結末は……
目眩を覚えながらも、諒太は何とか立ち回っていた。しかし、スキルすら使えぬ状況で、この強敵を倒せるとは思えない。ドラゴンゾンビはレベル140という裏ボスだ。魔法もスキルも使わずに、それとガチンコ勝負だなんて気が触れてしまいそうである。
「どうすりゃ良いんだよ……」
目眩のせいで回避ミスをし、諒太は幾度となく強烈な一撃を浴びていた。王者の盾がなければ、今頃はもう生きていないと思う。
回復ポーションもあと少し。登校時刻を気にしていた諒太だが、既にそこまで耐えられるかどうかも分からなくなっている。
一応は全てのMP回復ポーションを飲んでみた。けれど、リナンシーが言ったある程度とは想像よりも多かったようで、今も目眩を覚えたままだ。こうなってくると諒太は自身の自然回復しか目眩を脱する手立てがないらしい。
「元より戦うしかない……」
途切れそうになる気持ちを無理矢理に繋ぎ止めていた。諦めは死と同義である。だからこそ諒太は剣を振る。精根尽き果てようが斬り付けるだけであった。
「ぶった切れろォォォッ!」
噛みつき攻撃を避け、透かさず斬り掛かる。カウンター攻撃であれば、少しくらいは与えるだろうと。
攻撃は常に回避からのカウンターへと切り替えている。だが、延々とその繰り返しであって、手応えのある一撃は一度として放っていない。
「集中しろ……」
もう、かれこれ二時間が経過し、魔力切れのまま戦う諒太は集中力が怪しくなっていた。
「やべぇな……」
巨体の割に意外と素早い攻撃を繰り出すドラゴンゾンビ。一瞬でも気を抜けば、回避できずにまともに攻撃を受けてしまう。
何度目かの突進。諒太は何とかこれを躱すも、どうしてかドラゴンゾンビは回避されるや前足にて踏み付けようとする。
「コンボ!?」
意表をつく攻撃だった。集中力を欠いた諒太は思わぬ連続攻撃に対処できない。まともに食らうことは避けられたが、諒太は弾き飛ばされドラゴンゾンビの足下へと転がってしまう。
目眩に加えて息切れがする。それは体力の方も限界に近付いたことを意味した。
明確な危機に直面した諒太だが、それでもまだ彼は諦めない。
「クソがっっ!」
諒太は無我夢中で剣を突き上げた。まだ死ぬわけにはならないのだ。残る体力を総動員して力一杯に突き刺している。
するとドラゴンゾンビが僅かに怯んだ。目の錯覚かと感じたけれど、間違いないと思う。ドラゴンゾンビはこれまでと明らかに異なるモーションを見せたのだから。
「逆鱗?――――」
転がるようにしてドラゴンゾンビの懐から脱し、直ぐさま回復ポーションを飲む。せっかく弱点を見つけたというのに、攻撃するよりも前に失われるなどあってはならないのだと。
「やっぱ逆鱗だよな。鱗なんてなかったけど……」
ほぼ腐肉で覆われているドラゴンゾンビは逆鱗の位置が不明である。しかし、先ほどの突きは間違いなく効いていたと思う。ならば諒太は同じ箇所を狙うだけだ。
「やってやんよ……」
自ずと集中力が高まっていた。ようやく活路を見出したのだ。呆けてなどいられない。
再び攻勢に出る。カウンター攻撃では任意の箇所を狙いにくい。だからこそ、自分から攻撃を仕掛け、ドラゴンゾンビに近付いていく。
「刺されぇぇっ!」
首元に入っていくのは勇気がいる。だが、諒太は躊躇せず飛び込み、更には剣を突き上げていた。
先ほどよりも腰の入った一撃。再び怯んだドラゴンゾンビに確信する。やはり首元が弱点であるのだと。
「いける!」
距離を取り、またも同じように攻めていく。パターン化できれば楽だろうと、先ほどと変わらぬステップにて懐へと取り付いている。
しかしながら、同じような結果にはならなかった。先ほどは諒太のスピードに追いついていない感じであったが、今度は首元に飛び込むことを察知していたらしい。ドラゴンゾンビは前足で払うようにして、諒太の攻撃に合わせてきた。
「っ!?」
ゲームであればと考えてのこと。だが、ドラゴンゾンビは学習している。カウンターにも似た攻撃を繰り出すだなんて、少しも予想していないというのに……。
諒太はその攻撃をまともに受けてしまう。加えて攻撃の勢いを受け止められずに、諒太は壁へと激突していた。
一瞬意識が途切れていたけれど、全身に走る痛みによって諒太は我に返っている。しかし、息苦しい。回復したばかりであったというのに、それは明確に瀕死状態であった……。
「ここまで……なのか……?」
ポーションを取り出す操作が覚束ない。諒太は訪れる未来を予測している。
それこそ張り詰めた気持ちを一度に切ってしまうような望むはずもない未来を……。
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