君を殺して僕をなくそう
俺は呆然と、死体を見つめていた。
周りには野次馬が押し寄せ
救急車を呼べとか、
叫んだりとか、
そんな声で騒々しい。
ばっと見でわかる。
こいつは死んでる。
だって、
トラックにひかれて
押し潰されて…
トラックの車体の下から
辛うじて腕が見えているけれど
俺の目の前で吹き飛んだこいつが
生きているとは思えない。
でもおかしい。
俺の目の前で吹き飛んだこいつは
慣れ親しんだ姿をしている。
呆然とここに立つ俺を写している窓には
ほんの数ヵ月前に知り合った
あいつが映っている…。
俺はあいつじゃないのに
あいつの姿でここに立っていて…
俺の目の前でトラックに吹き飛ばされた
こいつは
俺の姿をしていたよな…?
なら、
あいつは今どこにいるんだ?
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数ヵ月前…。
「君は僕が嫌い?」
数日前に、
俺の通う高校に転入してきたそいつは
俺に向かってそう言った。
「…は?」
地毛のようだが、
金色に近い茶色の髪をなびかせ
窓際で椅子に座り
机に肘をついて俺を見るそいつを
俺は怪訝な表情で見つめていただろう。
「ふふ…。なんでもないよ」
そんな俺に、
そいつはふわりと笑って
目線を外に移した。
「………」
俺は何も言えずに
ただそいつの横顔を
見つめるしかなかったけれど
どうにもその横顔が
綺麗に見えて、
目が離せなくて…
「…何かついてる?」
そいつはそんな俺に気がついていて
外にやった目を此方に向けずに
そんな事を言ってくる。
「いや…」
「そお?…ならいいんだけど」
他のクラスメイトはとっくに帰宅している。
俺はたまたま
忘れ物をして戻ってきただけだ。
なのにこいつは…
「…帰らないのか?」
「う~ん…。帰ろうと思ってたんだけどさ」
そう言うと、
そいつは俺の方にゆっくりと歩いてくる。
「君が戻ってくる気がして…」
近づいてきたこいつは
また、ふんわりと笑う…。
中性的とも言える顔つきだが、
体つきはしっかりして見える。
近づいてきたこいつは、
178㎝ある俺の身長と
対して変わらない。
「モテるだろ、お前」
思わず口をついて
俺はこんな言葉を吐いていた。
「え?…うーん、そうかも」
そう言って笑いながら
顔をくしゃりとさせたこいつを
俺は可愛いとさえ思い、
ドキリとした自分に戸惑っていた。