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夏美のプレイによる改変

 起動しっぱなしのヘッドセットを装着し、早速とログインした諒太。召喚陣がある石造りの部屋を出て、大広場にある騎士団本部を目指した。大きな銅像が目印。いつもなら歩いて行くのだが、諒太は全力で走っている。


「リョウじゃないか。もう戻ってきたのか?」

 探す間もなくフレアを発見する。彼女は先ほどと同じく詰め所の前に仁王立ちしていた。

 ところが、この状況は諒太を戸惑わせている。つい先ほど彼はこの場所にいたはずであるが、どうしてか違和感を覚えて仕方がない。ただし、それはフレアの様子がおかしいのではなく、広場へと設置された銅像に彼は困惑していた。


「銅像が増えている……?」

 勇者ナツの銅像の隣に、厳めしい男の銅像が建てられていたのだ。だが、見知らぬ男ではなかった。猛々しい銅像のモデルを諒太は知っている。


「騎士団長コロン……」

 それは先ほど夏美が壁役として連れていたNPCである。銅像の装備は彼のそれとまるで同じだった。ずんぐりとした体躯もまた諒太の記憶通りだ。


「ほう、よく知っているじゃないか? この方はミスリルの盾とも呼ばれる三百年前の英雄だよ。勇者ナツの壁役として不死王リッチの討伐に参加された方だ」

 諒太が知るままの話をするフレア。その三百年前を諒太は今し方見てきたのだ。よって話の続きを予想するのは造作もないことだった。


「彼は死してもなお大盾を構えたまま壁役を続けたらしい。この銅像は仁王立ちしたまま失われた最後の姿なんだ……」

 勇者ナツ像と同じように古びた感じがする。たった今、設置されたとするのは無理があった。またこの銅像は諒太の想像を否定しない。この現実が何であるのかを物語っていた。


「やはりゲームとは異なる。ゲーム世界と同質化した世界なんだ……」

 もし仮にゲームであるとすれば、こんな銅像が建てられるはずもない。何度も蘇る中ボス的なリッチの討伐記念だなんてあり得ないのだ。しかもモデルは壁役に利用したNPC。もしこのようなことが起きるのなら、本部の前には無数の銅像が乱立することになる。


「彼はその後どうなりましたか……?」

「ああ、遺体は勇者ナツが収納魔法を使って魔道塔から運んでくれたみたいだ。当時の副団長が遺体を確認したようだが、コロン団長は盾を掴んで離さなかったという。また遺体を起こしてみると、コロン団長はその足で大地に立ったらしい。死んでもなお強固な意志があり、彼は盾役を放棄しなかったのだ。その姿に副団長は痛く感動し、騎士の誇りとしてその姿を銅像に残したと伝わっている」


 やはり生き返るなんてことはなかった。彼はそのまま失われたようだ。もしも夏美がコロンに回復ポーションを使っていたとしたら。諒太はそんなことを考えずにはいられなかった。無駄な妄想だと分かっていたのに、一人のNPCが失われた話に罪悪感を覚えている。


「大賢者ベノンの石碑……」

 石碑に書かれていたこと。やはりそれは世界の真理であった。最初は意味が分からなかったそれを今になって理解している。


「大賢者ベノン? 誰だそれは?」

 諒太の独り言にフレアが返す。彼女の反応は諒太が予想するままだ。フレアは知っていただろうに、大賢者ベノンを知らないと口にしている。


【繋がった道を介して双方の世界は同質化を図ろうとする――――】


 石碑に記されたことが全て。恐らく現状のセイクリッド世界は同質化という改変を受けている。召喚陣がクレセントムーンに接続したこと。あろうことかインストールされたアルカナのゲーム情報が徐々に流れ込んでいるはずだ。

 フレンドである夏美のプレイデータは過去として扱われている。騎士団長コロンの銅像に諒太は確信を得ていた。過去である夏美のプレイデータはセイクリッド世界史を改変し続けるのだろうと。


 かといってフレンド登録を解除するのは躊躇われている。現状のセイクリッド世界は既に三百年前という夏美のプレイデータを起点として成り立っていたからだ。今さらフレンド登録を解除すると、歴史が全て失われるだろう。そんなことをすれば、きっと現状はまるで違うものになる。フレアやアーシェの存在だって保証できなくなってしまう。

 小さく嘆息するも諒太は前を向く。改変された歴史を今さらどうこうすることはできないのだ。ならば今できることに諒太は集中すべきである。


「フレアさん、俺は剣術を始めようと思うのですけど、良い武具屋を知りませんか?」

 溜め息を吐ききったあと、諒太は気持ちを切り替えた。夏美が影響を与えるのは歴史だけだ。この現在に彼女は直接関与していない。何世代も前の出来事であるのだし、フレンド登録を解除するよりも直接的な影響は少ないように思う。


「君は魔法職だろう? どうしてまた……」

「自分で言うのもなんですけど、俺は剣術を極められると考えています。それに剣術を始めなければケジメをつけられません……」

 諒太は夏美に回復を指示することができた。このような銅像が建てられる未来を回避することができたはず。適切な指示ができていたのなら、騎士団長コロンは天命を全うできたに違いない。


「ケジメ? 一体何の話だ?」

「もちろん、コロン団長の死を弔うことです……」

 フレアは小首を傾げていた。さりとて諒太は続ける。元より彼女が理解しているかどうかなど関係ない。諒太は決意を口にするだけだ。


「俺は不死王リッチを討伐したい――――」

 思わぬ表明に目を丸くするフレア。彼女は諒太の話が信じられないといった風に何度も首を振っている。


「不死王リッチは討伐されたのだろう?」

「リッチはアンデットの王。もう蘇っていますよ。幾ら討伐してもきりがない存在。けれど、俺は倒さねばなりません。それが俺のケジメですから……」

 恐らくリッチは蘇っている。ゲームではボス部屋を出た瞬間に復活しているのだ。明日にならないと復活しないNPCとは明確に異なっていた。


 想像するに改変された時点で全てが決定している。直ぐさま復活するリッチは継続して存在し、その時点で失われたままのコロンは死として扱われただけではないかと。


「確かにあの海域は魔素が濃く強大な魔物の存在が確認されている。隣国スバウメシアはかなり手を焼いていると聞いた。君はその原因がリッチだというのか?」

「間違いないでしょう。確か魔道塔はエルフの国スバウメシア聖王国に近い孤島にあるのでしたね? 俺は剣術を極めてからリッチに挑もうと考えています」

 諒太は想定に基づき話を始める。世界間が同質化を図っているのなら、全てはゲーム通りであると。運命のアルカナと同じ世界がこの先に拡がっているはずだ。


「どうして君がスバウメシアに協力する? 現在のスバウメシア聖王国は友好国であるけれど、要請がなければ協力する必要はないぞ? 魔道塔のある島はアクラスフィア王国の領土であるが、幸いにも付近に王国の街は存在しない。スバウメシアの輸送船や漁船が困るだけで、我々は放置したとして構わんのだぞ?」

「落ち着いてくださいよ。別に俺はスバウメシアに肩入れするわけじゃありません……」


 やはり諒太の話は否定されなかった。本当の歴史がどうであったのかは分からない。けれど、改変されたセイクリッド世界には魔道塔が存在し、そこにはリッチが棲みついていたという。加えてアクラスフィア王国以外にもゲームと同じスバウメシア聖王国があった。つまるところセイクリッド世界を構成するのは運命のアルカナと同じ三つの大国である。


 一つは人族が支配するアクラスフィア王国であり、次にドワーフが統治するガナンデル皇国、最後にエルフが治めるスバウメシア聖王国だ。

 現在、その三国は休戦協定を結んでいる。ただ歴史の設定として三国は過去に幾度となく戦争をしていたらしい。


「俺が戦うのはセイクリッド世界を救うためです――――」

 運命のアルカナは暗黒竜ルイナーの封印を最大目標としていたものの、プレイヤーは生産職であったり商人であったりと自由に行動できる。各プレイヤーの行動を規制するルールはなく各々が世界を楽しめれば良かった。だが、自由すぎる選択肢は往々にして目標を失うことになる。暗黒竜封印という先の長い目標に気後れしてしまうのだ。よって目先の目標を設定できぬプレイヤーは自然と淘汰されてしまう。


 だからこそ諒太はまず不死王リッチを倒そうと思った。それが救世主としての第一歩なのだと。夏美のようにほぼソロで倒してこそ自信が得られるはず。諒太だけのアルカナにて、勇者たる資質を秘めているのかを不死王リッチで確かめてやろうと。


「世界を……救うだと?」

「貴方が俺に言ったことです。俺はセイクリッド世界を救うために召喚されました。決してアクラスフィア王国だけのためじゃない。俺はセイクリッド世界に住む全ての人々を救うために戦いたい」

 諒太の決意を感じ取ったのか、それとも呆れたのか。フレアは長い息を吐いている。さりとて彼女は笑みを浮かべている。諒太が立てた目標を否定しようとはしなかった。


「ならば剣術指南は私が請け負う。装備も騎士団で用意しよう。君に世界を救えと命令したのは他ならぬ私なのだから……」

 フレアは最初に語った通り、諒太への助力をしてくれるらしい。騎士団長である彼女のレベルは50。レベリングするには最適な人選である。


「この世界での最強はフレアさんなのでしょうか?」

 確かコロン団長もまたレベル50だった。それがNPCの上限であり、彼女たちがその流れを汲んでいるのなら、ソロでリッチを狩るなんて不可能だろう。


「いや、レイブン近衛兵長がアクラスフィア王国では随一だろう。私は一度も彼に勝ったことがない。他国にも名が轟いているのは彼だけだと思う」

 レイブン近衛兵長は初めて聞く名前だ。近衛兵とのことで、王様に近い要職であると分かる。王様を守護する人物はやはり王国一の実力者であるようだ。

 となるとNPCもLv50を超える可能性があった。或いは強力なスキルを所持している可能性。Lv50のフレアが一度も勝ったことがないのであれば、レイブンは彼女よりもかなり優れているはず。同じレベルで同じようなスキルでは勝ったり負けたりを繰り返すだけなのだ。


「よろしくお願いします。正直に素人ですけど……」

「先ほどの自信はどこへ消えたのだ。剣術を極められるのだろう?」

 皮肉が返されていたけれど、ステータスもレベルも理解できぬ彼女に何を言っても始まらない。思案しながら諒太は返答する。


「まあ自信はありますけど、素人なのは事実。上手く説明できませんがポテンシャルは保証します」

「何だそれは? まあいい。見込みがないのならそれまでだぞ?」

 諒太はメニューを開いてフレアをパーティに誘ってみる。この世界においてパーティ設定が必要かどうかは分からないが、フレアは同意しているのだし組み込めるかどうかを試してみるのは間違いじゃない。上手くいけばフレアが魔物を倒すだけで、諒太はレベルを上げられる。


【フレア・マキシミリアンがパーティに加入しました】


 急な告知にゴクリと息を呑む。懸念した通りか、はたまた想定内であるのか。諒太は苦い顔をしながらも頷いていた。

 やはりこの世界はアルカナの影響を受けている。クレセントムーンに召喚陣が現れたこと。更には夏美のゲームデータを過去として成りたっていること。仮にこの今が正真正銘の現実であったとして、それは既に改変を受けたあとだ。召喚自体は成功したものの、同質化すべき世界を完全に誤っていた。


「フレアさん、パーティを組むのに申請とか受諾とか必要ですか?」

 堪らず聞いてしまう。ただし、この確認はただの現状把握だ。既に諒太はセイクリッド世界が現実であって、それが元の姿ではないと分かっている。どこまで運命のアルカナによって改変を受けたのかを知ろうとしているだけであった。


「んん? 冒険者でもない限りは申請など必要ないぞ」

「じゃあ、俺がフレアさんをパーティに誘ったなんてことは?」

「悪いが君の話は理解できん。君が剣術指南を希望したのだろう?」

 思いのほか改変は小規模である感じだ。恐らくフレアは諒太からの申請に気付いていない。加えて彼女はステータスを確認できないはず。なぜなら諒太が剣術の素質を秘めることについて気付いていなかったからだ。


「いや、そうでしたね……」

 フレアにはステータスの概念すらないように思う。諒太は一人で納得し、彼女から装備一式を受け取る。それは騎士団の支給品らしく業物ではないようだが、粗悪な品でもないとのこと。


「どこで戦います? 俺はどこであろうと問題ありませんが……」

「君はソロでハイオーク二頭を狩った猛者だからな……。まあ北の洞窟へ行ってみるか。ハイオークほどではないにしても、それなりの魔物がいるはずだ」

 フレアは馬車に乗ると言って諒太の手を引いた。王都にある乗合馬車の乗り場へと向かうらしい。人混みを掻き分けながら進むのだが、諒太は流石に人目が気になってしまう。いい年をして女性に手を引かれるなんてと。


「お姉ちゃん!?」


 不意に背後から声が聞こえた。それは振り返る必要もないほど聞き覚えのある声だ。恐らく想像した通りの人がいるはず。だとすれば非常に気まずい。まさか街中で出会うとは少しですら予想していなかったし、彼女の姉に諒太は手を引かれるという状況である。


「むぅ、アーシェ……。お前、なぜ街中にいる? ギルドの職務はどうした?」

 諒太たちに声をかけたのはアーシェであった。昨日、酔い潰れたその人に他ならない。

 思わず諒太は視線を逸らす。ずっとNPCだと思って接していた人。からかっていたのはプログラムされたデータだと考えていたからであり、現実の女性だと知らなかったからだ。


「今日はお休みだよ……。このところずっと働いてたから……」

 アーシェも気まずそうだ。諒太の誘いに乗った挙げ句、どうしてか姉に預けられてしまった彼女。その微妙な扱いはフレア曰く彼女を酷く傷ついたらしい。


「アーシェ、昨日はすまなかった。これは昨日のお詫びだ……」

 買っておいた髪留めを彼女へと差し出す。いきなりの謝罪ではあったけれど、諒太は後回しにできないほど動揺していたのだ。

 この世界が現実であるのなら、アーシェは歴とした人間である。改変を受けているとはいえ、間違いなくこの世界に存在するのだ。そんな彼女をからかうだなんて身の程知らずも甚だしい。誰が見ても可愛いと思える女性と、どこを切り取っても平凡な高校生は明らかに不釣り合いだった。


「えっ? これをわたしに……?」

 ところが、アーシェの反応は想像と違っている。髪留めを受け取った彼女は頬を赤くして諒太を見ていた。

 はっきりと分かる感情は諒太を戸惑わせている。学校生活において女子たちに好意を示された経験はない。なのにアーシェは期待するような目をして諒太を見ているのだ。


「アーシェ、リョウは昨日の詫びだと言っている。それに深い意味はない。お前が酒に弱いと知らなかった償いをしているにすぎない」

 姉であるフレアが口を挟む。諒太にとっては助け船である。しかし、ある意味においては諒太に釘を刺すものでもあった。

 フレアは諒太が異界人であることを知っており、セイクリッド世界に留まらない人間であると分かっている。従って彼女は諒太とアーシェの仲を認めるつもりがない。たとえ諒太が世界を救おうとも、フレアにとっては異界の存在でしかなかった。


 一転してアーシェの悲しげな目が諒太を捉えている。姉が話す言葉の真偽を尋ねるようにして。加えて諒太は鋭い視線も同時に感じていた。それは当然ながらフレアである。アーシェに期待を持たせるなと彼女は諒太を牽制していた。


「あ、いや……その……」

 恐らく正答は存在しない。それだけは諒太にも分かった。相反する双方を納得させる術はないのだ。とどのつまり諒太は狼狽えるだけであり、明確な意志を口にできないままである。


「お姉ちゃん、あとで話があるのだけど?」

「奇遇だな……。アーシェ、私もお前に話ができたところだ……」

 諒太が固まっていると、二人は互いを睨むようにしている。大人しい感じのアーシェだが、根は姉と同じなのかもしれない。王様に反対されようと異世界召喚を始めてしまったように、自身の意志や考えを曲げない人なのだろう。


「私たちは今から北の洞窟へと向かう。アーシェは家で大人しくしていろ。夕飯の支度でもしているがいい」

「ええ、分かったわ! リョウ君の分も用意しとくから!」

 棘のある会話が交わされていた。諒太は一刻も早くこの場を去りたいと願う。受付嬢をからかったばかりに修羅場を迎えるなんて思いもしないことだ。


 それじゃあと諒太たちはアーシェと別れる。逃げるようにして街道を走る相乗り馬車へと飛び乗っていた。

 しばし無言のフレア。今もまだ姉妹喧嘩について考えているのかもしれない。


「なあ、リョウ……」

 諒太が話題を探していると、意外にもフレアが先に口を開く。恐らくはアーシェとの仲が進展しないように改めて注意するつもりだろう。


「私とアーシェは二人で暮らしている。たった一人の家族なのだ。彼女の幸せを願うのは悪いことだろうか?」

 予想とは違っていた。とても人間味のある話だ。NPCでは絶対に不可能だと思えるものであり、それは妹を想う姉の感情そのものだった。


「俺に兄妹はいませんけど、気持ちは分かります。仲の良い幼馴染みと会えなくなったとき、俺はとても悲しかったから……」

「そうなのだな。ひょっとしてそれは女か?」

 やけに鋭い返答がある。けれども、フレアが勘ぐるような関係ではない。美人に成長した現在であっても、夏美は性別を感じさせない親友である。


「貴方も知っている人ですよ……」

 諒太は言葉を濁した。彼女に夏美の話をしても無駄なことだ。セイクリッド世界において夏美は過去の偉人でしかなかったのだから。

 だが、そんなとき。突如として脳裏に通知音が届く。それは明らかにスナイパーメッセージによるものであった。


 @夏美『リョウちん、電源を入れてるのなら早くログインしたまえ!』


 簡易メッセージは何とも微妙なタイミングで送られてきた。またその内容は眉根を寄せるものである。スナイパーによって電源が入っていることだけは分かったようだが、夏美には諒太のログイン状態を確認できないらしい。


「マジかよ……」

 最早、確定的だった。この世界がどういったものであるのか。世界名は同じであったものの、夏美と同じセイクリッドサーバーにいないという事実を諒太は改めて突きつけられている。


「リョウ、どうした? 盗賊の気配でもしたか? 最近、街道は物騒だと聞くからな」

 諒太の異変に気付いたのか、フレアが問う。しかし、答えられる内容はなかった。諒太にメッセージをした相手は彼女たちが偉人と崇める勇者なのだから。


「ああいえ、少し考え事をしていただけです」

 あまり時間は割けそうにない。決して見つかるはずもなかったのだが、諒太は夏美の話をしたくなかった。幼馴染みであり、女性である夏美の話は……。


 @諒太『今はすまん。明日説明する』

 諒太と夏美がパーティを組む未来はもうなくなった。互いがプレイヤー検索に引っかからないのであれば叶わぬ夢である。


 @夏美「ええー、用事? じゃあ仕方ないね……」

 理解ある幼馴染みに感謝を。諒太は再度すまんとメッセージをし、彼女との遣り取りを終えた。


 このあとは二人して無言のまま過ごしている。北の洞窟まで馬車で三十分ほどの道のりであったけれど、とても長く感じられたのは諒太だけの話ではないだろう。二人共が気まずい思いをしていたのだから……。

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