神と名乗る不審者
「おおセカイよ。死んでしまうとは情けない」
誰かが俺を呼んでいる。
「あっれー?死んじゃっているのかな」
……。
「返事はないただのしかばねのようだ。ブフゥ!」
張っ倒すぞてめえ!
「おおっと、ようやくお目覚めかい。待ちに待った…いやそんなでもないか。約563943858384秒ぐらいだね」
いちいち壮大すぎるな。第一お前誰だよ
「僕だよ僕、神と呼ばれている概念さ。久しぶりだね!ちょっと今お金に困っていてね。今すぐ指定した口座にお金を」
────神様がオレオレ詐欺の常套手段使ってんじゃねぇ!
「オレオレ詐欺じゃないよ」
いや、どう考えても認知症間際の老人が引っ掛かる手。
「ボクボク詐欺さ。一人称が僕、だからね」
……………。
「おーっと、怒りのボルテージがうなぎ登りだね」
お前、一回しばかれたいのか? 殴られて喜ぶようなドMさん?
「嫌だなぁ、僕はM何かじゃないよ。吹けば飛び、ヒラヒラと舞うような、儚い存在さ」
それは紙な。同じかみ違いだ。
「いやー、一本取られた。ふっふっふぅ」
気持ち悪い笑い方してんじゃねぇよ!
「笑い方ぐらい好きにさせてくれてもいいじゃないか。いいかい、人権ってのを大切に」
そ、そうだな。そんなことで目くじらを立てる必要はないな。
す、すま
「っま、僕は人じゃないんだけどね。ぷぷぅ」
……もういい。もう何も言うまい。
「思考を停止しては人間終わりだぞ。何のためにその知性が、頭脳があると思っているのだ。
動物との区別がそれ(知性)だと言うのなら、思考を停止してしまえば、猿も同然だぞ。愚者よ」
人格百八十度変わったな!
後、深い話をどうもありがとう。
「ま、どこかで見たような、名言らしきものを適当に言っただけなんだけどねー」
もう、こいつはダメだ。
んで、ここはどこだよ。上下感覚もあやふやで、景色は真っ白だしよ。いわゆる死後の世界って奴か?
「違う違う。ここはそんな大層な世界じゃないさ」
じゃあ、どういう世界なんだよ。
「それは君自身が決めることさ。ここは捉え方で価値が変わるからね」
んじゃあ、俺は生きているのか?
「そうそう。愚者なる権能をもって、君は直前に回避したんだ」
愚者なる権能?
「それ以上はダメさ。ネタバレになる。重要なキーワードはここぞって時に解明しないとね」
ここは小説の世界じゃないぞ。そんなこと誰が気にする?
「ふふーん、それはどうだろうねぇ。案外ここは誰かが見ている夢の世界かもしれないよ」
んな、胡蝶の夢みたいなこと言われても。
だいたい。俺達より上位の存在が作り上げた世界だとして、それを観測する手段はない。その議論は無駄だ。
蟻のような矮小な生き物に、俺達と言う存在を説くようなものだぞ。知能からして無理だ。
「本当に?君たちの世界にこういう言葉がある筈だよ。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。ってね」
そんなことはどうでもいい。三上は無事なんだろうな。
「ふ、ふっふっはははああは!自分より他人の心配かい?愚者足るゆえん、と言ったところかな。君が君である証」
訳の分からねぇこと言ってないで、いいから答えろ!
「無事かどうかと言えば、無事だよ。君が咄嗟に抱きついたお陰でな」
よ、よかった。それが聞けただけで、安心して逝ける。
「だから君は死んでないって。普段は聡明なのに、彼女のことになると君は愚かになになるんだね」
俺の半身みたいな存在だからな。短い付き合いだが、「過ごした時間=絆」と言う式は成り立たないって理解できた。
「その関係はひどく歪だ。って僕が言うまでもなく、理解しているか。ああそうだった。君、地球には帰れないよ」
────はぁ!?
「もうすぐ僕の言っていることが分かるようになる」
おいちょっと待て、知ってる情報を吐け!
「時間だ。次はもっと落ち着いた場所で再会するとしよう。愚者の意思を継ぐ青年よ」