自分語りという黒歴史
「お前なんて、産まれなかったら良かった!」
「この悪魔が!」
「悪夢」に分類される夢は、だいたいこの夢を見る。
幼き頃、まだ暴行を加えてくる親にすがるしかなかった、弱かった時の自分。
鼻孔に突き刺さる酒臭さに、生ゴミの腐敗臭。
とても人が生きていけない世界に、俺はいた。
まるでゴケブリのように、家の隅で震えて膝を抱えていた。
ああ、覚えている。覚えているさ。今でも鮮明に。あの時の屈辱、恐怖、惨めさ。
自分の膝に爪を立てて、密かに決意をしたものだ。
「この境遇をいつか、倍にして返してやる」と。
────だから、だろうか。
「君の願いはなんだい? 君が想像できる程度の願いなら、一つだけ叶えてあげるよ」
厳かで、慈しむような、憐れむような、ちぐはぐな声が、頭に響いた。
周りを見渡しても、あるのはただの小さな机だけだ。
でも、あの時の俺は、その存在を驚くほどあっさりと受け入れた。
そして考えるまでもなく、口を開いた。
「僕の願いは────」
何を言ったかは覚えていない。何も起こらなかったし、自分の願望が作り出した、幻聴だったのだろう。
ただ、あの声が聞こえて、俺は肉親を追い詰めるようになった。
覚悟を決めたのだ。腹を括ったのだ。
にっくき敵をぼこぼこにし、ブタ箱の中に放り込んでやって、「平穏」を手に入れることが出来た。
けれど、俺の芯の部分は、未だ叫ぶのだろう。
あの時の屈辱を忘れるな。覚悟を冷徹さを受け入れろ、と。
故にこの夢を時々見る。最近夢見る間隔が短くなってきたのも、脳が警鐘を鳴らしているんだろう。
────まぁ、胸くそ悪くなるだけだから、45度のおじぎをして、丁重にお断りしたいが。
川沿いの通学路。既に桜は散っており、最近は朝にも関わらず、陽が強くなってきた。
ブレザーを脱ぐか脱がないか、といった微妙な気温。
若干蒸し暑さを覚えなくもないが、時折涼やかな風が肌をなでる。
「キャー! カッコいい!」
「やっぱり何度見ても、見惚れちゃう!」
朝から、女子たちの甲高い声が、俺の優雅な登校を邪魔する。
なんだ、なんだ? 有名人でも通ったか?
何て現実逃避をしたくなる程、俺は精神的にまいっていた。
一縷の望みをかけて、俺は周囲を見渡す。
…………ああ、やっぱり。
希望が裏切られ、落胆をする。
制服を校則違反ギリギリまで、っていうか黒よりのグレーなんじゃないか?。
すらりと伸びる足を、スーパーの安売りバーゲンセールのように晒している。
あの女子たちは、皆一様に俺の方を見ていた。
「こ、こっち見た! ヤバイヤバイ!」
「えー、ズルい! 私なんてずっと見ているのに!」
公衆の場で、色めき立つ少女達。
俺はそれを見て、気づかれないように、割りと大きめのため息を吐いた。
そう、俺こと葵セカイは異常にモテる。
はいそこ、石を拾って野球選手並みのきれいなフォームしない。
別にコミュ力が高かったり、ラノベ主人公的な自己犠牲精神も持ち合わせていない。
っていうかもう、少女達が答えを言ってたな。
じゃあ、遠回しなく一言だけ。
俺はなぜか、めちゃくちゃ顔の造形がよい。
はいそこ、岩石を放てきしない。その仕事は巨人な獣だけにさせといて。
脱線しちゃったな。じゃあ何で、そんな朝からため息を吐いているのか、だな。
普通ならカッコ良さなんて、それこそ七つの玉を集めて竜に願うくらい重大なものだろう。
バレンタインでは、チョコが鞄に入らない程一杯になる。何もしなくても、人気のない居場所に呼び出されて告白される。
こんな勝ち組野郎。海に行ってサメに食われとけ!
そう敬愛する諸兄らは思うだろう。
俺だって、見ているだけだったらそう思うし、爆殺…おっと、爆発テロ作戦を組み立ててしまうことだろう。
だが、だがだ。少しその怒りを押さえて、考えてみてほしい。
自分の容姿だけしか見てくれず、ただカッコいいだけで騒ぎ立てられる。
日本の素晴らしい言葉がある。「何事もほどほどに」と。
容姿とは仮面のようなものだ。産まれたときから設定された、ただの仮面。
それしか見られず、俺のうぶで清らかで純粋な内面を無視されるのだ。
それだけならいいが、問題はもうひとつある。
ってか、そのもうひとつが憂鬱なんだ。
「あいつちょっと顔がいいからって、調子に乗りやがってよ!」
「ほんとあいつ調子乗ってるよな!」
俺をまるで親の敵のように見る、男子達。
無遠慮に注がれる男子達の目には、例外なく、嫉妬と敵がい心が宿っている。
────これでもまだ、マシなんだよな。
小学生の時は酷かった。思い出すと鬱になるから省くが、とにもかくにも、この容姿のせいで酷い目に遭った。
「右に向けば右」の日本人は下に向かう線だけではなく、上に向かう線も都合が悪いらしい。
それに見向きもせずに、自分のいいような偶像を押し付けてくるなんて、苦痛以外のなにものでもないだろう?
だから俺は思うんだ。「おめえらの偶像になった覚えはねぇ、」と。
??「私の出番はどこなのかな?」
セカイ「まあまあ、とにかく落ち着け。次回きっと出てくる」
??「セカイ君だけ出番があってズルい。ザ○キーマ」
セカイ「そりゃあ主人公だからな。不在じゃ色々と不味いだろう。ってかおい! 人を殺そうとするな!」
??「自分語りという黒歴史って、割りと本当にそうだったね」
セカイ「ナチュラルに話を逸らすな。ああくそ話が進まねぇ! そうだよ! 黒歴史だよ! 今見てみると、死にたくなるよ!」
??「なにその、異常なテンション。び、びっくりしたんだけど」
セカイ「わ、わりい。じゃあもう、俺が発狂しないために、とっとと仕事を済ませるか」
??「ん、そうだね。漫才おしまい」
セカイ「お前よぉおおおお!わざと俺をおちょくってたのかよ!俺の反省を返せ!」
??「次回、絶対的なヒロインは主人公と結ばれてハッピーエンド」
セカイ「勝手に物語を終わらせるな。次回」
??「ヒロインとの夫婦漫才」
セカイ「本編で覚えとけよ!」