いつもの交差点
翌朝、諒太は浮かない顔をして学校へと向かっていた。
それもそもはず彼は三万ナール以上を目標としなければならなかったというのに、二日で一万ナール弱しか報酬を得られていない。しかも、ポーションは二種類とも尽きてしまっている。これでは高難度クエストを受注するわけにもいかず、延々と小遣いともいうべき依頼をこなし続けるしかなかった。
「まいったな……」
「リョウちん!」
いつもの本町一丁目。信号待ちをしていると幼馴染みが声をかけてくれる。何もなければ笑顔を向けられたものの、利子の支払日が近い諒太は憂鬱な表情を返すだけだ。
「どったの? まだ金策で悩んでるの?」
「まあその通りだ。今のままじゃ絶対に間に合わねぇ……」
「借金なんかするからだよ……」
ぐうの音も出ないとはこのこと。まさか残念なる幼馴染みに指摘されてしまうなんて。
見栄を張らなければ、借金とならなかったのかもしれない。少なくともフェアリーティアは差し上げますという話だった。下手に男気を出してしまったばかりに、諒太は今になって苦しんでいる。
「なぁ、借金奴隷ってどうなるんだ?」
明確にその時が近付いているのだ。諒太はそれがどういったものであるのかを聞いておかねばならない。いざというとき狼狽えないように。
「基本は付き人みたいなもんだよ。利子が払えなければ即座に逮捕されるね。逮捕されると期日内に開催されるオークションを選ばなきゃいけない。オークションにはプレイヤーも参加できるけど、借金奴隷は戦闘を強要できないし、誰も入札しないの。要職に就くNPCが買っていく感じ。まあでも主人の頼みごとをこなせば、給与の他に報酬もでるからさ。それで借金を返していくのよ。ただし、完済まで主人がいるエリアから離れられないし、プレイヤーは自由行動時間がかなり減ってしまうね」
聞けばβテスト時には大勢が奴隷落ちしたらしい。しかし、あまりに過酷な制限によって正式サービス開始からはイビルワーカーを目指す者しか借金を抱えないという。
「エリアってのは国のことか?」
「うんまあ基本的に。主人がアクラスフィア王城のNPCなら最低だよ。レベリングも金策も効率悪いし、借金奴隷から抜け出せないと思う」
「マジか……」
夏美によるとオークションに参加するNPCはランダムとのこと。現状の活動エリアであればそこまで支障はなかったが、生憎と週の最低奉仕時間が決められており、自由気ままなMMORPGを満喫できなくなってしまう。
「だから借金は駄目だっていったのに……」
「仕方ねぇだろ。今さらなんだし……」
このあと諒太は更なる金策について聞くも、夏美の回答は昨日と同じであった。
借金は間違いなく必要だったのだ。どう考えたとしても、諒太が借金を背負わぬ現状はない。
「まあ奴隷になったとして、急ぐ用事はないから諦めるしかねぇな。それに自由時間もあるのなら、奴隷になったとして地道に返していけるし……」
「ご主人様はお金持ち設定だから問題ないよ。給金は落札金額の十分の一がもらえるし。大抵は落札を競い合って、なかなかの金額に落ち着くはず。だから、それなりの期間で解放されると思うよ。ただし、奴隷期間はジョブによるステータス恩恵がなくなっちゃうからね。勇者補正の基礎ステータス三割増はなくなるから注意!」
奴隷期間中は如何なるジョブも補正がなくなるようだ。借金奴隷から解放されるには自由時間を過ごすよりも主人の命令に従っている方が早いとのこと。
少しばかり気持ちは落ち着いている。避けるべきことには違いなかったけれど、やはりゲームとしての罰則なのだと知れた。制限が生じても救済処置的な給金が得られるのだ。返す当てもなく延々と奴隷を続けることにはならないと思う。
諒太は切り替えて行くことにする。万が一の場合も想定しながら……。
本日は二話更新です。後ほど公開いたします。
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