ヒロインとの夫婦漫才2
「じゃあお弁当食べよっか?」
「そうだな…あ」
「どうしたの?面白そうな少女漫画でも思い出した?」
「俺がそんなもん見ると思うか」
見ます。たまにどうしようもなく暇になったら見ます。見始めると意外とはまるんだよなぁ。
対象の性別が違うが。
少女が少年漫画を見て面白い、といっているようなものだろうか?
別に、隠し立てするような事ではないが、三上に知られるのは無性に嫌だ。
1ヶ月以上はからかわれるネタになってしまう。
バレちゃだめだバレちゃだめだ、と思いながら、その気持ちを悟られないように、いつも通りに振る舞う。
「見ると思うんだけどなぁ。だって、セカイ君って案外雑食でしょ?「物語」って名のつくものなら何でもいけような気がするけど」
「おおっと、そういえばパンを忘れたんだったな。うん、取りに戻らなければ」
余計なことで勘がいい三上をごまかすために、大げさに振る舞う。
「幽霊にでも取り付かれた?」
「というわけで、俺は一旦戻るぜ」
「ちょっと待って」
適当に捲し立てて、戦略的撤退を試みようとしたが。
きびすを返した俺の手を掴み、三上は待ったをかけた。
ぐぅ、逃げの一手すら許してくれないのか。
「ど、どうしたんだよ。早くしないと、飯が食えなくなるんだが」
「ううん、ただちょうどいいかな~って、思ってね」
何が?と疑問を浮かべる間もなく、水色の包みを突き出してきた。
「ホワイ?それが?」
「見て分からないの?弁当だよ弁当」
「いやそれは分かるけど、何で俺に見せびらかす必要があるんだ?」
話がまるで見えてこない。何?新手の精神攻撃か?
死の呪文の開発は諦めて、相手の精神を木っ端微塵にする魔法の実験でもしているのか?
「う、うう。わざとなんだよね。いじわる」
「いやいやいや、それはこっちのセリフだ。精神を病ませる魔法なんか使いやがって」
「ひ、ヒドイ!せっかく頑張ったのに!精神が病むって、ヒドイよ」
「お前の頑張りは、非常に実に結んでいるな。おかげで俺は今絶賛パニック中だ」
「ば、」
そこで、まるでブレス攻撃をするかのように、思い切り三上が息を吸い込んだ。
「ばかああああああ!」
「うお!」
超高音の攻撃が、俺の耳を攻撃した。とっさに耳を塞いだが、一歩遅れてしまった。
頭がくらくらする。
「これでも食らえぇ!」
「うおっと」
畳み掛けるかのように、何かを投てきしてくる。
重量のある四角いものが、俺の胸に当たった。慌ててそれをキャッチする。
三上がさっきまで持っていた弁当だった。
「食べて!精神的に病んでも、雪山に遭難したとしても。せっかく作ったんだから」
「最後のシチュエーションを出してきたのは、分からないけど。え?これもしかして俺のために作ってくれたの?」
「お礼。前、課題手伝ってくれたし」
頬をほんのり赤く染めながら、ぶっきらぼうにいい放つ。
どうやら俺は勘違いをしていたらしい。そして、こんな三上を見たら、別の意味で勘違いをしそうになる。
「何お前?俺のこと好きなの?ごめんなさい。あなたとお付き合いをすることは出来ません」
「なんで勝手に好きって断定されて、勝手に断れないといけないの!?」
「ありゃ違ったか。不本意だが、さっきの告白はなかったことにしてやる」
「不本意なのはこっちだよ!」
「そうか?」
「そうだよ。私の好きな人は白馬の王子さまって決まっているの!」
興奮して紅葉した顔を俺に近づける。近い近いって。
しっかし、こいつはまたそんな事をいっているのか。
「白馬の王子様」なんて、想像上のものでしかない。だからこそ、貴重性が生まれるのだ。
それを三上は実現すると、本気で考えているふちがある。
まあ、文字通り、白馬に乗った王子様想像しているわけじゃないと思うが、それでも偶像は偶像だ。
現実を見ろ。なんていうのは簡単だ。けど、三上の深くに根ざす、問題のような気がするんだよなぁ。
否定はしない。けど、からかうぐらいはバチが当たらないだろう?
「流石は花も恥じらう乙女カッコ笑い。素晴らしい理想をお持ちで」
「カッコ笑いって口で言うなぁ!」
目をバッテンにさせながら、俺の胸元ポカポカ叩く。
触れあうだけのような微笑ましいものではなく、全力でブローをヒットさせてくるから痛い。
「痛いって。直訴すっぞ」
「じゃあ私は名誉毀損で訴える!」
カッコ笑い扱いだけで名誉毀損が通ったら、日常的な会話すら出来なくなるぞ。
「ああ言えばこういう。ちった大人しく、っていうか淑女の嗜みを覚えろ。一応そんなんでもお嬢様なんだろ?」
「セカイ君だけには言われたくないよ。こんな立派な花も恥じらう乙女を捕まえて」
「そですね、花も恥じらう乙女ですね。…ぶふぅ」
「吹き出すなぁ!」
だってねぇ、平気で人の鳩尾を殴りに来る奴がですよ。乙女なんて。
熟成しきった真っ赤な三上の顔を見ていると、無性にからかいたくなるが…………そろそろ止めとくか。
先ほどと形勢が真逆になり、俺は満足する。
いやー、からかわれるのは嫌だが、からかうのは好きだな 。
隠しもせず笑いを浮かべる。
俺の顔を見て、考えていることが分かったのか、息を整え平然だとアピールする。
その様子もまた、俺を楽しませているのだと気づかずに。
「あー、もうこんな時間。時間がないから早く食べないと」
スカートのポケットからスマホを取り出し、時刻を確認する。
しまった、俺のスマホ、教室に置いてきてしまった。
まあ、引き出しに仕舞っているし、公然と盗みを働くバカはこの学校にいないよな。