。


 グインが部屋を出て行くと、諒太はベッドに横たわる。思ったよりも好待遇であったために拍子抜けした感じだ。

「オークションか……。ログアウトしても良いのかな?」

 ログアウトしようと思うも、脱獄となるかもしれない。そうなると諒太はイビルワーカーとなり、捕まれば今度は犯罪奴隷オークションに参加しなければならなくなる。


「ナツに聞いてみっか……」

 このままオークションまで牢獄にいるのはキツい。ログアウトしても良いのなら、諒太は自室に戻って眠りたかった。

 零時を過ぎていたけれど、明日は祭日である。諒太の盟友勇者ナツが起きていないはずはなかった。


『もしもし、リョウちん?』

 コールすると直ぐさま応答がある。やはり夏美は起きていた。明日からの連休中は間違いなく、ずっとログインしているはずだ。


「ああすまん。実は利子が払えなくて捕まった……」

 情けない話だが、諒太は事実を伝えていく。疑問を解消するためには真実を口にするしかないのだと。


『ええ!? やっぱ無理だったか!』

 夏美は爆笑している。人ごとだと思って非常に軽い扱いだ。

「うるせぇ。あと10ナール足りなかったんだよ。一応はアダマンタイトを入手したんだが、時間ギリギリでな……」

『それは惜しかったね? んじゃ今は都市国家にいるの?』

「ああ、それなんだが、ログアウトしても良いのかどうかを聞きたくてな。ログアウトしてイビルワーカーになったら大変だろう?」

 諒太は現状を夏美に伝えた。ゲームマスターがやって来て連行されたこと。中立国家アルカナにある建物へと収監されたことまで。


『プレイヤーはログアウトしても構わないよ。時間が合うオークションを選んでおけばいい。ただし、ログインしたら直ぐに牢獄まで転送されるからね』

「転送? そいやプレイヤーは人族の秘術にて召喚されてるんだろ? 移籍したらログイン場所が変わるんだよな?」

 ここで諒太は疑問を口にする。移籍するとログイン場所が変わるはず。しかし、セイクリッド世界にある召喚陣はアクラスフィア王城の地下にある石室なのだ。


『それは転移術だね。ポータルみたいなものだよ。ログインすると召喚エフェクトに続いて転移エフェクトになんの。あたしはログインするとエクシアーノ王城前だね!』

 なるほどと諒太。確かにポータル技術なんてものがある設定なのだ。安易に転送という形になったのだと思う。


「じゃあ、俺はログインし直すと、転移術でこの部屋に戻ってくるわけか?」

『そゆこと! 指定したオークション日時に戻ってたら良いよ。自動でオークションが始まっちゃうと酷い落札者になる可能性があるし』

「酷い落札者って何だよ? 見てないとヤバいのか?」

 気になる話に諒太は眉根を寄せる。確かグインはアルカナの施設で雑務をすると話していた。給金は安いが扱いはそこまで悪くないだろう。


『ヤバいよ。最低なのは都市国家の雑務だね! 延々と掃除させられるって聞いた! 五万ナールを返済するのに三ヶ月くらいかかるみたい。βテストのフレンドさんは諦めてキャラを作り直したらしいし!』

「マジか……」

 夏美は本サービス開始から借金をするプレイヤーがいないと話していた。それは全て借金奴隷生活が苦痛だと判明したからだ。五万ナールを貯めるのに三ヶ月は無駄すぎる。諒太でも流石にそこまでかからないのだから。


「オークションの時間とか違いはあるのか?」

『良い時間は参加者が多い夜だろうね。オークションはプレイヤーも参加するから競った方がいいの。給金は落札額の十分の一と決められてるから。まあでもNPCに競り勝つような人は上位生産者くらいだよ。仮に落札者が給金を払えなければ、奴隷はその時点で借金から解放され、今度は落札者が全額を背負った奴隷になっちゃう。だから熟練度の高い生産者でないと手を挙げようとはしないだろうね』

 夏美にしては有意義な話である。

 早期の解放があるのなら、その手しかないように思えた。給金が支払えなければ、その時点で借金ごと落札者に押し付けられるのだから。


「俺は錬金術を使える。申告した方が高騰するのか?」

「申告しなくても問題ないだろうけど。そっちじゃ念のために申告した方がいいかもね」

 錬金術はスキルである。裁判所がどこまでスキルを見抜けるのか分からないのだから、一応は自己申告をするべきだろう。


「できることを全て自己申告すりゃ、入札金は高くなる?」

『セイクリッド世界のことは分かんないけど、たぶん同じじゃないかな? オークションではスキルとか公表されるみたいだし』

 夏美曰くフレンドで落札した経験があるのは越後屋だけらしい。その彼が落札した奴隷は器用さが異様に高かったと越後屋に聞いたようだ。


「俺も悪徳商会に落札されねぇかなぁ……」

『リョウちんは色々と隠しステータスが優秀ぽいし、可能性はあるんじゃない?』

 言って通話を切る。とりあえずはログアウトしても問題ないようだ。だとすれば日時だけ決めてログアウトするに限る。


 どうせ牢獄から出られないのだ。たまには勉強でもしようかと諒太は考えていた……。

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